ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 小野善康著 「成熟社会の経済学」 岩波新書

2012年10月31日 | 書評
生産力過剰の成熟社会の長期不況は、内需拡大による雇用創生が鍵 第5回

1)発展途上国社会と成熟社会の経済政策(1)
 日本は1980年代半ばから発展途上国型経済から成熟社会型経済に移っている。家庭電気商品の普及率は1975年-1980年あたりでほぼ100%に達し、高速道路の総延長と乗用車の普及率だけはまだ直線的に増加していた。この時代の消費者も企業も幸せな時代であった。社会インフラや商品は充実してゆき、生産性向上だけが経営者の課題であった。このような経済では雇用は安定し社内教育は人間重視でスキルを磨き一生懸命働けばどんどん豊になってゆくという経済メカニズムが働いていた。ちょうど私たちの年代の会社生活であった。電気製品は次々と新製品が現れ、それで生活は結構楽しかったのである。人並みに新車を買って家族旅行に出かけることが多かった。貯金は出来ていたかどうか覚えていないが、そんな貯金の心配もなかった。給料もどんどん年齢に応じて上がっていった。企業はJapan as No.1とうのぼれるほど生産性は世界一に近づいた。今の中国のように日本は世界の工場であった。ところが1990年代になると次第に成熟社会に移行し、物やサービスが揃い、魅力的な製品が伸びなくなり、潜在的供給能力は拡大し需要を超えてしまったようである。生産性が上がった分だけ商品が売れるわけではなくなったので、労働力がだぶつき始め慢性的な長期不況状態になったのである。お金は物を買うための交換価値であるが、別に金や紙幣でなくて電子データにすぎず、抽象的に要求一般を満たすものである。古典経済学では人々が欲しいのは貨幣でなく、モノやサービスであるとして、需要と供給は一致すると説く。そして「供給が需要を呼ぶ」ということを「セイの法則」という。ところが物々交換ではそうかもしれないが貨幣経済では一般価値としての貨幣獲得が目的となる。だから貨幣があるから不況があるということができる。
(つづく)

読書ノート 山口二郎著 「政権交代とは何だったのか」 岩波新書

2012年10月31日 | 書評
マニフェストを実行できない民主党の問題と民主政治への展望 第8回

3)政策転換の失敗(1)
 民主党政権で政策転換の進展を、税制、社会保障、沖縄基地問題について検証し、民主党マニフェスト政治の中間総括を行なう。
① 税制: 民主党は租税政策の形成システムを政府一元化において検討し、①納税促進税制(納税者権利憲章)、②雇用促進税制(福祉から雇用促進へ)、③租税特別措置(業界特別優遇を洗いだし)、④市民公益税制(NPO寄付金)の4つのテーマについて専門委員会が政府税調に報告した。政権交代により実現した変革はNPOに対する寄付に税制の優遇を与えたことである。ただし税制優遇を受けるNPOの認定が非常に厳しく8700のNPOのうち僅か9件にすぎず、財務省の抵抗がここにも現れていた。地球温暖化対策は鳩山政権が成立直後に国際的に公約し称賛を受けた政策であるが、環境税の設定については財界および経産省の猛反対のまえに民主党政権でも乗越えることは出来なかった。納税者権利憲章などは一定の進展があった。
② 社会保障: 社会保障の基本を雇用を促進することにおくという西欧社会民主主義政策が提示された。まず自民党政権で切り捨てられた母子加算復活を行ったことは大きな成果であった。小泉政権で定められた障害者自立支援法という受益者負担原則を廃止し、2011年7月障害者基本法改正が図られたことも大きな成果であった。長妻厚労大臣が取り組んだ、消えた年金の全件照合は2013年までに完了するという方針は大幅に後退し半数の照合がやっとだということになった。消えた年金の全件解明は挫折し、自分でやってみると予想外に困難だったことがわかったようだ。そして新たな年金問題(第3号被保険者問題)が発生し、2年間納入すれば未納分は問わないとする官僚の策は世論の猛反対を受け、2011年3月で「運用3号」の扱いを停止し、法律改正で対応することになった。
③ 沖縄基地問題: 鳩山首相は普天間基地の国外移転、最低でも県外移転を2010年5月までに行なうと約束した。首相が考えていた徳之島移転、および辺野古基地移転は猛反対を受け、社民党の政権からの離脱を招いて鳩山首相は退陣した。米国との交渉において最大の障害は、日米安保を国体と考える外務省と防衛省の官僚の抵抗であった。菅首相はこの問題に全く触れようともしなかったので、沖縄基地問題は最初の日米案に戻りそれも進展していない。
(つづく)


筑波子 月次絶句集 「夜雨秋思」

2012年10月31日 | 漢詩・自由詩
帰鴉亞亞破寒煙     帰鴉亞亞と 寒煙を破り

遠雁蕭然落野川     遠雁蕭然と 野川に落つ

淅瀝江邊梧葉雨     淅瀝と江邊に 梧葉の雨
 
暁秋入夢故郷天     暁秋夢に入る 故郷の天


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(韻:一先 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)