ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 津久井進著 「大災害と法」 岩波新書

2013年03月07日 | 書評
大災害の被災対応と復旧・復興に法の課題とはなにか 第7回

第2部 「災害サイクルと法」 (4)
4)「災害サイクルと法」の最後の章は災害に備える防災と減災を図る法制度である。日本は「防災大国」といわれる。道路行政と同じく、防災の中核を占める公共土木工事の根拠となる法律が目地押しである。「砂防法」(1955年)、「森林法」(1951年)、「地すべり防止法」(1958年)、「急傾斜地災害防止法」(1969年)、治水については「河川法」(1964年)、「水防法」、「特定都市河川浸水被害対策法」、「海岸法」(1956年)などが日本をコンクリートで固めてきた。災害別には、台風について「台風常襲地帯の『災害の防除特別措置法」(1958年)、「活動火山対策特別措置法」(1973年)、「豪雪地帯対策特別措置法」(1962年)、「東海南・南海地震に係る地震防災対策特別措置法」(2002年)などなどである。防災神話は自然災害を押さえ込むことに膨大な費用を投じて、なおその災害の度に崩壊してきた。そして防災目的より公共事業そのものが目的化したのではないかという疑念があった。海が見えない防潮堤では波の恐ろしさがわからない、三陸縦貫自動車道路よりも生活道路・高台連絡道路建設の方が重要なのではないだろうか。地震対策では「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(1995年)が生まれたが、個人の住宅は対象になっていない。建築基準法は1978年の宮城県沖地震を受けた新耐震基準である。なお災害対策基本法で定める県、市町村の防災計画・防災訓練はなおざりで官僚作文に過ぎず、真剣な地元での具体的討議が必要である。
(つづく)

読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月07日 | 書評
古典経済学が説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第47回

第5篇 国家の収入(財政策)
第1章 主権者または国家の経費について(2)
[2節:司法費])

 国家の第2の義務は、その社会のどの成員も公平に、同じ社会の他者からの抑圧からできる限り保護する、裁判の厳正な実施を確立する義務があると云うことである。社会発展段階において私有財産の形成は司法権力の庇護を必要とし、政府を樹立する必要が生じた。ここでスミスは面白い論を立てる。政府はある程度の服従がないと成り立たないが、服従を要求する権力者には、個人的資質(指導力)、年齢、財産、素性(名門、家柄)という要素が要求され、人々は彼らの支配を納得するのであるという。特に財産の権威は裕福な文明社会では極めて大きな要素である。古代遊牧民時代から支配者とは一番裕福な財産を持ち、その家柄が継続したということである。政府は財産を保護する点において、貧者にたいして富者を防衛することと同義となる。決して政府は富者を懲らしめ貧者を救うために作られたのではない。長い間裁判権は政府にとって支出の原因ではなく、むしろ収入源であった。裁判をやるということは主権者(領主、首長)にとって相当の収入源であり、腐敗・不公正や苛政を招いた。公平を期すため、裁判者への贈り物(収入)に見合う報酬を与えかつ裁判は無料で運営しなければならない。しかし司法費は全統治費用の一小部分に過ぎず、法廷手数料でまかなうことが出来るので、裁判所の運営義務が生じ裁判のスピードアップを図ることが出来る。裁判を受ける人が政治・行政の影響を受けないためにも、司法権は行政権から独立していなければならない。
(つづく)

文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月07日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第68回

* KHM 108  ハンスぼっちゃんはりねずみ
 裕福なお百姓がいましたが、子供がいなくて「ハリネズミだって構わない」と願をかけますと、魔法に乗じられて、上半身はハリネズミで下半身が人間の子が生まれました。名前は「ハンスぼっちゃんはりねずみ」としました。8年経ってハンスは親から買ってもらった袋笛(バックパイプ)と鶏、豚、ロバを連れて家を出ました。ハンスは鶏の背中に乗って、森には入り木の上で笛を吹いては豚とロバの番をしました。この笛の音色が美しいので、森に迷い込んだ王様が笛の音に誘われて木の上にいるハリネズミを見つけました。森の出口を訪ねたところ、ハンスは王様に、城に帰って一番最初に出会ったものをくれる証文を書いて帰り道を教えました。そして最初に出会ったものはお姫様でした。同じように第2番目の王様にも条件をつけて帰り道を教えました。一番目の王様は約束を守る気はなく、第2番目の王様とお姫様は約束を守りました。第1番目のお姫様には辱めをあたえて開放し、第2番目のお姫様と結婚しました。結婚式の夜、ハリネズミがベットに入る前にハリネズミの皮を脱ぐので、家来に直ちに焼き捨てるように依頼して魔法を解いて人間に戻ることができました。

* KHM 109  きょうかたびら
 これは童話というより、悲しいお話です。おかみさんには七つの男の子がいましたが、病気で突然亡くなりました。悲しみにおかみさんは夜昼泣いてばかりいました。おかみさんの夢に白い経帷子をきて頭に花輪を付けた男の子が現れ、涕で経帷子が濡れて寝られないと訴えました。おどろいたおかみさんは泣くのを止めました。翌日の夢に男の子が現れ経帷子は乾いたのでお墓で寝ることができますと告げました。おかみさんのこころが驚愕、失望、受け入れと立ち直る過程を描いたお話です。
(つづく)