ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月27日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第15回

第6講 第4篇「投資誘因」 (2)
 投資の限界効率のスケジュールによって新しい投資に必要な貸付資金に対する需要が決まってくるわけだが、市場利子率は貸し付け資金の供給を規定する。利子率に関する古典派の考えは、「利子率は投資と貯蓄が等しくなるような水準に決まる」という。市場利子率は貸し付け資金の需要と供給とが均衡する水準であるので、これを「貸し付け資金説」という。ここでケインズは「利子率の一般理論」を提案する。つまり所得水準、雇用水準に応じて投資と貯蓄の流れが決まるため、流動性の高い金融資産(現金)で保有するか、流動性は少し犠牲にして収益性の高い金融資産(債券など)で貯蓄するという流動性選好によって貯蓄の形が決まるとした。利子率は流動性を犠牲にすることに対する報酬である。ケインズは貨幣を「銀行預金残高と流通現金残高」と定義し、利子率は資産を貨幣の形で保有しようとする欲求と貨幣の供給量とを均衡させる価格であるという。つまり利子率は貨幣の供給量によって決まるとケインズは主張する。貨幣供給量を増加させると利子率は低くなり投資が増えるため、雇用水準を高め、所得の増加に伴う流動性選好の上昇(投機的要素)に吸収されるという。所得水準と価格水準も高くなる。これを「ケインズ的プロセス」と呼ぶ。貨幣は経済取引の決済手段として、富の保蔵手段としての役割がある。現金を保有していても一切価値を生まないのになお一定量の貨幣は手元に持ちたいのである。これをケインズの「流動性選好理論」と呼ぶが、それは利子率に関する不確実性の存在であり、満期を持つ負債(長期で購買支配力を取り戻すことができる財)に対して将来どのような利子率が支配するかを考慮することである。

 ケインズは流動性を支配する4つの動機(貯蓄の動機に似ている)を導入する。
①所得動機(支払いにそなえた貨幣保有) 
②営業動機(売上回収と営業的支出の時間間隔) 
③予備的動機(突然の購入機会や支出に備える) 
④投機的動機(市場価格の変動に対する知識を持って利益を確保するため) 
 企業活動に必要な①から③に要する貨幣量は国民所得水準の規模によってきまってくるが、貨幣当局(日銀)による貨幣管理の経済的効果は主として投機的動機に現れる。これを「オープンマーケットオペレーション」という。金融当局への期待が流動性選好自体にも影響を与えるからである。金融当局は常にシグナルを発し続けるのである。貨幣供給量が増えたとき、それは一部は投機的動機による貨幣需要に吸収される。証券に対する需要が増え利子率が低下する。利子率が独立的政策変数として現れ、貨幣供給量が逆に従属的変数に変わるのである。したがってケインズ的金融政策というとき利子率をある水準に安定的に維持しようとする政策を意味する。マネタリストの金融政策とは貨幣供給量と変化量を安定化させる政策であった。ケインズは貨幣流通速度として(所得/貨幣供給量)を定義し、投機的動機以外の①-③のための利子率は貨幣供給量に等しいので貨幣流通速度は短い期間ではほぼ一定と見られる。利子率がある水準よりも低いような状態で、利子率が極僅かしか上昇しない(利子率の変化率 臨界変化率)という期待では金融資産に対する需要はゼロとなり、貨幣に対する需要が限りなく多くなる。これをケインズは「流動性の罠」と呼んだ。
(つづく)



文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月27日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第87回

* KHM 142  ジメリの山
「開けゴマ!」(ゴマははじけて散ることから開くことの象徴です)で有名なアラビアンナイトの「アリババと40人の盗賊」の話に類似しています。二人の兄弟がいました。貧乏な弟は大きなはげ山に差し掛かると、盗賊が12人も現れ「ゼムジの山や、開け」と呼びかけると岩が開け中に入ってゆくのが見えました。暫くすると盗賊は出てきて「ゼムジの山やしまれ!」と呼びかけると岩が閉まりました。これを見た弟は言葉を覚えていて同じ号令で岩を開きました。中に入ると財宝が一杯あって弟は財宝をかすとって岩を閉めて逃げ帰りました。何度かゼムジの山へ出かけて急に裕福になった弟をみて、金持ちの兄は弟を問い詰めました。弟はしかたなしに教えましたが、入るときの言葉は間違えなかったので、財宝を積める限り車に積んででようとするとき言葉を間違って「ジメリの山や開け」と叫んだので戸は開きません。そのうち12人の盗賊が帰ってきて兄を見つけ殺しました。

* KHM 143  旅にでる
貧乏な女に知恵の足りない息子がいました。旅に出て稼ぐつもりで家を出ました。状況に応じて言葉を使う事を知らず、教えられた言葉を正反対の状況で使ってお仕置きを受けるという手の込んだ連鎖話です。漁師の前で「たんとない」と言ってどやされ、「うんととれ」と言えと教えられます。首吊り台のまえで「うんととれ」といってお上からどやされ、「神よ永劫の罰を受けた魂を慰めたまえ」と教えられます。このような失敗談を次々と展開する話ですが、結局村へ帰り二度と外へは出ませんでした。

* KHM 144  ろばの若さま
動物婿話型の童話です。ロバは愚鈍や剛情の象徴です。王さんとお妃の間にロバの子が出来ました。陽気な子どもに育ち、とりわけ琵琶がうまく弾けました。ロバの王子様は当てのない音楽修行のたびに出ました。ある国にはいり王様から歓待されお姫様と結婚しました。お姫様の寝室に入るとロバは皮を脱ぎ捨てりりしい人間の姿になりました。そこである夜王子様が皮を脱いでベットに入ったのを見計らって、王様はその皮を焚火で燃やしました。
(つづく)