市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第15回
第6講 第4篇「投資誘因」 (2)
投資の限界効率のスケジュールによって新しい投資に必要な貸付資金に対する需要が決まってくるわけだが、市場利子率は貸し付け資金の供給を規定する。利子率に関する古典派の考えは、「利子率は投資と貯蓄が等しくなるような水準に決まる」という。市場利子率は貸し付け資金の需要と供給とが均衡する水準であるので、これを「貸し付け資金説」という。ここでケインズは「利子率の一般理論」を提案する。つまり所得水準、雇用水準に応じて投資と貯蓄の流れが決まるため、流動性の高い金融資産(現金)で保有するか、流動性は少し犠牲にして収益性の高い金融資産(債券など)で貯蓄するという流動性選好によって貯蓄の形が決まるとした。利子率は流動性を犠牲にすることに対する報酬である。ケインズは貨幣を「銀行預金残高と流通現金残高」と定義し、利子率は資産を貨幣の形で保有しようとする欲求と貨幣の供給量とを均衡させる価格であるという。つまり利子率は貨幣の供給量によって決まるとケインズは主張する。貨幣供給量を増加させると利子率は低くなり投資が増えるため、雇用水準を高め、所得の増加に伴う流動性選好の上昇(投機的要素)に吸収されるという。所得水準と価格水準も高くなる。これを「ケインズ的プロセス」と呼ぶ。貨幣は経済取引の決済手段として、富の保蔵手段としての役割がある。現金を保有していても一切価値を生まないのになお一定量の貨幣は手元に持ちたいのである。これをケインズの「流動性選好理論」と呼ぶが、それは利子率に関する不確実性の存在であり、満期を持つ負債(長期で購買支配力を取り戻すことができる財)に対して将来どのような利子率が支配するかを考慮することである。
ケインズは流動性を支配する4つの動機(貯蓄の動機に似ている)を導入する。
①所得動機(支払いにそなえた貨幣保有)
②営業動機(売上回収と営業的支出の時間間隔)
③予備的動機(突然の購入機会や支出に備える)
④投機的動機(市場価格の変動に対する知識を持って利益を確保するため)
企業活動に必要な①から③に要する貨幣量は国民所得水準の規模によってきまってくるが、貨幣当局(日銀)による貨幣管理の経済的効果は主として投機的動機に現れる。これを「オープンマーケットオペレーション」という。金融当局への期待が流動性選好自体にも影響を与えるからである。金融当局は常にシグナルを発し続けるのである。貨幣供給量が増えたとき、それは一部は投機的動機による貨幣需要に吸収される。証券に対する需要が増え利子率が低下する。利子率が独立的政策変数として現れ、貨幣供給量が逆に従属的変数に変わるのである。したがってケインズ的金融政策というとき利子率をある水準に安定的に維持しようとする政策を意味する。マネタリストの金融政策とは貨幣供給量と変化量を安定化させる政策であった。ケインズは貨幣流通速度として(所得/貨幣供給量)を定義し、投機的動機以外の①-③のための利子率は貨幣供給量に等しいので貨幣流通速度は短い期間ではほぼ一定と見られる。利子率がある水準よりも低いような状態で、利子率が極僅かしか上昇しない(利子率の変化率 臨界変化率)という期待では金融資産に対する需要はゼロとなり、貨幣に対する需要が限りなく多くなる。これをケインズは「流動性の罠」と呼んだ。
(つづく)
第6講 第4篇「投資誘因」 (2)
投資の限界効率のスケジュールによって新しい投資に必要な貸付資金に対する需要が決まってくるわけだが、市場利子率は貸し付け資金の供給を規定する。利子率に関する古典派の考えは、「利子率は投資と貯蓄が等しくなるような水準に決まる」という。市場利子率は貸し付け資金の需要と供給とが均衡する水準であるので、これを「貸し付け資金説」という。ここでケインズは「利子率の一般理論」を提案する。つまり所得水準、雇用水準に応じて投資と貯蓄の流れが決まるため、流動性の高い金融資産(現金)で保有するか、流動性は少し犠牲にして収益性の高い金融資産(債券など)で貯蓄するという流動性選好によって貯蓄の形が決まるとした。利子率は流動性を犠牲にすることに対する報酬である。ケインズは貨幣を「銀行預金残高と流通現金残高」と定義し、利子率は資産を貨幣の形で保有しようとする欲求と貨幣の供給量とを均衡させる価格であるという。つまり利子率は貨幣の供給量によって決まるとケインズは主張する。貨幣供給量を増加させると利子率は低くなり投資が増えるため、雇用水準を高め、所得の増加に伴う流動性選好の上昇(投機的要素)に吸収されるという。所得水準と価格水準も高くなる。これを「ケインズ的プロセス」と呼ぶ。貨幣は経済取引の決済手段として、富の保蔵手段としての役割がある。現金を保有していても一切価値を生まないのになお一定量の貨幣は手元に持ちたいのである。これをケインズの「流動性選好理論」と呼ぶが、それは利子率に関する不確実性の存在であり、満期を持つ負債(長期で購買支配力を取り戻すことができる財)に対して将来どのような利子率が支配するかを考慮することである。
ケインズは流動性を支配する4つの動機(貯蓄の動機に似ている)を導入する。
①所得動機(支払いにそなえた貨幣保有)
②営業動機(売上回収と営業的支出の時間間隔)
③予備的動機(突然の購入機会や支出に備える)
④投機的動機(市場価格の変動に対する知識を持って利益を確保するため)
企業活動に必要な①から③に要する貨幣量は国民所得水準の規模によってきまってくるが、貨幣当局(日銀)による貨幣管理の経済的効果は主として投機的動機に現れる。これを「オープンマーケットオペレーション」という。金融当局への期待が流動性選好自体にも影響を与えるからである。金融当局は常にシグナルを発し続けるのである。貨幣供給量が増えたとき、それは一部は投機的動機による貨幣需要に吸収される。証券に対する需要が増え利子率が低下する。利子率が独立的政策変数として現れ、貨幣供給量が逆に従属的変数に変わるのである。したがってケインズ的金融政策というとき利子率をある水準に安定的に維持しようとする政策を意味する。マネタリストの金融政策とは貨幣供給量と変化量を安定化させる政策であった。ケインズは貨幣流通速度として(所得/貨幣供給量)を定義し、投機的動機以外の①-③のための利子率は貨幣供給量に等しいので貨幣流通速度は短い期間ではほぼ一定と見られる。利子率がある水準よりも低いような状態で、利子率が極僅かしか上昇しない(利子率の変化率 臨界変化率)という期待では金融資産に対する需要はゼロとなり、貨幣に対する需要が限りなく多くなる。これをケインズは「流動性の罠」と呼んだ。
(つづく)