市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第11回
第3講 「ケインズのヴィジョン」 (2)
新古典派理論は個人行動への分解可能性を前提としている。ケインズ理論は投資と貯蓄・消費がそれぞれ基本的には性格の異なる経済主体(資本と家計)によって決定されることを前提とする。古典派の集計的生産曲線(前生産量Qを労働量Nの関数であらわす Q=f(N))の傾きはdQ/dNで労働の限界生産を示すが、それが実質賃金に等しいとする。しかしこの数式モデルは関数形も明確でなく、Q=f(N)といって何の御利益があるのだろうか。又関数形も分からない曲線でどうしてある点(2回微分が+から-へ変わる変曲点らしいが、それが平衡点になる)の接線の傾きが利潤(売上から経費を引いた価)が最大点であると云う、とても数式による証明ではなく解析幾何の連想によるアナロジーは私には全く理解できない。生産量は働く人が多ければ大きくなるぐらいの連関で関数的表現もなくどうして微分や変曲点など定量的に議論できるのだろうか。ある経済変の関係を式に置き換えたとしても、その展開は四速演算程度であり、その式の展開は極めて初歩的で簡単に導ける。しかし変数と関数の関係は不定でどちら結果でどちらが要因なのか分からないようでは式の演算をしても甲斐がない。前提条件の吟味のほうが重要では無いか。したがってこのあたりの数式は全部省略する。そこで一般理論で中心的役割を果す有効需要の概念について考えよう。生産物の価値から労働費用(要素費用)と材料と設備に関する使用費用を引いた額が利潤である。それが企業の所得となる。セーの法則は雇用量に対する生産の総需要曲線、賃金の総供給曲線の交わるところで完全雇用の需要と供給が一致するというが、ケインズは不完全競争を念頭においてこの点を「有効需要」と呼ぶ。労働者は所得をすべて消費するわけではなく、国民所得が増えても消費はそれより少ないのが一般的である。国民所得から総消費を差し引いた総投資水準に依存して雇用の均衡水準が決定される。有効需要Dは、消費財生産に需要と投資財の需要によって決まる。このように雇用量は総供給曲線、消費性向、投資に依存して決まるというのが雇用の一般理論である。「豊富の中の貧困のパラドックス」は実際の生産量と潜在的生産能力のギャップによって非自発失業は増大する。生産性が上がるほど失業が増える成熟社会の宿命がある。これに貨幣経済が追い討ちをかける。
(つづく)
第3講 「ケインズのヴィジョン」 (2)
新古典派理論は個人行動への分解可能性を前提としている。ケインズ理論は投資と貯蓄・消費がそれぞれ基本的には性格の異なる経済主体(資本と家計)によって決定されることを前提とする。古典派の集計的生産曲線(前生産量Qを労働量Nの関数であらわす Q=f(N))の傾きはdQ/dNで労働の限界生産を示すが、それが実質賃金に等しいとする。しかしこの数式モデルは関数形も明確でなく、Q=f(N)といって何の御利益があるのだろうか。又関数形も分からない曲線でどうしてある点(2回微分が+から-へ変わる変曲点らしいが、それが平衡点になる)の接線の傾きが利潤(売上から経費を引いた価)が最大点であると云う、とても数式による証明ではなく解析幾何の連想によるアナロジーは私には全く理解できない。生産量は働く人が多ければ大きくなるぐらいの連関で関数的表現もなくどうして微分や変曲点など定量的に議論できるのだろうか。ある経済変の関係を式に置き換えたとしても、その展開は四速演算程度であり、その式の展開は極めて初歩的で簡単に導ける。しかし変数と関数の関係は不定でどちら結果でどちらが要因なのか分からないようでは式の演算をしても甲斐がない。前提条件の吟味のほうが重要では無いか。したがってこのあたりの数式は全部省略する。そこで一般理論で中心的役割を果す有効需要の概念について考えよう。生産物の価値から労働費用(要素費用)と材料と設備に関する使用費用を引いた額が利潤である。それが企業の所得となる。セーの法則は雇用量に対する生産の総需要曲線、賃金の総供給曲線の交わるところで完全雇用の需要と供給が一致するというが、ケインズは不完全競争を念頭においてこの点を「有効需要」と呼ぶ。労働者は所得をすべて消費するわけではなく、国民所得が増えても消費はそれより少ないのが一般的である。国民所得から総消費を差し引いた総投資水準に依存して雇用の均衡水準が決定される。有効需要Dは、消費財生産に需要と投資財の需要によって決まる。このように雇用量は総供給曲線、消費性向、投資に依存して決まるというのが雇用の一般理論である。「豊富の中の貧困のパラドックス」は実際の生産量と潜在的生産能力のギャップによって非自発失業は増大する。生産性が上がるほど失業が増える成熟社会の宿命がある。これに貨幣経済が追い討ちをかける。
(つづく)