ブログ 「ごまめの歯軋り」

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岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」  光文社新書(2015)

2019年04月30日 | 書評
都忘れ

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む  第8回

第5章) 中国伝統医学の考え方と治療法(その2)

中国伝統医学のシステム医学による治療法の例を、高血圧と糖尿病治療および難病の治療についてまとめる。

① 高血圧: 西洋医学では高血圧の治療は、対症療法でただ降圧剤を一生投与するだけである。中国伝統医学では血圧をあげている原因を取り除く治療を行う。だから治癒が期待できる。高血圧の原因には二つある。内臓の酸素不足に対する自己防衛と、血圧を上げる人体の仕組みが狂った場合である。高血圧の患者の病態を見ると、神経の異常が100%、胃腸の異常が80%、ホルモンの異常が60%、心臓の臂場が30%で見つかった。人によって原因の組み合わせは複数あり。原因も多岐にわたる。また高血圧は年齢によってその原因は異なる。40才の高血圧と70才の高血圧ではその原因と治療法も異なる。したがって治療法も人それぞれ違うものになる。次に高血圧の原因別の分類と治療法を紹介する。これらもモデルケースに過ぎない。
A:肝陽上亢(神経の異常による高血圧) 精神的ストレスによる神経の熱を冷やす竜胆、黄連、アロエなどの処方を用いる
B:痰湿阻逆(胃腸の痰による高血圧) 胃腸に負担をかけすぎると神経系を傷害し血圧があがる。治療は痰湿を取り除く竹如温胆湯などを用いる。 
C:肝腎陰虚(水分不足による高血圧) 香辛料の過剰摂取、精神ストレス、老化は全身の水分不足となる。腎陰(水分)を補う六味地黄丸、七物降下湯を併用する。
D:陰陽両虚(水分不足と代謝の低下による高血圧) 動悸息切れ夜間頻尿など老人特有の症状がでる。六味地黄丸に牛車腎気丸に桂枝加竜牡蠣湯を併用する。
E:気虚血於(エネルギー不足が原因の血流減少による高血圧) 脾虚(消火器系の機能低下)による疲労、不眠、めまいの症状がエネルギ不足によって加速される。補中益気湯、帰脾湯などを用いる。
F:衝任虚損(更年期の高血圧) 女性特有の火照り、イライラ、耳鳴り、不眠、高血圧、高コレステロール症が出る。腎を補う二仙湯と交感神経を安定させる逍遥散を併用する

② 糖尿病: 西洋医学の糖尿病治療は上がった血糖値を下げる対症療法である。インスリンの注射、インスリンの分泌促進、肝臓での糖化を抑える薬、腸管からの吸収を抑える薬などを使用する。中国伝統医療では血糖値上昇の原因を取り除く治療を行い、患者の心身をリセットする。
A:肺胃燥熱(肺と胃の熱による乾燥) 典型的な糖尿病で強い渇きを覚え、大量の水を飲み頻尿で尿は濁っている。次第に痩せて来る。原因は飲食の不摂生で出で生じた熱が肺を焼く。胃の熱を冷やす白虎加人参湯、石膏を処方し、便秘があるなら麻子仁丸を用いる。
B:気陰両虚(エネルギー不足と陰液の欠乏) 原因は脱水とエネルギー不足。動悸があり不眠症など精神症が見られる。気と水分を補い胃熱を冷やす玉女煎等を用いる。
C:肝腎陰虚(神経や内分泌器官の陰液の欠乏) AとBが長く続き全身が乾燥する。陰液を補う治療を行い、六味地黄丸、滋陰降火湯、当帰飲子を併用する。
D:陰陽両虚(陰液の欠乏とエネルギー不足による冷え) A,B.Cの状態を経るとこの状態になる。顔色は黒ずみ手足は冷える。治療は陰液を補い体を温めること、八味地黄丸を用い、炮附子、麦門冬湯を併用する。
E:脾胃気虚(胃腸の虚弱) 原因は消化器の機能低下。脱水状態になり、下痢が続き疲れやすい。治療は参苓白述散、八味地黄丸を用いる。
F:脾胃湿熱(消化器の水分が煮詰まった状態) 消化管に生じた湿と胃に生じた熱の結合が原因。多食多飲多汗、軟便の症状が出る。黄苓滑石湯を用いるが、脾胃気虚(消化器の機能低下)があるのでその治療も合わせて行う。

