都忘れ
現代医学の治療法はほとんどが対症療法であり、今注目の中国伝統医学で根治療法に挑む 第8回
第5章) 中国伝統医学の考え方と治療法(その2)
中国伝統医学のシステム医学による治療法の例を、高血圧と糖尿病治療および難病の治療についてまとめる。
① 高血圧: 西洋医学では高血圧の治療は、対症療法でただ降圧剤を一生投与するだけである。中国伝統医学では血圧をあげている原因を取り除く治療を行う。だから治癒が期待できる。高血圧の原因には二つある。内臓の酸素不足に対する自己防衛と、血圧を上げる人体の仕組みが狂った場合である。高血圧の患者の病態を見ると、神経の異常が100%、胃腸の異常が80%、ホルモンの異常が60%、心臓の臂場が30%で見つかった。人によって原因の組み合わせは複数あり。原因も多岐にわたる。また高血圧は年齢によってその原因は異なる。40才の高血圧と70才の高血圧ではその原因と治療法も異なる。したがって治療法も人それぞれ違うものになる。次に高血圧の原因別の分類と治療法を紹介する。これらもモデルケースに過ぎない。
A:肝陽上亢(神経の異常による高血圧) 精神的ストレスによる神経の熱を冷やす竜胆、黄連、アロエなどの処方を用いる
B:痰湿阻逆(胃腸の痰による高血圧) 胃腸に負担をかけすぎると神経系を傷害し血圧があがる。治療は痰湿を取り除く竹如温胆湯などを用いる。
C:肝腎陰虚(水分不足による高血圧) 香辛料の過剰摂取、精神ストレス、老化は全身の水分不足となる。腎陰(水分)を補う六味地黄丸、七物降下湯を併用する。
D:陰陽両虚(水分不足と代謝の低下による高血圧) 動悸息切れ夜間頻尿など老人特有の症状がでる。六味地黄丸に牛車腎気丸に桂枝加竜牡蠣湯を併用する。
E:気虚血於(エネルギー不足が原因の血流減少による高血圧) 脾虚(消火器系の機能低下)による疲労、不眠、めまいの症状がエネルギ不足によって加速される。補中益気湯、帰脾湯などを用いる。
F:衝任虚損(更年期の高血圧) 女性特有の火照り、イライラ、耳鳴り、不眠、高血圧、高コレステロール症が出る。腎を補う二仙湯と交感神経を安定させる逍遥散を併用する
② 糖尿病: 西洋医学の糖尿病治療は上がった血糖値を下げる対症療法である。インスリンの注射、インスリンの分泌促進、肝臓での糖化を抑える薬、腸管からの吸収を抑える薬などを使用する。中国伝統医療では血糖値上昇の原因を取り除く治療を行い、患者の心身をリセットする。
A:肺胃燥熱(肺と胃の熱による乾燥) 典型的な糖尿病で強い渇きを覚え、大量の水を飲み頻尿で尿は濁っている。次第に痩せて来る。原因は飲食の不摂生で出で生じた熱が肺を焼く。胃の熱を冷やす白虎加人参湯、石膏を処方し、便秘があるなら麻子仁丸を用いる。
B:気陰両虚(エネルギー不足と陰液の欠乏) 原因は脱水とエネルギー不足。動悸があり不眠症など精神症が見られる。気と水分を補い胃熱を冷やす玉女煎等を用いる。
C:肝腎陰虚(神経や内分泌器官の陰液の欠乏) AとBが長く続き全身が乾燥する。陰液を補う治療を行い、六味地黄丸、滋陰降火湯、当帰飲子を併用する。
D:陰陽両虚(陰液の欠乏とエネルギー不足による冷え) A,B.Cの状態を経るとこの状態になる。顔色は黒ずみ手足は冷える。治療は陰液を補い体を温めること、八味地黄丸を用い、炮附子、麦門冬湯を併用する。
E:脾胃気虚(胃腸の虚弱) 原因は消化器の機能低下。脱水状態になり、下痢が続き疲れやすい。治療は参苓白述散、八味地黄丸を用いる。
