ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 津久井進著 「大災害と法」 岩波新書

2013年03月08日 | 書評
大災害の被災対応と復旧・復興に法の課題とはなにか 第8回

第3部 「法の課題」 (1)
 法の課題というよりは、これまでの議論で落としてきた話題を集めたものである。避難者の支援問題、原子力災害、個人情報保護問題を論じる。終章で災害対応の当事者としてボランティア、女性、自治体の問題を取り上げる。東日本大震災では被災後1年が経過した時点で、避難者の数は34万4290人に及び、県外避難者は7万2892人であるという。原発避難者は長期間にわたって帰還が困難であると予想される。福島県では被災後1年で被災関連死は764人に及び、殆どが避難生活中のことであった。被災者の住まいは「避難所」から「仮設住宅」そして「公営住宅」をたどるが、それ以外の人々(自主避難者、県外避難者など)は法的支援の埒外に置かれる。避難者の数さえ把握していない。原発災害避難者に対して「避難住民に係る事務処理特例および住所移転者に係る措置に関する法律」(2011年)が成立した。これは行政の事務処理に過ぎず、避難者の便宜を図ったものではない。多くの自治体では入居対象者を原発避難者に限定しているが、松本市などは子ども女性の自主避難者にも門戸を広げている。自治体の対応に格差が見られるは災害救助法の運用の仕方にある。その根拠は厚生労働省が積極的な避難者の保護指針を出していないことである。第2に災害救助法の求償の仕組みがうまくいっていないためである。避難地でかかる費用の請求先が被災自治体に振り替える手続きに齟齬をきたしていることと、被災自治体が救助費の上限を抑えていることであるという。多くの避難者を受け入れている新潟市、山形市、米沢市が災害救助法の基準外になっている避難者支援費用の助成を国に要望している。また現物支給制度も大きな阻害要因である。避難者に居住移転の自由は無いのだろうか。施策の客体として選択の自由が奪われていいものだろうか。お世話になって居るのだから文句はいうなということではストレスも貯まるのである。国際基準では避難者の保護は国家の責任であり、避難者の消息を探ること、帰還や再定住を図ることも行政の責任だということが国際的合意である。
(つづく)

読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月08日 | 書評
古典経済学が説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第48回

第5篇 国家の収入(財政策)
第1章 主権者または国家の経費について(3)

[3節:公共事業及び教育]
主権者の第3の義務は公共事業を起こし、教育という施設(機関)を運営維持することにある。国家防衛や裁判の施設以外にも、政府は商業を助成するためと、人民の教育を振興することが主な目的となる。第3節は3項目からなるが、第1節は「公共事業と公共施設と経費」、第2節は「青少年教育のための施設と経費」、第3節は「あらゆる年齢層の教化する為の施設と経費」である。なお教育については青少年教育のための学校だけを述べ、成人の教化のための宗教施設(英国国教会)の運営は現在にはそぐわない内容なので割愛した。
第1項「社会の商業を助成するための公共事業と公共施設」についてまず考察しよう。橋、道路、運河、港など、国の商業を助成する為に公共事業を起こし維持してゆくのは経費がかかる。この経費を極く小額の通行税から捻出することも出来よう。(日本では自動車重量税、揮発油税、高速道路通行料金、自動車税など決して小額ではないが) 通行税も運送業者が前払いするものの結局は消費者が負担するのである。税を払って便利に運送し運送費を下げることは「上手に払って、上手に得をする」(税務署のキャッチコピー)、税金を徴収する方法としてこれ以上公正な方法はないだろう。商業が必要な場所に施設を建設することは、商業が支払うことが出来る程度に見合ったものにならざるを得ない。(日本の建設省と道路族は道路を作る土建業者の公共工事優先で、タヌキが通るぐらいの需要もない高速道路を作り続けてきたが) 運河の通行税つまり水門税は個人の資産であれば、自分の利益のために運河を整備し補修しておくものである。私有の有料道路も同じことである。ところがこれらの通行税を政府官僚に任せると、自分は何の利害関係もないから、維持管理に不注意となる。そして通行税を国の一般財源に回せという意見があるがこれは適切ではない。国家が緊急の折に通行税が意味もなく値上げされると、わが国の国内商業を助成するどころか国内商業に重荷になってしまうだろう。重量税(もちろん荷物の重量税である)というものは、道路の補修という単一の目的に振り向けられるときこそ至極公平な税であるが、一般財源に回すとき経費節減と称して税だけ取って補修費を削るなら至極理不尽な税に堕落する。フランスのように公道の補修が行政権力の直轄になると弊害のみが目立つようになる。地方行政の管理のもとで地方の収入による方が、国による管理より道路は立派に管理される。たとえばロンドンの道路照明や舗装を、国全体の住民の税金で賄うことは我慢ならないだろう。(首都東京の公共施設を全国の税金で作るならこれは地方収奪といわれる) 
(つづく)


文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月08日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第69回

* KHM 110  いばらのなかのユダヤ人
 お金持ちのお百姓の下男がいました。下男は働き者の正直者、お金を気にしないお人よし、心配を苦にしないのんき者の男でした。3年間奉公してけちな百姓からたった3ペレルの金貨を給金としてもらって旅に出ました。途中に小さなこびと(魔法使い)にあって、金貨をみんなこびとにあげました。そのかわりこびとから、吹き矢と胡弓と願い事を聞いてもらえる力を与えられました。あるところでユダヤ人に会い、小鳥の声に聞き惚れているので、吹き矢で射落としてやりました。そして胡弓を奏でるとユダヤ人は踊り出し止めることが出来ません。さんざん棘で傷を負い、胡弓を止めてもらうための財布を上げることにしました。ほうほうの態で逃げ出したユダヤ人は裁判所に訴えました。捕まった下男に裁判官は死刑を言い渡しました。裁判官は下男の最後の願いを聴かざるを得なくなって胡弓を吹かせました。こうしてユダヤ人や裁判官や町の人全員が踊り狂いました。下男はユダヤ人に財布の中身をどこで掠めたのかを問いただすと、これは盗んだと白状したので今度はユダヤ人が死刑に処せられたという話。

* KHM 111  腕利きの狩人
 若い錠前職人が腕磨きに世間に出ましたが、途中で錠前やがいやになり狩猟が好きになりました。ある森で緑色の服を着た狩人(魔法使い)に会い修行をしました。年季が明けると猟人から必ず当たる空気銃を貰いました。この銃を持って森に入り込み、夜のなって明りをみつけ大入道三人が焚き木をして牛の串焼きを食っていのを見つけました。大入道の腕から串焼きを打ち落とし、大入道に腕のいいところを見せ付けました。大入道らは職人を呼びつけ仲間に入れて、城のお姫様を盗み出す計画に加えました。夜猟人は番犬を撃ち殺し城には入り、大入道を外に待たせて単身部屋には入りました。壁に刀がありこれを手に入れ、上靴、襟巻き、お姫様の襦袢の片方を切って証拠品として背嚢に入れました。そして大入道らにお姫様をやるのが嫌になり、戸の小さな穴から大入道を呼び込み、1人ずつ刀で首をはね退治しました。その舌を切り取ってこれも背嚢に入れました。翌朝王様らは大入道の首を取ったものは誰かと尋ねますと、隊長が私ですと名乗り出ました。王様はお姫様を嫁にやると約束しましたが、お姫様は隊長を嫌がって城を出て、森の中で商い生活を始めました。若い猟人がその店に立ち寄り話をするとお城のお姫様だとわかり、証拠品をみせて大入道を退治したのは自分だという事を分からせました。隊長は処刑され、猟人とお姫様は結婚しました。
(続く)