③ 難病: 中国伝統医学では西洋医学とは違うシステムと薬物で治療が可能である。だから現代医学で「治療法がありません」と言われた難病も治療が可能な場合がある。これを欧米では「補完・代替え医療」と呼ぶ。次に筆者の経験をもとに治療が成功した例を提示する。
A:脊髄小脳変性症 小脳が徐々に変性萎縮するため、体のバランスが取れず歩行困難となり、最後は車いす生活になる病気である。優生に遺伝する病気である。異常な遺伝子は明らかになったが遺伝治療はまだ開発されていない。現在まで7例の脊髄小脳変性症(SCA6タイプ)に数か月20-30種類の生薬(肝と腎の陰液不足対策)を処方し、5症例で効果を確認した。SCA8タイプの症例では、腎、肺、肝の生体システムに異常が見られたので、竜骨や牡蠣をふくむ24種のブレンドでふらつきを改善した。実は遺伝性でない脊髄小脳変性症の方が多い。小脳への血流不足を改善するため桂枝、熟地黄、当帰など23種の生薬で2か月処方し歩行困難などの症状を改善した。
B:メニエール病 内耳性めまいを引き起こす疾患をメニエール病という。病気の本体は内耳の水膨れ状態(リンパ水腫)である。女性患者の方は消化器系の機能低下であったので、水分除去の生薬22種を処方し4週間後にはめまい・耳鳴りはなくなった。神経系の虚弱からメニエール病になった人には、神経系に対する生薬と神経系を正常化する治療を6か月続けて完治した。
C:潰瘍性大腸炎 下痢と血便が続く潰瘍性大腸炎患者には大腸の病態を見極めて原因を探り、精神的ストレスからくる神経の異常にも対処した処方で治癒した。潰瘍性大腸炎の病態は各人で全く異なるので、病態に応じた生薬を組み合わせないと効果はない。
D:シェーングレン症候群 涙が出なくて眼が乾燥する病気をシェーングレン症候群という。一般には膠原病の一種で主に中年女性に発症する。全身の乾燥状態がひどく、口の渇き、膝の痛み、火照り、瞼の痙攣、便秘など症状が多い。ある女性患者の場合、肺の乾燥と神経系の興奮とみて4か月の治療で完治した。つまりステロイド以外にも治療法がある。
E:シャルコイドーシス 肺、リンパ節、皮膚、眼、心臓、筋肉など全身諸臓器に肉芽腫ができる難病である。原因不明で現代医学では根治療法はなく、重篤な場合はステロイド治療が行われる。ステロイド治療には副作用があるので短期で治療をやめなければならない。中年の女性が全身倦怠感、微熱、霧見、眼圧上昇などシャルコイドーシスによるブドウ膜炎の症状で来院され、肉芽腫のマーカーである血清ACE値は非常に高かった。診断で病態は血液の炎症性充血、肺及び肝の熱と判明して、肺と血の熱を冷ます生薬25種類を投薬し、3か月後には症状は治まった。これが完治かどうかは今後の観察を待つ。
F:後縦靭帯骨化症 脊椎錐体の後縁を連結する後縦靭帯が骨化し、脊柱管が狭くなって神経が圧迫され、肩腕の痛みやしびれ、手足の運動障害を引き起こす病気である。脊柱管狭窄症の一原因である。整形外科では手術しかないというので漢方内科に来られた患者がいた。この人の病態は肺と肝の熱、血液の炎症性充血だと診断し、血流障害を改善する生薬を中心に、肺、肝を冷やす生薬を加えて25種類の生薬を処方した。3週間後には肩の痛みはなくなり症状は緩和した。後縦靭帯の骨化が短期間で治るわけではないので肩の痛みが軽快したのである。

(つづく)


岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」  光文社新書(2015)