F:脾胃湿熱(消化器の水分が煮詰まった状態) 消化管に生じた湿と胃に生じた熱の結合が原因。多食多飲多汗、軟便の症状が出る。黄苓滑石湯を用いるが、脾胃気虚(消化器の機能低下)があるのでその治療も合わせて行う。
③ 難病: 中国伝統医学では西洋医学とは違うシステムと薬物で治療が可能である。だから現代医学で「治療法がありません」と言われた難病も治療が可能な場合がある。これを欧米では「補完・代替え医療」と呼ぶ。次に筆者の経験をもとに治療が成功した例を提示する。
A:脊髄小脳変性症 小脳が徐々に変性萎縮するため、体のバランスが取れず歩行困難となり、最後は車いす生活になる病気である。優生に遺伝する病気である。異常な遺伝子は明らかになったが遺伝治療はまだ開発されていない。現在まで7例の脊髄小脳変性症(SCA6タイプ)に数か月20-30種類の生薬(肝と腎の陰液不足対策)を処方し、5症例で効果を確認した。SCA8タイプの症例では、腎、肺、肝の生体システムに異常が見られたので、竜骨や牡蠣をふくむ24種のブレンドでふらつきを改善した。実は遺伝性でない脊髄小脳変性症の方が多い。小脳への血流不足を改善するため桂枝、熟地黄、当帰など23種の生薬で2か月処方し歩行困難などの症状を改善した。
B:メニエール病 内耳性めまいを引き起こす疾患をメニエール病という。病気の本体は内耳の水膨れ状態(リンパ水腫)である。女性患者の方は消化器系の機能低下であったので、水分除去の生薬22種を処方し4週間後にはめまい・耳鳴りはなくなった。神経系の虚弱からメニエール病になった人には、神経系に対する生薬と神経系を正常化する治療を6か月続けて完治した。
C:潰瘍性大腸炎 下痢と血便が続く潰瘍性大腸炎患者には大腸の病態を見極めて原因を探り、精神的ストレスからくる神経の異常にも対処した処方で治癒した。潰瘍性大腸炎の病態は各人で全く異なるので、病態に応じた生薬を組み合わせないと効果はない。
D:シェーングレン症候群 涙が出なくて眼が乾燥する病気をシェーングレン症候群という。一般には膠原病の一種で主に中年女性に発症する。全身の乾燥状態がひどく、口の渇き、膝の痛み、火照り、瞼の痙攣、便秘など症状が多い。ある女性患者の場合、肺の乾燥と神経系の興奮とみて4か月の治療で完治した。つまりステロイド以外にも治療法がある。
E:シャルコイドーシス 肺、リンパ節、皮膚、眼、心臓、筋肉など全身諸臓器に肉芽腫ができる難病である。原因不明で現代医学では根治療法はなく、重篤な場合はステロイド治療が行われる。ステロイド治療には副作用があるので短期で治療をやめなければならない。中年の女性が全身倦怠感、微熱、霧見、眼圧上昇などシャルコイドーシスによるブドウ膜炎の症状で来院され、肉芽腫のマーカーである血清ACE値は非常に高かった。診断で病態は血液の炎症性充血、肺及び肝の熱と判明して、肺と血の熱を冷ます生薬25種類を投薬し、3か月後には症状は治まった。これが完治かどうかは今後の観察を待つ。
F:後縦靭帯骨化症 脊椎錐体の後縁を連結する後縦靭帯が骨化し、脊柱管が狭くなって神経が圧迫され、肩腕の痛みやしびれ、手足の運動障害を引き起こす病気である。脊柱管狭窄症の一原因である。整形外科では手術しかないというので漢方内科に来られた患者がいた。この人の病態は肺と肝の熱、血液の炎症性充血だと診断し、血流障害を改善する生薬を中心に、肺、肝を冷やす生薬を加えて25種類の生薬を処方した。3週間後には肩の痛みはなくなり症状は緩和した。後縦靭帯の骨化が短期間で治るわけではないので肩の痛みが軽快したのである。
(つづく)