ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月31日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第19回 最終回

第8講 第6篇「一般理論から導き出せるいくつかの覚書」

 終章において、ケインズは言い足りなかった話題について「覚書」という形でまとめた。景気循環、社会公正という観点である。景気の循環は投資の限界効用率が循環的な変動をすることから引き起こされる。限界効用スケジュールの変動に伴って、他の経済的変数の短期的変動がさらに拡大され経済全体の循環的変動を誘発するというものである。中でも恐慌という急激な景気の変化は景気の下降局面で起る。ケインズは景気循環理論はこの恐慌を適切に説明できなければならいという。投資活動が経済活動の中心である事が強調される。恐慌を誘発する基本的な要因として、投資の限界効率の期待の崩壊が挙げることができる。株式を中心とする長期金融資産の市場価格は投機的動機に基づく期待を反映して、ファンダメンタルズを大きく上回っていることが一般的である。長期金融資産の市場価格の暴落は利子率の上昇を引き起こす。利子率の上昇は限界投資効率を下方へ移動させ、投資の大幅な減少となる。投資の減退は有効需要と雇用量の減少、失業の大量発生となる。これが恐慌である。利子率を下げるという金融政策だけは恐慌からの脱出を図ることは出来ない。投資の限界効率を回復させることは、悲観的となった企業家の心理をコントロールすることが出来ない限り不可能である。やはりある程度の時間的経過が必要であるという。恐慌の消費性向に与える影響も簡単には回復しない。社会的な観点から消費を煽るよりは、投資の増加を図る方が賢明な方策であると云う。ケインズはこのような景気循環は自由放任の資本主義では不可避の現象であるとあきらめ顔だ。

 ケインズは一般理論の哲学を持って結論とする。「我々の住んでいる社会はその顕著な欠陥として、完全雇用を実現できず、富と分配が恣意的で不平等である」 所得の分配の公正化は直接税(相続税もふくむ)を使って解決する試みがなされてきた。所得分配の平等化によって、消費性向は高まり資本蓄積は進むという目論見である。現在の資本主義経済では富の蓄積は富める人の節約に依存するのではなく、国民所得に現れる一般の人々の消費性向に依存することが明らかである。利子率は出来る限り低い方が、投資水準が上がり資本蓄積は大きくなり雇用量は増えるのである。そして政府の果すべき役割について、政府はまず利子率、税制などの政策手段を持って消費性向を望ましい方向へ誘導する機能を果すべきである。投資についてはある程度社会化を行なわないと完全雇用は不可能であるという。結局1国経済では国内の失業、貧困の問題を解決するには海外に市場を求めて拡大する(外部を内部化する)他に手段は無いと主張する。貿易制限は失業問題を他国に転嫁するにすぎず、自由主義的国際制度の確立が他国を圧迫しないよう、労働の国際分業、国際金融制度が必要であろう。
(完)


文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月31日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第91回

* KHM 154  くすねた銅貨
良心の呵責に苦しむ子どもの魂を描いた小品ながら質の高い童話です。ある家にお客さんが来て食事をしていましたが、雪のように白い女の子がものもいわず入ってきて隣の部屋にゆき、物音立てずに出てゆくのを見ました。お客は2日目も見ました。3日目にその女の子を見ると、お客は家の夫婦に指さして尋ねましたが、夫婦には見えないようです。お客さんは隣の部屋をよく見ますと、女の子は床の板の隙間を指でほじくっているように見えました。この話を家の夫婦にしますと、それは一月ばかり前になくなった娘ではないかといいました。そこでお客と夫婦は隣の部屋の床をはがして調べますと銅貨が2枚出てきました。これは貧しい人にあげるといって、お母さんから子供が戴いたのですが、どうやら隠し持っていたようです。死んでからも心が落ち着かず、毎日お昼にその銅貨を探しに来ていたようです。夫婦はその金を貧しい人にあげますと、子どもの姿は見られなくなりました。

* KHM 155  嫁えらび(おみあい)
若い男は三人娘の誰をお嫁さんにしようかとお母さんに相談すると、チーズのきり方を良く見て御覧ということでした。一番上の娘は外皮ごと食べ、2番目の娘は外皮を切り取りましたが、まだ食べられる部分も一緒に捨ててしまいました。3番目の娘はちょうどいい具合に外皮を切り取りました。そこで男は末娘をお嫁さんにしました。

* KHM 156  ぬらぬらの亜麻のかたまり
お嫁入りする娘がいましたが、生来怠け者でものぐさでした。亜麻の糸を紡ぐとき少しでも結び目があると捨ててしまいました。働き者の女中はその結び目を拾っては、丹念に解き糸を紡いで自分の衣裳を作りました。結婚式で女中のきれいな衣装を見てお婿さんはそのわけを尋ねますと、ものぐさ嫁さんはあの女中娘は私の捨てた亜麻糸で衣裳をこしらえたと話しました。お婿さんはお嫁さんのものぐさに気がつき、働き者の女中を気に入って、婚約を破棄して女中と結婚しました。
(つづく)