2019年04月29日 | 書評
君子蘭(赤)

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む  第7回

第5章) 中国伝統医学の考え方と治療法 (その1)

西洋医学と中国伝統医学の根本的な違いは、西洋医学が帰納的(現象から本質へ向かう)であるとすると、中国伝統医学は演繹的(人体の全体像把握から個々の病態へ向かう)であるという言い方はある程度当たっている。ある高熱患者がいたとする。西洋医学ではさまざまな検査を行った結果、抗核抗体が発見されたら膠原病であると診断する。しかし膠原病だけが唯一の原因ではない。まだファジーというべきである。中国伝統医学では、ほぼすべての病態に関して分類や鑑別診断の方法が完成されている。中国の健康観は「黄帝内経」によると、恬淡虚無な生活をすれば無病息災、健康に生きられるといいます。中国伝統医学によると病気の原因は大きく3つに分類される。内因、外因、不内外因である。心身一如の治療を行う。内因とは怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七つの情緒変化である。これは西洋医学では精神的ストレスと呼ぶ。喘息は精神的ストレスから起きる場合があるが、西洋医学には抗ストレス剤は存在しない。外因とは季節や気候の変化が発病の原因となる場合である。風・暑・火・湿・燥・寒の6種に分ける。関節リュウマチは風湿病と言われ低気圧と共にやってくる。西洋医学では免疫異常が原因と考え、免疫抑制剤と抗炎症剤で治療を行う。花粉症も漢方では風邪と熱を除去する生薬を使う。生体の諸条件を改善するだけである。西洋医学では特異的IgE抗体結合による炎症と考え、抗ヒスタミン剤で鼻炎緩和治療ののみを行う。しかし特異的IgEは原因の一つに過ぎず、Th2リンパ球、好酸球、肥満細胞などが絡み合って発症するのである。特異的IgE遺伝子は一度リンパ球で作られると、一生消えることは無い。3つ目の原因である不内外因とは、暴飲暴食、外傷、過労がこれに相当する。体にダメージを与えることで五臓システムが不調になって起こる病気である。中国伝統医学では五臓システムは3つの媒体(気、血、津液)で養われるという。気とはエネルギーで、生命活動を維持する。血とは全身に栄養、酸素を運搬する。津液とはリンパ液、細胞の間質液、関節の潤滑液、消化液、唾液、汗、涙、尿などである。過労は筋骨を痛め、気、血を消耗する。
中国伝統医学で最も重要な五臓というシステム論を紹介する。西洋医学で五臓というと、具体的な臓器のことである。各臓器ごとに蓄積された医学知識・診断・治療経験は膨大である。それに対して中国伝統医学でいう五臓システムとは西洋医学の臓器概念とは違い、「生理システム」を意味している。中国伝統医学はすべてこの五臓システムから出発する演繹的医学である。人体は、異なる機能を持つ「肝・心・脾・肺・腎」という5つのシステムからなり、気というエネルギーで養われていると考える。陰陽思想の上に立つ中国伝統医学では、五臓の機能を陽とし、物質面を陰とする。五臓の陰陽の調和とは、機能と物質のバランスがとれている状態をいう。なおツボ(経絡)は針灸の重要な理論であり、電気抵抗の低い(電気がよく流れる電解質液、イオン液)の流れが皮下組織や臓器の間隙に帯状になって存在する。主なルートは12あるが「正経十二経」という。その多くは臓器の健康状態を知りことができるという。
心: 心臓による動脈血液循環と、意識、睡眠、精神を司る脳の働きをいう。ここから4つの臓器に命令を出していると考える。
肝: 情緒的には怒り、精神的にはものごとを成し遂げる意思、神経的には運動や交換神経を包含する。内臓としての肝臓機能に加え静脈系や毛細管の血液循環、免疫などを司る。
脾: 消化器系を意味する。胃、すい臓、腸などを含み、食物からエネルギーを生産する。臓器が弱体化しエネルギーが生産できないと気の不足の状態となる。
肺: 空気から酸素を得る呼吸作用を意味し、体表の免疫機能や皮膚の健康を維持する。
腎: 水分代謝が主要な機能で、内分泌系の統御システムとしてホルモンや遺伝子発現をコントロールする。成長、生殖、老化も重要な機能である。

