市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第4回
序(4)
ここで宇沢弘文氏とケインズ経済学の関係をプロフィール的に振り返ろう。宇沢氏は1928年 鳥取県米子市に生まれ、東京府立第一中学校(現東京都立日比谷高等学校)、1948年 -第一高等学校理科乙類卒業、1951年 -東京大学理学部数学科卒業、1951年から1953年まで数学科に在籍した。1956年経済学に転向し、 スタンフォード大学、カルフォニア大学バークレー校の経済学助教授を務めた。1964年 シカゴ大学経済学部教授、1968年 東京大学経済学部助教授、1969年同教授、1980年同経済学部長を経て1989年定年退官となった。以降新潟大学。中央大学、国連大学、同志社大学に在籍した。なお40年間以上日本政策投資銀行設備投資研究所顧問を務めている。1997年文化勲章を受賞した。一般著作では「自動車の社会的費用」(岩波新書 1974年)、「社会的共通資本」(岩波新書 2000年)が有名であるが、経済学や数学の著作が多い。宇沢氏はアメリカ滞在中より、ジョーン・ロビンソン、リチャード・カーン、ピエロ・スラッファらのケインズ・サーカスとの付き合いが深く、とくにジョーン・ロビンソンには深く師事され本書の冒頭に「亡きジョーン・ロビンソン教授に捧ぐ」という文が飾られているほどである。ロビンソンはケインズ「一般理論」の構築に主要な役割を果し、一般理論はケインズの個人的著作であるが、ケインズサーカスとの議論や問題提起から生まれた著作であるといえる。ある意味ではケインズ以上に明晰な形で一般理論を提起したジョーン・ロビンソンの学説を通じて宇沢氏は「一般理論」を理解してきたという。ケインズ経済学説を支えた理論家達が1980年代に次々と他界するにつれ、ケインズ学説が力を失っていったという物理的経過も頭に入れておかなければなるまい。
では本書を内容に沿って検討してゆく。一般読者である私には、第1講から第3講までが概論であって、宇沢氏の明晰な文章力で理解は容易である。第4講以降はやたら大まかな図と数式の展開が多くなり、詳細を把握するのはやはり素人には難しくなっている。理科系出身の私には、とくに本書に出てくる「何とか関数(曲線)」という図は、大雑把な関係を概念で示しているにすぎず、数学や物理の関数と思うとがっかりする。AとBは関連しているくらいの把握で、正比例なのか、逆関数なのか、1次関数なのか2次関数なのか、対数関数なのか、時間と変数の偏微分方程式なのかさっぱり分からない。数学的なアナロジーを想定させるための体裁なのか、変数が妙に入り子関係にあり、鶏が先なのか卵が先なのか反論が極めて容易である。本書の数式展開は容易で少し演算すればすべて理解できた。しかし因果関係が「風が吹いたら桶屋が儲かる」式の曖昧模糊の関係を示しているにすぎず、とても数値を演算してオーダーが合う工学程度の話ではない。数理経済学とはこの程度の話だとがっかりする。経済学は科学だと考えると失望する。むしろ期待という確率現象の絡み合いが人間なのだという理解がぴったりである。
(つづく)
序(4)
ここで宇沢弘文氏とケインズ経済学の関係をプロフィール的に振り返ろう。宇沢氏は1928年 鳥取県米子市に生まれ、東京府立第一中学校(現東京都立日比谷高等学校)、1948年 -第一高等学校理科乙類卒業、1951年 -東京大学理学部数学科卒業、1951年から1953年まで数学科に在籍した。1956年経済学に転向し、 スタンフォード大学、カルフォニア大学バークレー校の経済学助教授を務めた。1964年 シカゴ大学経済学部教授、1968年 東京大学経済学部助教授、1969年同教授、1980年同経済学部長を経て1989年定年退官となった。以降新潟大学。中央大学、国連大学、同志社大学に在籍した。なお40年間以上日本政策投資銀行設備投資研究所顧問を務めている。1997年文化勲章を受賞した。一般著作では「自動車の社会的費用」(岩波新書 1974年)、「社会的共通資本」(岩波新書 2000年)が有名であるが、経済学や数学の著作が多い。宇沢氏はアメリカ滞在中より、ジョーン・ロビンソン、リチャード・カーン、ピエロ・スラッファらのケインズ・サーカスとの付き合いが深く、とくにジョーン・ロビンソンには深く師事され本書の冒頭に「亡きジョーン・ロビンソン教授に捧ぐ」という文が飾られているほどである。ロビンソンはケインズ「一般理論」の構築に主要な役割を果し、一般理論はケインズの個人的著作であるが、ケインズサーカスとの議論や問題提起から生まれた著作であるといえる。ある意味ではケインズ以上に明晰な形で一般理論を提起したジョーン・ロビンソンの学説を通じて宇沢氏は「一般理論」を理解してきたという。ケインズ経済学説を支えた理論家達が1980年代に次々と他界するにつれ、ケインズ学説が力を失っていったという物理的経過も頭に入れておかなければなるまい。
では本書を内容に沿って検討してゆく。一般読者である私には、第1講から第3講までが概論であって、宇沢氏の明晰な文章力で理解は容易である。第4講以降はやたら大まかな図と数式の展開が多くなり、詳細を把握するのはやはり素人には難しくなっている。理科系出身の私には、とくに本書に出てくる「何とか関数(曲線)」という図は、大雑把な関係を概念で示しているにすぎず、数学や物理の関数と思うとがっかりする。AとBは関連しているくらいの把握で、正比例なのか、逆関数なのか、1次関数なのか2次関数なのか、対数関数なのか、時間と変数の偏微分方程式なのかさっぱり分からない。数学的なアナロジーを想定させるための体裁なのか、変数が妙に入り子関係にあり、鶏が先なのか卵が先なのか反論が極めて容易である。本書の数式展開は容易で少し演算すればすべて理解できた。しかし因果関係が「風が吹いたら桶屋が儲かる」式の曖昧模糊の関係を示しているにすぎず、とても数値を演算してオーダーが合う工学程度の話ではない。数理経済学とはこの程度の話だとがっかりする。経済学は科学だと考えると失望する。むしろ期待という確率現象の絡み合いが人間なのだという理解がぴったりである。
(つづく)