村社参道の桜
日銀黒田の異次元金融緩和策による物価上昇2%目標はうそ、格差と停滞のアベノミクスは破たんした 第11回
4) 広がる格差
アベノミクスの成果として宣伝されるのが、企業の業績回復である。アベノミクスで一番得をした人、損をした人、どちらに比重が大きいかによってその政策の真の目的が分かる。99%の国民は後者である。後者が何時まで経っても効果がないと不平を言うと、そのうちおこぼれが落ちてくるまで待てと言われる。まず企業と金融資本を富ませて、国民は後回し、これがトリクルダウンです。2015年岩田はこのことを次のように言っている。「企業収益の改善は、企業・家計の両部門を通じて国内民間需要に波及する好循環を生み出している」 ところが2016年になると企業の利益が悪化してきた。生産が低迷しているのに、なぜ企業の利益だけが急増するのだろうか。内閣府のデーターで全産業活動指数、売上高、GNI、人件費、営業利益の推移を見る。2013年を100として表現されている。アベノミクスが始まって営業利益だけが急増している2016年で150に増加した。全産業活動指数は緩やかな増加をして2014年に低下し、それから103で横ばい状態である。人件費はアベノミクスが始まって95まで減少したが、2014年から緩やかな増加に転じ21016年で100に回復した。名目国民総所得GNIは増加傾向であるがそれでも110である。このようにアベノミクスが始まって4年間の、生産、売り上げ、所得の増加はわずかである。にもかかわらず営業利益が急増したのは、円安と原油価格の急落が生じたからである。そして人件費の削減も営業利益を引き上げた。財務省のデータより、法人企業の営業利益の要因として、売り上げ、原価削減、固定費削減、人件費削減の寄与分の和としての営業利益の推移と利潤分配率の推移を見る。利潤配分率とは(営業利益)/(人件費+営業利益)のことである。営業利益は企業側に人件費は労働者側に移動するので企業側が利益を受け取る率である。2011年と2012年は売上要因はマイナスで営業利益はほぼゼロかマイナスであった。利益配分率は19-20%ほどで低迷していた。2013年より円安によって売上要因が急増した。円安による輸出価格の上昇と輸入インフレによる国内物価の上昇のためである。ところが2014年から原油価格の急落によって輸入価格は低下したので売上要因は減少しマイナスとなった。原価削減要因がプラスとなって、かつ人件費要因はマイナスになったので営業利益はまだ増加傾向であった。生産が低迷している状況で営業利益拡大の原因は名目的要因でしかありえない。2015年円高になって売上高が減少し人件費の増加要因が加わると営業利益は下がり始める。企業利益の急増は経済の好循環を意味していない。しかし営業利益の産業と企業規模による違いは大きい。財務省のデーターから営業利益の増加率の推移(2011-2016年)を産業別、企業規模別でみてゆこう。これは企業格差を調べることになる。産業を輸出型製造業、内需型製造業、建設・不動産業、非製造業に分けて考えると、輸出型製造業の営業利益は急増した。規模は資本金10億円以上の巨大企業における営業利益の増加が著しい。おなじ輸出型製造業でも資本金1000万円―1億円の中小企業では営業利益の増減が激しく、円安によって原材料費の高騰に苦しめられ経営が苦しい。建設業・不動産業の営業利益も急増した。内需型製造業も営業利益を増価させているが輸出型製造業ほどではない。非製造業の営業利益は2014原油価格急落によって輸入物価が急落すると営業利益は増えた。アベノミクスで利益を上げたのjは巨大企業で、中小企業にはその恩恵は少ない。成長重視派の論客は労働側に富を配分しても、企業は成長しないという。経済が成長していない時、巨大企業に富が集中すれば労働側のパイは少なくなり格差は拡大され、消費者の購買意欲は減少する。だから巨大企業の利益の急上昇は経済成長を意味しないし、アベノミクス成長戦略はかえって国内内需経済を縮退させる。円安と原油安のために、企業の利益は空前の増加を成し遂げたが、その利益は従業員の給料や設備投資には向かわず、内部留保として蓄えている。これが経済の回復を妨げる要因になっていることは公知の事実として認識されている。日銀のデーターにより、非金融法人企業の現金・預金と対外投資(GDP比)の推移を見てゆこう。企業の預金と現金は、1988年より2008年までほぼ横ばいで180兆円程度で推移していたが、2012年より増加傾向が顕著になり2016年には230兆円に拡大した。つまり50兆円ほど増えたことになる。国内で貯金していても増えないから資金の運用先として当然金利の良い対外投資額が比例して増加している。約8割が対外投資に向かっている。つまりドルを買っていることになり、日銀の望む円安路線になる。2016年の円高時にも対外投資は減少しなかった。日銀リフレ派はアメリカFRBに倣った金融政策を行い、デフレを脱却すれば日本もアメリカのように回復すると論じてきたことは先に述べた通りである。ではアメリカ経済の何が回復しているのだろうか。その内実を見てゆこう。アメリカ国税庁のデーターより、アメリカの所得階層別の実質課税所得を見てゆこう。所得トップ1%層の所得は1990年代のITバブル期に急増し、2000年代の住宅バブル期で再び高騰した。2008年世界金融危機で急減しその後回復したがピークまでには至っていない。所得トップ1%層はバブルと共に成長してきたのである。それ以下の所得層ではバブル期の所得増加は少なくなり、上位50%層ではこの30年間所得はほとんど変化していない。ピケティが2014年「21世紀の資本」で指摘したように、上位1%以上の富裕層の所得の大半は資産所得である。現在のアメリカの資本主義は「投資資本主義」と言われる。投資資本主義の経営モデルと金融緩和のフレームワークが有効に機能すれば、利益を受けるのは株主と経営者である。逆に雇用の破壊と賃金停滞によって中間層は没落してゆく、とくにブルーカラーの貧民化は著しい。こうした社会の不安定期を背景としてトランプ大統領が出現したのである。民主党の既成政治の信頼が失われ、左右の両極が支持を集める様子は、1930年代のヒトラー台頭のドイツを彷彿させる。世界経済の危機が、大恐慌以来の政治の危機を生み出したのである。財務省法人企業統計によって、産業別、企業規模別従業員の実質給与・賞与の推移を見てゆこう。従業員数よは常用者の期中平均人員と臨時従業員(総従事時間数を常用者平均労働時間で割った人員数)の和である。一人当たりの実質給与・賞与の変動は資本金10億円以上の巨大企業で2008年の世界金融危機時に急減したが、製造業・非製造業・企業規模の違いはあっても概ね同じ推移を示している。アベノミクスが始まる2013年以降実質給与・賞与は減少した。企業規模の違いはない。すなわち企業の営業利益の増大は賃上げにはほとんど影響しなかった。利益はすべて企業側が独り占めしたのである。びた一文トリクルダウンはなかった。
(つづく)