(つづく)

岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」  光文社新書(2015)

2019年04月28日 | 書評
八重つつじ

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む  第6回

第4章) 高齢者医療の諸問題

大多数の高齢者は複数の慢性疾患を抱え服用している薬剤も多い。加齢に伴う生理的な反応、疾患の現れ方、治療に対する反応性、そして個人差が極め大きく出る。この多病、多様性が高齢者の特徴である。しかしながら現状では高齢者を対象とした診療ガイドラインは十分確立しているとは言えない。たとえば高齢者の血圧は、上(収縮期高血圧)下(弛緩期血圧)ともに安定せず、上(収縮期高血圧)が増える特徴がある。高齢者の血管の弾力性が低下し、流れが悪くなるのが原因である。それと同時に自律神経の働きも低下するので心臓の機能が落ちるからである。血流量を維持する調整機能のため高齢者は脳に血液を送るのに高い圧力を要する。降圧剤を使用して血圧が下がると、脳への血流量は減少しめまい、立ち眩み、だるさが現れ、脳梗塞や脳萎縮が進行するという論文がある。したがって脳梗塞や心筋梗塞がある場合、血圧は慎重にコントロールする必要がある。また高齢者には腎機能の低下があって降圧剤の排せつが遅れて重篤な血圧低下になる場合がある。近年医療はエビデンス(証拠)を重要視する医療EBMという診療理念が提唱されている。医師の個人的経験、勘、思い込みによる診療方法のばらつきを少なくし治療法はガイドラインに示され、EBMは比較臨床研究に基づいて統計学的に有効性が証明された治療を実施することで質の高い医療を提供するのである。EBMが有効なのは60-90%の患者とされているが、個人差、病態、病歴の違いなどでスタンダードな治療が功を奏さない場合もあるので、それを打開するのは医師の経験とアイデアである。EBMは臓器の働きが比較的均質な若年層に向いている統計医学である。高齢者は多様性を特徴とするので高齢者には個体差を重視するNBM(病歴、全人的話し合い)による診療が適しているようだ。つまりオーダーメイド医療であるべきだ。

嚥下障害、体の痛み、歩行障害、転倒、認知機能障害、うつ、せん妄、失禁、貧血、筋力低下、めまいなどの「老年症候群」が実は常用している薬の副作用であることも多い。これを「薬剤起因性老年症候群」と呼ぶ。なかでも抗不安剤や睡眠薬として服用しているベンゾジアゼピン系薬剤(商品名ハルシオン、リスミー、サイレース、デパス)が「薬剤起因性老年症候群」を起こしやすい。高齢者では腎臓、肝臓の働きが弱っているのでこれら薬剤の解毒・排せつがうまくゆかないからだ。ほかにトランキライザーといった抗不安剤・抗てんかん剤・抗うつ剤といったさまざまな中枢神経系薬剤はせん妄を引き起こしやすい。ベンゾジアゼピン系薬剤・フェノチアジン系薬剤といった薬剤は尿排泄困難、パーキンソン症候群、抑うつ症状、意識レベルの低下を引き起こす。老人が熱中症で病院に運ばれるニュースは毎年夏の恒例となっているが、ある老人は逆流性食道炎の薬(胃酸抑制プロトポンプ阻害剤)と降圧剤としてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤ディオバンの二つを長年服用していて、熱中症で入院した。喘息と便秘がなかなか治らなかったのは低ナトリウム血症を併発していたからであった。老人は低ナトリウム血症になりやすいので、逆流性食道炎の薬の投与は4-8週間に留めることが大切である。こういった高齢者の生活の質QOLに配慮しつつ高齢者特有の問題に対処する老年病専門医の充実が求められている。さらに高齢者疾患は多くは臓器機能低下からくるので、治癒を期待できない慢性疾患である。治癒より緩和療法が求められる。
中国伝統医学は抗老化治療を得意とする。中国伝統医学では、疾患は正気の虚、つまり生体の恒常性維持能力の低下がある場合、病気の原因が生体を侵犯しておこると考える。中国伝統医学の病気の治療とは、病態を除去すると同時に正気の虚を恢復させることを重視する。正気の虚を恢復させることは抗老化治療に通じるのである。加齢によって低下した臓器や器官の機能を強化することが治療目的の一つである。西洋医学では「年だから仕方がないですね」と言って治療を放棄されることが多いが、中国伝統医学ではめまい、失禁、腰痛、膝関節痛、頻尿といった老年症候群の症状の緩和を可能にする。

