ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 津久井進著 「大災害と法」 岩波新書

2013年03月01日 | 書評
大災害の被災対応と復旧・復興に法の課題とはなにか 第1回

(序)
 著者の津久井 進の略歴をみると、 1969年兵庫県にうまれ、1993年3月 神戸大学法学部卒業 、1995年1月神戸淡路大震災に会った経験が本書の元になったそうだ。1995年4月 神戸弁護士会(現兵庫県弁護士会)入会 し、1999年4月 芦屋法律事務所へパートナーとして入所 、2002年4月 弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所設立(芦屋事務所) した。現在は西宮事務所にいる。取り扱い分野は一般民事事件、家事事件、震災関連事件、個人破産、個人再生、負債処理などを扱っているようである。日弁連災害復興支援委員会副委員長である。私が津久井進氏の災害問題の法制度を知ったのは、内橋克人編 「大震災のなかで」(岩波新書 2011年6月)のⅣ「復興のかたち」の中で氏が書いた「法は人を救うためにある」を読んだからである。津久井氏の災害問題への取り組みの出発点である阪神淡路大震災後に、「被災者生活再建支援法」、「マンション建替え円滑法」、「NPO活動促進法」、「耐震改修促進法」などが生まれたが、積み残された課題も多かった。それを踏まえて2011年3月11日の東日本大震災直後の被災対応と法問題を扱ったのが「大震災のなかで」である。それから1年後の今日、政府の震災関連法が矢継ぎ早に出される中で、その法が被災者のためになっているのかどうかを検証するために、本書「大災害と法」が著わされた。著者は震災津波災害後、岩手県弁護士会の巡回法律相談に参加し避難所を訪問した。被災者の方が抱えている問題の殆どが生活の法律問題ばかりであったという。生活上の悩みは多様であり、切実であり、また深刻であったという。「法は人を救うためにあるはずだ」という信念で、東日本大震災と福島第1原発事故の被災者の生活目線に立って災害法関連法を見渡す案内書になればと本書を書いたという。災害法は数が多い。主要な法律だけでも100を超える。本書は3部にわけて、第1部「法のかたち」で法の歴史と体系を概括し、第2部「災害サイクルと法」は本書の中核をなす内容である。第3部「法の課題」で今回の災害の法対応の問題点を総括し展望する。
(つづく)


読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月01日 | 書評
古典経済学が説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第41回

第7章 植民地について(3)
 イングランドの北アメリカ植民地には生産物に対する排他的独占会社はなく、港や船舶の制限もなかった。ヨーロッパの諸国は自国の植民地との貿易を独占しようと、さまざまな船舶規制・輸入禁止を行なった。他国の植民地では高い母国の商品を買わざるを得ず、また母国へ法外な安値で生産物を売らざるを得なかった。しかしイングランドの北アメリカ植民地にはより広範な市場が保証された。フランスの植民地もイングランドと同じく寛大自由な政策を取った。イングランドの植民地では母国の産業を保護する「列挙商品」(砂糖・煙草・綿花・藍・染料など)を除いては植民地に他する貿易の自由がほぼ認められていた。イングランドの植民地では母国の生産を阻害しない範囲で列挙製品についても奨励金や免税措置がとられた。しかし砂糖の精製については極端な禁止措置がとられたので、植民地自らの資本や労働を最も有利な方向で使用する神聖な権利を侵害した。母国イングランドでは植民地からの輸入を奨励するため、他国からの輸入には高い関税をかけ、植民地からの輸入には奨励金を与えた。アメリカ植民地は貿易以外の点では、立法・行政について他のヨーロッパ諸国の植民地に比べかなりの自由を享受していた。外国貿易の一部を除いて、北アメリカ植民地は自分のことは自分の思うように処理できる自由を有していた。植民地議会は自分の総督を選挙し、徴税官を任命できるのでキ共和主義的で平等という点でも他の植民地に比べると優っていた。氏ペインやポルトガルの植民地では本国の専制政治が持ち込まれていた。フランスの植民地の繁栄はイングランドに比べて、精製砂糖の生産を抑制せず、かつ奴隷の使用に巧みで資本を自力で蓄積したことによる。しかしながらスミスは植民地政策を無条件で讃美するわけではない。ヨーロッパの殖民を促進したのは、金銀追及の重商主義の愚劣と略奪という不正が根本の動機であったことは隠せない。特にスペインのメキシコにおける征服は個人の蛮勇に任せ本国の政府は何一つ助力しなかった。イングランドのアメリカ殖民にも本国政府も何も関与せず、したことといえば母国の市場を拡大し植民地市場を独占することであった。それは植民地の発展を促すというより阻害要因に転じた。スミスの見解は植民地政策の愚劣を列挙することであったが、しかし植民地は発展しヨーロッパはその犠牲において富を獲得したといえる。植民地市場を経営する観点はヨーロッパ以外には無いことも事実であった。
(つづく)


文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月01日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第62回

* KHM 97  命の水
 王様には三人の王子がいました。上の王子二人は高慢で腹黒い人たちで、末の弟は礼儀をわきまえた優しい人でした。王様が病気になり命が危ない時期になって、三人の王子たちは生命の水を王様に飲ませれば恢復すると聞いて、先ず一番上の兄が旅に出ましたが、途中一寸ぼうしに会いぞんざいな態度で馬鹿にしたので、一寸ぼうしはこの王子を山の中に閉じ込めました。2番目の王子も一寸法ぼうしに冷たく当ったので山に閉じ込められました。末弟の王子は礼儀正しく一寸ぼうしに生命の水の在り処を聞きますと、魔法のかけられた御殿の井戸の中にある事を教えてくれ、そして鉄の鞭とパンを王子に与えました。鉄の鞭でご門を叩くと門が開き、護衛のライオンにパンを与えるとおとなしく通してくれました。御殿の中にいたお姫様の案内で生命の水を得て、帰りには一寸ぼうしに閉じ込められた兄たちを解放してもらい三人揃って城へ帰りました。一寸法師は末弟に剣とパンを与えました。パンは飢饉に苦しむ王国を助け、剣は戦争中の王国を勝たせました。こうして末弟の王子は3カ国に善を施しました。途中兄らは隙を見て生命の水を盗み出し、海水をいれました。そのため末弟の生命の水を飲んだ王様の様態は悪化し、兄らの生命の水を飲むと全快しました。王様を毒殺するつもりだという讒言で末弟は銃殺されそうになったのですが、助けた王国からお礼の黄金財宝が王様に届いて、王様は末王子の心を知りました。そして兄らは逃亡し、御殿のお姫様と結婚し王様になりました。この話は末子成功譚です。

* KHM 98  ものしり博士
 実に馬鹿馬鹿しいお話で、これが子どもらの反面教師になるというお話。貧乏な百姓がある博士が裕福な生活をしているの見て、博士になるにはどうしたらを尋ねました。博士がいうには、綴りかたの本を買い、博士らしい衣裳と振る舞いを整え、「物知り博士」の看板を出せばいいというのです。あとの話は荒唐無稽で、こんないい加減なことでも人を感心させて金儲けになる程度の話です。「ものしり博士なぞは信用するな、みんなでたらめさ」と言っているようです。
(つづく)