市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第9回
第2講 第1篇「序 論」 (3)
古典派の雇用理論を代表するビグーの「失業の理論」やヒックスの「賃金の理論」は失業対策としては次の四つを指摘する。①摩擦的失業を減らす組織の改善、予測の改良 ②労働の限界非効用を低くする。 ③消費財産業における生産性を高める。 ④投資財・金融財の価格を高くする。
不況時の大量失業問題は労働者が貨幣賃金の引き下げに応じないからだという古典派の主張は事実に反する。企業は賃下げが目的なのではなく、需要不足による人員削減が目的なのである。もともと一方的首切りによる非自発的失業である。物価が上がって実質賃金が下がったとしても現実の労働者が職場を離れるとは思えない。第2公準はそもそも成立しない代物である。逆に貨幣賃金が下がったとき、労働需要が上がったためしは無いのである。労働需要は財貨・サービスに対する需要の大きさによって決まってくるからである。失業対策は景気回復しかないのである。無限の経済発展がないとするならば、物理的人口数と労働需要のギャップは、今後の人口減少社会の実現と維持可能経済規模とのバランスにかかっている。これは恐ろしいことをいっているのではない。現実の成熟社会の設計に関する事である。ケインズは労働市場において需要と供給が一致しない状態で「均衡」が成立するという。セーの法則は「生産供給が消費需要を生み出す」というが、財貨・サービスの総額である国民生産額は生産した関係者に配分されるということである。分配された所得は消費財に向けられる。しかし新古典派の前提である「セーの法則」は実物的要因を表現しているが、物価水準は貨幣供給量によって決まるという側面がある。貨幣数量方程式とは物価水準と国民生産額の積である国民総所得は、貨幣供給量と貨幣の流通速度で規定される。国民生産額は実物的要因であり、貨幣の流通速度という制度的要因と無関係であると云う考え方が古典派の二分法である。古典派によると物価上昇率(インフレ率)の安定化は、貨幣供給の増加率の調整(日銀の役割)によって達成される。これを「マネタリズム」という。ケインズが一般理論で主張しようとした一つに、貨幣供給の条件を変えたときそれによって、経済の実物的な生産も影響を受けて変わってゆく(第6講:投資誘因で詳述)という命題があった。
(つづく)
第2講 第1篇「序 論」 (3)
古典派の雇用理論を代表するビグーの「失業の理論」やヒックスの「賃金の理論」は失業対策としては次の四つを指摘する。①摩擦的失業を減らす組織の改善、予測の改良 ②労働の限界非効用を低くする。 ③消費財産業における生産性を高める。 ④投資財・金融財の価格を高くする。
不況時の大量失業問題は労働者が貨幣賃金の引き下げに応じないからだという古典派の主張は事実に反する。企業は賃下げが目的なのではなく、需要不足による人員削減が目的なのである。もともと一方的首切りによる非自発的失業である。物価が上がって実質賃金が下がったとしても現実の労働者が職場を離れるとは思えない。第2公準はそもそも成立しない代物である。逆に貨幣賃金が下がったとき、労働需要が上がったためしは無いのである。労働需要は財貨・サービスに対する需要の大きさによって決まってくるからである。失業対策は景気回復しかないのである。無限の経済発展がないとするならば、物理的人口数と労働需要のギャップは、今後の人口減少社会の実現と維持可能経済規模とのバランスにかかっている。これは恐ろしいことをいっているのではない。現実の成熟社会の設計に関する事である。ケインズは労働市場において需要と供給が一致しない状態で「均衡」が成立するという。セーの法則は「生産供給が消費需要を生み出す」というが、財貨・サービスの総額である国民生産額は生産した関係者に配分されるということである。分配された所得は消費財に向けられる。しかし新古典派の前提である「セーの法則」は実物的要因を表現しているが、物価水準は貨幣供給量によって決まるという側面がある。貨幣数量方程式とは物価水準と国民生産額の積である国民総所得は、貨幣供給量と貨幣の流通速度で規定される。国民生産額は実物的要因であり、貨幣の流通速度という制度的要因と無関係であると云う考え方が古典派の二分法である。古典派によると物価上昇率(インフレ率)の安定化は、貨幣供給の増加率の調整(日銀の役割)によって達成される。これを「マネタリズム」という。ケインズが一般理論で主張しようとした一つに、貨幣供給の条件を変えたときそれによって、経済の実物的な生産も影響を受けて変わってゆく(第6講:投資誘因で詳述)という命題があった。
(つづく)