(続く)

岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」  光文社新書(2015)

2019年04月27日 | 書評
牡丹

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む  第5回

第3章) 対症療法と根治療法

現在、メディアや医療機関で悪玉コレステロールとか善玉腸内細菌とか、勧善懲悪思想で体内の物質代謝を二部するような考えが流布しているが、これはとんでもない割り切り方でそんな単純な二部法では体内代謝は説明できない。コレステロールは細胞膜を構成する重要な物質で、不足すると細胞膜の保護機能が弱くなりがんになりやすく成ったり、脳出血のリスクも上がります。コレステロールの代謝は一口で言うほど簡単ではありませんが、コレステロールは循環して利用されるシステムが出来上がっています。コレステロールは胆汁酸として十二指腸で分泌され、脂肪分解酵素リパーゼと一緒に働いて脂肪、ビタミンAの吸収を助けます。その90%は小腸で再吸収され、残りは大腸から排出されます。ですから肝臓から腸、腸から肝臓へと循環しています。これを腸肝循環と呼びます。こうしたコレステロールの輸送や、腸肝循環、代謝、分解、排せつのどこが障害を受けてもコレステロール値が高くなる原因です。高コレステロール血症にはそれ以外にも甲状腺の機能低下、エネルギー代謝、ホルモン異常などが多様な原因があります。現在の西洋医学の薬は原因一つに対して1対1の関係で作られています。一つの原因にしか対応できないので、病気を治すことはできません。対症療法に終始せざるを得ないのです。

C型肝炎ウイルスに感染しても人によって多種多様な病気や症状を引き起こします。このウイルスは一定の条件がが整わないと慢性肝炎や肝臓がんを起こすわけではないのです。ある研究では血清トランスアミラーゼ値が60以下のとき肝硬変や肝臓がんにはならないといわれる。西洋医学では体内に入り込んだC型肝炎ウイルスを抗ウイルス剤で駆除することは不可能です。又肝臓の組織自体を治療していないので、本当の肝炎治療になっていない。対症療法を行いながら本人の治癒力に頼っているに過ぎない。それに対して中国伝統医学には肝炎発症生体側の条件を整えながら、抗ウイルス作用のある生薬でC型肝炎発症を抑えることができる。肺炎などの感染症では西洋医学は抗生物質で細菌を駆除するだけである。炎症で破壊された肺組織を治療しているわけではない。だから原因不明の「間質性肺炎」となるとお手上げである。経過観察だけをやっているのである。

中国伝統医学では肺の熱、冷え、肺組織の脱水、血流障害の病態に応じた適切な生薬を投与し肺の病態を治療する。この「熱か寒か」というのは中国伝統医学の8つの病態診断大綱の一つである。ここで西洋医学と中国伝統医学の病態診断の違いに注目しよう。西洋医学の診断は血液中や尿中の物質量の値を基準にする。診断の基礎は物質である。それに対して中国伝統医療では、体内の物理現象を分析して診断する。そのための基準はあ第5章で説明する。第1に体を維持するエネルギーが十分か不足しているかの診断で、第2に体が熱いか冷えているかの診断です。例えば急性炎症は西洋医学では炎症を起こす物質に基づく診断であるが、中国伝統医学では熱証の診断となる。温度で体内組織の活性が大きく左右されるからである。免疫システム、消化システムは温度の影響を受ける。第3の病態診断には水分の存在様式が重要である。つまり中国伝統医学の診断では、エネルギー、熱、水分の状態変化といった物理現象に重きを置きます。現代医学では風邪も治せないことはよく知られた常識です。徹底的に対症療法に終始します。

