ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

環境書評 長谷川公一著 「脱原子力社会へー電力をグリーン化する」 岩波新書

2011年11月29日 | 書評
電力のグリーン化による脱原子力社会のシナリオ 第18回

3) 脱原発住民運動  (2)

 ここに再生可能エネルギーによる町おこしの例を3題取り上げている。ひとつは山形県立川町の風力発電事業である。1989年の「ふるさと創生1億円事業」に応募して、1993年町営の100kWの発電用風車3基を設置し、1992年から始まった「余剰電力買取制度」によって東北電力に販売された。1996年には400kWの風車2基をによって全国初の民間売買会社が事業を開始した。1998年から町が出資して第3セクター方式となった。町には2011年現在風車14基、7850kWの設備用量がある。次の例は岩手県葛巻町の風力発電所である。袖山高原に第3セクターのエコワールド葛巻風力発電所の400kW風車3基があり、上外川高原にはJパワーの1750kWの風力発電機12基が2003年より運転している。これは1万5000世帯分に相当する。ミルクとワインとクリーンエネルギーが待ちのキャッチフレーズである。上の2例が「自治体風車」だとすれば、3つ目の例は北海道濱頓別町の「市民風車」である。生活クラブ生協北海道を主体となって、チェルノブイ事故の翌年1987年に泊原発1・2号機の運転を巡って道民投票の実施運動が盛り上がった。1996年には泊原発3号機計画反対署名運動が起きた。これらの運動は原発を止めることにはならなかったが、1999年運動の中心がグリーン電気料金運動を起こし、北海道グリーンファンドという寄付金募集をおこなった。2000年に1口50万円の出資を呼びかけ1億4000万円が集まり、事業運営にトーメンジャパンの協力を得て、濱頓別町に出力990kWの風車設置が決まった。事業主体は「北海道市民風力発電」が発足した。平均の設備利用率は実績27%であった。日本の現状では太陽光発電は収益性や事業性は期待できなかったが、風力発電事業はすでに欧米では営利事業として運営されていた。著者の長谷川公一氏はこの事業は「地域性、運動性、事業性」の成功例として高く持ち上げている。風力発電を洋上大規模化施設とするか、欧州のようにデンマークでは小規模事業者による「農民風車」の例もあるが概して大規模化には向かないとしている。
(つづく)

読書ノート 桑原武夫訳編 ディドロ・ダランベール編 「百科全書-序論および代表題目-」 岩波文庫

2011年11月29日 | 書評
フランス革命を準備した、フランス啓蒙思想家の集大成 第9回

1) 百科全書序論 (ダランベール)  第2部 「合理的辞典」 (2)

 百科全書の構成を知る上でディドロが書いた「趣意書」を見ることは必須である。「従来の辞典はその形式からして系統だった読み方を目したものではない。学問と技芸を向上させるアカデミーが設立されていないとき、自学する人々を啓蒙するだけでなく他人の教育のために働く人々を手引きするために役立つ、一つの辞典を持つことは大切であると考える。チェンバースの百科全書の功績は非常に優れたものであるとしても、進歩した学問の項目があきれるほどに少なく、芸術た[機械技術にいたっては殆どか書かれていない。必要なのは知識の連関であって、断片的な説明ではない。百科全書では知識の連鎖を断ち切り、形態と本質を損なってはいけない。学問と技術の凡てを1人の人間で取り扱うことは向こう見ずであり短見である。このような大きな重荷を支えるにはそれを分担する必要がある。それに十分な学者と技術者を揃えたことで、多くの方法と確実さと詳細さを持ちえたのである。協力者の各人は自分の引き受けた部分についてひとつの辞典を作り、編集者はこれらの辞典全部をひとつの全体に統一した。編集者は個人の仕事には絶対手を触れない。文体も変化があってこそ面白い。百科全書の全内容は学問、自由芸術、機械技術の3分野である。執筆者は最優秀と認められる人が選ばれ、名前を挙げ、自分の文章を引用し、諸見解を比較し、諸証拠を考量すること、叙述が長くなる事は妨げない。」とディドロ氏は編集の目論見と留意点を書いた。この百科全書の最大の特徴は機械技術の叙述と絵図作成であり、そのためには工作所の現場にまでいって質問したという。本書はソクラテスが言った「精神の産婆」となるべく努力したことである。
(つづく)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2011年11月29日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第64回

[179] 「宮仕人の里なども・・・」 第3類
宮仕えする女の里(実家)は、二親がいるのは大変好ましい。人がすごく出入りをし、奥の方でいろいろ声が聞こえて、馬の声なども騒々しいほどでも文句はない。忍びでも公然でも「いつお帰りになられるのですか」とか「お下がりになっておられるのを知りませんで」とか言って、ちょっと顔出しに来る人がいる。好いた人がきて門開けをするのを「うるさい」とか「夜中までえらそうに」と思われるのはいやだ。「表門は閉めたか」とか問うので「まだ人がいますので」と面倒くさそうに答えると、「人が出て行ったら早く閉めろ、このごろは盗人が多いし、火にも注意しろ」というので耳障りに聞こえる人もいる。その人のお供の連中もうんざりして、まだ出てこないかなとたえず覗き込んでいる。気持ちが熱烈な人は何度追われても、なお居座って夜の明ける景色を面白がっている。親が一緒なのはそのようなものだが、兄の家でもやはり煙ったいのだろうね。

[180] 「ある所になにの君とかや・・・」 第3類
あるところで何とかの君で公達ではないが浮気ものでセンスがあった男が、九月ごろ女のもとから帰るとき、有明の月(夜が明けても月が残っている)が霧にむせんでロマンチック様子だったので、女に言葉を尽くして出て行った後、女の遠く見送る姿がなんとも艶なことである。垣根の間に身を寄せて立ち「もう一度話したい」と思って「有明けの月のありつつも」と歌を口ずさむのである。後半は意味不詳なので省略。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「閑適自在」

2011年11月29日 | 漢詩・自由詩
千里僚友附雁魚     千里の僚友 雁魚を附す

一封借問定何如     一封借問す 定めて何如と

林間暖酒無厭     林間に酒を暖め は厭う無く

紅葉題詩楽有餘     紅葉に詩を題し 楽は餘り有り


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(韻:六魚 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 カバレフスキー「チェロ協奏曲 ほか」

2011年11月29日 | 音楽
カバレフスキー「チェロ協奏曲 ほか」
①チェロ協奏曲第1番、第2番 ②交響詩「春」
チェロ:アレクサンドル・ルディン
イゴール・ブロフスチン指揮 モスクワ交響楽団
DDD 1996 NAXOS

カバレフスキー(1904-1987)はソ連の社会主義音楽の代表的作曲家。青少年のために書かれたチェロ協奏曲は平凡。現代音楽の位置づけは低い。