逃げた税金を資金にして巨大マネーが金融危機を生む 第2回
序(その2)
日本の所得税負担率は、2009年所得250万円に対して2.6%、1000万円で10.6%、1億円で28.3%を最高としてそれ以上の収入では負担率は下がってゆく。年収100億円では13.5%となる。必ずしも累進課税とはなっていない。100億円の収入とは普通の所得ではなく、多くは株売却による所得で、毎年長者番付をにぎわせるのである。そういった所得に対して特別措置が適用されるからである。そして申告不足でいつも話題となり、追徴課税が何10億円と報道される別世界のことである。租税回避または脱税により、課税を逃れている高額所得者は多数いるとみられる。何億-何十億円という金を現金で持っている人はほとんどいない。金融機関に預けると調べが入るとすぐにわかるので、高額所得者には何らかの手段で海外のタックス・ヘイヴンに逃がして税金を遁れる人がる。タックス・ヘイブンは脱税をはたらく富裕者のみならず、不正を行う金融機関や企業、犯罪組織、テロリスト、各国の諜報組織が群がる伏魔殿である。悪名高いヘッジ・ファンドもタックス・ヘイブンを利用して巨額のマネーを動かしている。タックス・ヘイブンには次の3つの特徴がある。①まともな税制がない、②固い秘密保持法制がある、③金融規制やその他の法規制が欠如している。そしてタックス・ヘイブンを舞台に行われる悪事とは、①高額所得者・企業の脱税、租税回避、②マネー・ロンダリング、③巨額投機マネーによる世界経済の破壊である。個人も企業もある程度の高い収入が得られると、税理士や会計士、弁護士の専門家を雇ったりして節税対策を行うようになる。節税、脱税、租税回避行為の見分けが難しいが、それにより租税収入が減り一般納税者はツケを回される。昔は分厚い中間層がいたが、近年の格差拡大政策により、中間層がやせ細り富裕層と貧困層に2極分離している。重税感が蔓延すると社会不安を増大する。財政資金が不足し国債発行に半分以上を頼る不健全財政が常態化している。本来納付すべき税金と実際に納付される税金の差額を「タックス・ギャップ」といい、米国では2001年のギャップを34兆円と推計した。日本の課税当局はこのギャップさえ把握しようとしていない。犯罪組織の黒い金は情報の秘密が厳格に守られるタックスヘイブンに送金して、直ちにまた別の国の口座に振り替えれば当局の追跡は不能である。テロ組織の送金もまたタックスヘイブンを介して行われる。だが最後の現金の陸揚げは銃撃戦覚悟の命がけであることは免れないが。新しい金融技術はデリバティブという金融商品を生んだ。そうした金融商品を駆使したマネーゲームによってこの20年間に何回も金融危機・通貨危機が起きた。そしてこの金融商品はどこかで必ずタックス・ヘイブンに亜ある事業体を経由し、資金ルートの全容を見えなくする。金融機関がリスクを取りすぎて破綻しないように規制をかけることを「プルーデンシャル・レギュレーション」というが、タックスヘイブンにはそのような規制はない。こうして金融商品のリスクが分散されるのではなく見えなくなるのである。規制は国境を越えて執行できない。このようなマネーゲームの行き着く先は、決まって大規模な金融危機である。取引されるマネーの量は1国の資金量をはるかに超えているからである。2001年の9.11事件後マネーロンダリングの取り締まりは強化された。2009年のG20首脳会議ではタックスヘイブンを取り締まる動きが活発化した。しかしタックスヘイブンの秘密主義のため実態捜査は一向に進まない。世界の金融取引に深く根を張るタックスヘイブンの存在は、国益に揺るがす重大問題である。ある旧宗主国(イギリスのこと)は傘下にある旧植民地のタックスヘイブンを庇護しようと、様々に隠蔽工作や妨害工作をする。先進国でありながらタックスヘイブンである。筆者である志賀氏が日本代表として取り組んだ国際組織活動は、1998年OECDの租税委員会で「有害な税の競争」報告書であったという。そしてその報告書は2009年にはタックスヘイブン・ブラックリストの作成となった。1998年金融監督庁特定金融情報管理官としてマネーロンダリング問題に取り組む国際機関FATFのメンバーとなった。FATFの中に金融情報管理という組織を持つ国だけでFIUというサブグループがマネーロンダリング問題を扱った。1998年アジア通貨危機と日本の金融危機の際に作られた国際機関金融安定化フォーラムFSFはグローバルな金融問題を扱うフォーラムだったが、2009年リーマンショック金融危機後のG20サミットによってFSBに格上げされた。FSFには筆者は金融監督庁の日本メンバーとして参加した。