風邪やインフルエンザにかかるとすぐに解熱剤が処方される。ウイルス感染に対応して熱が出るわけだが、ウイルスを退治するために人間自身が熱を出しているのです。ウイルスをやつける免疫機構は体温が高い方がスムーズにゆく。ウイルス感染で解熱剤を使って解熱すると、病気が治るのではなく病気の期間が長引く結果になる。特に小児インフルエンザに解熱剤は禁物です。解熱剤の非ステロイド性抗炎症剤によって脳血管が障害という副作用が起きる。ライ症候群もインフルエンザ脳症の一つである。アメリカではサリチル酸系製剤(アスピリン)とライ症候群の関係を認め、アスピリン投与は禁止されるとライ症候群は消滅したという。ボルタレン、ポンタ―ルもインフルエンザでは使用しないよう注意喚起されている。使用できるのはアセトアミノフェン(カロナール、アンヒバ座薬)が主体となる。解熱剤と同様、風のときよく処方されるのが、抗生物質と抗ヒスタミンである。風邪を治すわけではなく、随伴症状の緩和という目的以外には効果は無く、あるのは副作用のみである。

日本には「日本漢方」と「中国伝統医学」がありますが、その内容に格差が大きい。日本では明治時代に漢方医学は廃止され最近まで教育さえ行われていなかった。中国では中医薬大学で5年のカリキュラム、さらに3年間は専門医教育が行われて専門医が養成されている。だが日本には医学部で漢方医学を学ぶことはない。西洋医学一辺倒である。2001年に提示された医学教育モデルカリキュラムガイドラインでは学生は和漢薬の概説を学ぶことになった。しかし卒業の6年間までに和漢薬の講義は数時間に過ぎない。不慣れによる漢方薬のトラブルが相次いだ。整理不順の女性患者に婦人科の妙薬と言われ血流増加作用のある「当帰芍薬散」を投与して、子宮筋腫が2倍に膨れた。また関節痛のある患者に「越婢加尤湯」を投与し、関節痛は治ったが血圧が上昇したという。血圧をあげる麻黄が含まれていたからだ。がん専門病院では手術後の長期間に体に元気を与える「補中益気湯」を投与したが、体がほてって便秘になるという副作用が現れた。調合された漢方薬にも副作用成分があるので、注意が必要である。「補中益気湯」は体力が弱った患者によく処方されるが、胃腸屋や肺など上半身の働きが強められ、下半身の内臓の働きは弱まるのである。漢方薬は単一成分ではなく、病態に合わせた調合がなされるので、ワンパターンの投与は医師の経験と非力を暴露する。中国は西洋医学にそっぽを向いているのではなく、病気の患者さんをまず西洋医学の最新診断法で見る。診断結果が緊急措置や手術などの外科的治療が必要でないと判断されると、次に漢方医学でで有効な治療を受けるのである。つまり西洋医学と中国医学のいいとこどりを理想としている。

(つづく)

岡部哲郎 著 「病気を治せない医者ー現代医学の正体に迫る」  光文社新書(2015)

