市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第12回
第4講 第2篇「定義と概念」
第4講:第2篇「定義と概念」では、基本的概念の解説として、経済変量の単位、経済分析のなかで期待の果す役割、所得の概念、貯蓄と投資の概念について語られる。マーシャル、ビグーがいう「国民分配分」とは毎期の産出量や実質所得の大きさを測るものであって、生産物の市場価値や貨幣所得を表すものではない。経済全体の産出物が多種多様で構成されているので、一つの尺度で測ることは不可能である。一つの財だけの経済という特殊なモデルでは可能である。資本設備に陳腐化したり消滅した古い設備と新しい設備の比較は難しい。一般的な物価水準とはあいまいな概念である。そこでケインズは雇用理論を展開するに当たって、2つの基本的な単位を導入する。貨幣単位と賃金単位である。労働を単純労働に還元した雇用単位、労働単位は雇用量を量る単位であり、賃金単位は労働単位の貨幣賃金である。こうして同質的なものとして議論する。ケインズは貨幣と労働の2つの基本的な単位を用いて議論した。ケインズは単純化のため1財経済マクロモデルで得られた結論を一般化しても大体正しいと考えた。企業の「期待」概念は価格、将来の収穫についての期待であり、企業の雇用は短期の期待に依存して決まってくる。投資水準の決定は将来予想される費用と売上とに関して、その時点で形成される期待に基づく。各時点での雇用量はその時点において存在する資本設備を念頭に置きながら、その時点の期待に依存して決まってくる。
企業は期末に経済活動の結果として、収入から使用費用を引いた粗利潤に期末資産を足した価値を持つ。国民所得とは収入から使用費用を減じた価である。このあたりの詳細は原価分析となり伝統により算入項目は多少異なる。経済全体の消費と投資はそれらの総和である。所得は売上から使用費用を引いたもの、消費とは売上から購入を引いたもの、貯蓄は所得から消費を引いたものである。「投資は貯蓄に等しい」 これが有名なケインズの命題である。総投資というのは資本資産の購入一般を指す。投資は広い意味で資本ストックの増加分で、固定資産、運転資本、あるいは流動資本のすべてを含む。投資についての異論はこれらから何を省くかという点である。ケインズは在庫投資は除くべきであると云う。貯蓄と投資の乖離を生み出す要因として所得の定義の問題がある。貯蓄が投資を上回る時ケインズのいう所得が減ったことになる。預金者と銀行が結託して、貯蓄が銀行体系の中に消滅し投資に吸い込まれてしまうか、銀行の体系がそれに対応する貯蓄がなくても可能であるように想定される。それは銀行体系の信用の増加の結果である。人々が保有したいと思う貨幣の量が銀行体系によって創出された貨幣の量に等しくなる。これが貨幣理論の基本的な命題となる。
(つづく)
第4講 第2篇「定義と概念」
第4講:第2篇「定義と概念」では、基本的概念の解説として、経済変量の単位、経済分析のなかで期待の果す役割、所得の概念、貯蓄と投資の概念について語られる。マーシャル、ビグーがいう「国民分配分」とは毎期の産出量や実質所得の大きさを測るものであって、生産物の市場価値や貨幣所得を表すものではない。経済全体の産出物が多種多様で構成されているので、一つの尺度で測ることは不可能である。一つの財だけの経済という特殊なモデルでは可能である。資本設備に陳腐化したり消滅した古い設備と新しい設備の比較は難しい。一般的な物価水準とはあいまいな概念である。そこでケインズは雇用理論を展開するに当たって、2つの基本的な単位を導入する。貨幣単位と賃金単位である。労働を単純労働に還元した雇用単位、労働単位は雇用量を量る単位であり、賃金単位は労働単位の貨幣賃金である。こうして同質的なものとして議論する。ケインズは貨幣と労働の2つの基本的な単位を用いて議論した。ケインズは単純化のため1財経済マクロモデルで得られた結論を一般化しても大体正しいと考えた。企業の「期待」概念は価格、将来の収穫についての期待であり、企業の雇用は短期の期待に依存して決まってくる。投資水準の決定は将来予想される費用と売上とに関して、その時点で形成される期待に基づく。各時点での雇用量はその時点において存在する資本設備を念頭に置きながら、その時点の期待に依存して決まってくる。
企業は期末に経済活動の結果として、収入から使用費用を引いた粗利潤に期末資産を足した価値を持つ。国民所得とは収入から使用費用を減じた価である。このあたりの詳細は原価分析となり伝統により算入項目は多少異なる。経済全体の消費と投資はそれらの総和である。所得は売上から使用費用を引いたもの、消費とは売上から購入を引いたもの、貯蓄は所得から消費を引いたものである。「投資は貯蓄に等しい」 これが有名なケインズの命題である。総投資というのは資本資産の購入一般を指す。投資は広い意味で資本ストックの増加分で、固定資産、運転資本、あるいは流動資本のすべてを含む。投資についての異論はこれらから何を省くかという点である。ケインズは在庫投資は除くべきであると云う。貯蓄と投資の乖離を生み出す要因として所得の定義の問題がある。貯蓄が投資を上回る時ケインズのいう所得が減ったことになる。預金者と銀行が結託して、貯蓄が銀行体系の中に消滅し投資に吸い込まれてしまうか、銀行の体系がそれに対応する貯蓄がなくても可能であるように想定される。それは銀行体系の信用の増加の結果である。人々が保有したいと思う貨幣の量が銀行体系によって創出された貨幣の量に等しくなる。これが貨幣理論の基本的な命題となる。
(つづく)