(つづく)
序(その2)
日本の所得税負担率は、2009年所得250万円に対して2.6%、1000万円で10.6%、1億円で28.3%を最高としてそれ以上の収入では負担率は下がってゆく。年収100億円では13.5%となる。必ずしも累進課税とはなっていない。100億円の収入とは普通の所得ではなく、多くは株売却による所得で、毎年長者番付をにぎわせるのである。そういった所得に対して特別措置が適用されるからである。そして申告不足でいつも話題となり、追徴課税が何10億円と報道される別世界のことである。租税回避または脱税により、課税を逃れている高額所得者は多数いるとみられる。何億-何十億円という金を現金で持っている人はほとんどいない。金融機関に預けると調べが入るとすぐにわかるので、高額所得者には何らかの手段で海外のタックス・ヘイヴンに逃がして税金を遁れる人がる。タックス・ヘイブンは脱税をはたらく富裕者のみならず、不正を行う金融機関や企業、犯罪組織、テロリスト、各国の諜報組織が群がる伏魔殿である。悪名高いヘッジ・ファンドもタックス・ヘイブンを利用して巨額のマネーを動かしている。タックス・ヘイブンには次の3つの特徴がある。①まともな税制がない、②固い秘密保持法制がある、③金融規制やその他の法規制が欠如している。そしてタックス・ヘイブンを舞台に行われる悪事とは、①高額所得者・企業の脱税、租税回避、②マネー・ロンダリング、③巨額投機マネーによる世界経済の破壊である。個人も企業もある程度の高い収入が得られると、税理士や会計士、弁護士の専門家を雇ったりして節税対策を行うようになる。節税、脱税、租税回避行為の見分けが難しいが、それにより租税収入が減り一般納税者はツケを回される。昔は分厚い中間層がいたが、近年の格差拡大政策により、中間層がやせ細り富裕層と貧困層に2極分離している。重税感が蔓延すると社会不安を増大する。財政資金が不足し国債発行に半分以上を頼る不健全財政が常態化している。本来納付すべき税金と実際に納付される税金の差額を「タックス・ギャップ」といい、米国では2001年のギャップを34兆円と推計した。日本の課税当局はこのギャップさえ把握しようとしていない。犯罪組織の黒い金は情報の秘密が厳格に守られるタックスヘイブンに送金して、直ちにまた別の国の口座に振り替えれば当局の追跡は不能である。テロ組織の送金もまたタックスヘイブンを介して行われる。だが最後の現金の陸揚げは銃撃戦覚悟の命がけであることは免れないが。新しい金融技術はデリバティブという金融商品を生んだ。そうした金融商品を駆使したマネーゲームによってこの20年間に何回も金融危機・通貨危機が起きた。そしてこの金融商品はどこかで必ずタックス・ヘイブンに亜ある事業体を経由し、資金ルートの全容を見えなくする。金融機関がリスクを取りすぎて破綻しないように規制をかけることを「プルーデンシャル・レギュレーション」というが、タックスヘイブンにはそのような規制はない。こうして金融商品のリスクが分散されるのではなく見えなくなるのである。規制は国境を越えて執行できない。このようなマネーゲームの行き着く先は、決まって大規模な金融危機である。取引されるマネーの量は1国の資金量をはるかに超えているからである。2001年の9.11事件後マネーロンダリングの取り締まりは強化された。2009年のG20首脳会議ではタックスヘイブンを取り締まる動きが活発化した。しかしタックスヘイブンの秘密主義のため実態捜査は一向に進まない。世界の金融取引に深く根を張るタックスヘイブンの存在は、国益に揺るがす重大問題である。ある旧宗主国(イギリスのこと)は傘下にある旧植民地のタックスヘイブンを庇護しようと、様々に隠蔽工作や妨害工作をする。先進国でありながらタックスヘイブンである。筆者である志賀氏が日本代表として取り組んだ国際組織活動は、1998年OECDの租税委員会で「有害な税の競争」報告書であったという。そしてその報告書は2009年にはタックスヘイブン・ブラックリストの作成となった。1998年金融監督庁特定金融情報管理官としてマネーロンダリング問題に取り組む国際機関FATFのメンバーとなった。FATFの中に金融情報管理という組織を持つ国だけでFIUというサブグループがマネーロンダリング問題を扱った。1998年アジア通貨危機と日本の金融危機の際に作られた国際機関金融安定化フォーラムFSFはグローバルな金融問題を扱うフォーラムだったが、2009年リーマンショック金融危機後のG20サミットによってFSBに格上げされた。FSFには筆者は金融監督庁の日本メンバーとして参加した。
(つづく)