2019年04月26日 | 書評
柿木の新緑

現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む  第4回

第2章) 予防医療の問題点)(その2)
③ HPVワクチン: 1983年ドイツのハウゼン博士が子宮頸がん組織からヒトパピロ-マウイルスHPV16型と18型を分離したことを契機として、HPV遺伝子が90%以上の頸がん細胞中に存在することをもって子宮頸がんウイルス発がん説が流行し、2008年博士はノーベル賞を受賞した。しかしこのことはコッホの病原説3原則の二つ(存在と分離)を証明したまでで、最後の原則であるHPVに感染させるとがんを発生させることを証明したことではない。HPVに感染しても90%以上は自然に排出され、数年から数十年持続的に感染した場合その数%が発症するといわれている。子宮頸の上皮細胞の異形成CIN(1-3に分類され、3のみが上皮がんとなる)が起こり、3.3%がCIN3に、また0.15%が子宮頸がんになるといわれる。つまり子宮頸がんはハイリスク型HPV感染が引き起こす稀な合併症であり、これは性感染症の稀有な一つである。現在、日本で接種されている子宮頸がんワクチンは16型と18型(HPVの50-80%を占める)の持続感染の予防効果を持つワクチンである。サーバリックスとガ-ダンシルの2種類が発売されている。これはすでに感染しているHPVのウイルスを消失させるものではない。治療薬ではなく、インフルエンザワクチンと同じ予防ワクチンである。子宮頸がん予防ワクチンという呼び名はおかしく、欧米ではHPVワクチンと呼んでいる。子宮頸がんはHPV-DNA検査と細胞診で容易に100%識別でき、適切な治療で概ね100%治癒率が得られる。何故ワクチンを作る必要があるのか理解に苦しむ。厚生省の発表ではHPV感染者は全女性の0.7%である。持続感染者はその1/10で0.007%に過ぎない(女性10万人に7人)。この感染者のまれな事よりももっと重要なことは、重篤な副作用で10万人接種で31人に重篤な副作用が発生する。インフルエンザワクチンの52倍である。2009年から2012年に全国で述べ820万回(一人3回)ワクチンの接種が行われ1926例の副作用が出ている。重篤な副作用は861例であった。副作用はアナフラトキシーショックによる呼吸困難、失神、チアノーゼ、感覚マヒ、発熱、嘔吐、痙攣、疼痛などであった。筋無力症、ギランバレー症候群、全身性エリテマトーデス、散在性脳脊髄炎、多発性硬化症などの難病を併発し長期間治らないで苦しんでいる人もいる。
このような効果の実証されていないワクチンを鳴り物入りで騒いでワクチン接種を推進したのは、一部の政治家と婦人科の医師が国民の関心を集めるポピュリズム政策に走ったせいではないだろうか。西洋医学ではワクチンは病気を予防するするという性善説で推進される。更に問題なのはワクチン開発の専門家は基礎研究の研究者であり、動物試験に頼って効果を確認し、人を対象にする接種に持ち込むのである。しかし人間の免疫システムと動物の免疫システムは天地雲泥の差がある。現状では大学や病院には、ワクチンの臨床的有効性や副反応など、人間への応用に関する臨床医学の専門分野は存在しない。日本にはワクチン専門医は存在しない。インフルエンザ専門家委員会の「専門家」とは名ばかりで11名の委員の内ワクチンの副作用の専門家は一人であった。厚生省科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の委員は10名のなかで、HPVワクチンの専門家は誰もいなかった。一体どんな議論をしたのだろうか。かくして、他の専門分野の知識しか持たない専門医と称する権威筋、政治家が結託して偽善的医療行政を強行したことは許されることではない。その上製薬会社とワクチン開発研究者、専門医の思惑が交錯した会議は人道上の問題である。
いつもワクチンの副作用の原因説として、免疫抗体製造のときに使用する免疫増強剤であるアジュバンド(アルミニウム)があげられる。パリ大学のフランソワ・オーシェ教授はアジュバンドのマクロファージ吸着説、エール大学のシン・ハン・リー元准教授はウイルスDNAのアジュバンド吸着による自己免疫疾患説を唱えた。にもかかわらず2014年1月厚生省の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の委員は、アジュバンド説を根拠なく否定し、原因は注射への恐怖が引き起こす「心身の反応」と結論付けた。2014年難病治療研究振興財団の研究チームは2515例を分析し、副反応は1112例だとした。これは厚生省検討会が認定した副作用の6倍にあたる。内科、小児科、精神科などの臨床医師10名が、接種から重い症状が出る期間を平均8.5か月まで観察した。そしてこの副作用を人類が経験したことがない「子宮頚がんワクチン関連神経免疫異常症候群」と名付けた。HPVワクチンはワクチンビジネスにとってドル箱ビジネスであり、いつも黒いうわさが絶えない。本来は性行為による感染症であるのに、その事は隠して思春期の女性をターゲットとした子宮頸がんの驚異を最大限に強調する宣伝が行われた。

(続く)