ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 津久井進著 「大災害と法」 岩波新書

2013年03月03日 | 書評
大災害の被災対応と復旧・復興に法の課題とはなにか 第3回

第1部 「法のかたち」 (2)
災害関連法は主要な法律だけでも100を超えるといったが、更に法に基づいた下位の「政令」や「規則」、「通知」、「連絡」、「運用基準」がある。「政令」は総理大臣と担当大臣が署名するが、「省令」は担当大臣だけで決定する。省の事務次官、課長がだす「通知」は地方自治法に基づく技術的助言である。マニュアルやガイドラインにあたる「事務連絡」、「基準」は地方に指示を出す。法律だけでなく「前例」という慣例重視も大きな要因である。災害救助法には「生業に必要な資金、器具または資料の給与」の規定があるが、官僚は「現金支給は前例がない」と現金給付を堅く拒んでいる。災害現場では慣例が法を超えて運用が優先している。現場では予算措置がついたものから,国庫負担率の高いものから順に施策が行なわれる。優先順位は財政的裏づけの程度できまるようである。それを決めているのが「要綱」である。日本の災害法の特徴は災害救助や復旧・復興よりも防災とりわけ防災公共事業に重点を置いている。阪神・淡路大震災までは災害関連法は防災に関するものが大半を占め、復興については殆ど考えてこなかった。この矛盾が今回の東日本大震災で露呈した。このような防災中心主義は防災のための開発工事などの公共事業とともに発展し族議員を生じた。日本の災害法のもうひとつの問題点は災害救助法の権限は都道府県知事にあり、災害対策基本法の責任は市町村に分属するというねじれ問題にある。災害により市町村という司令塔の壊滅により、救助や対策が遅れ混乱したことは記憶に新しい。地震・自然災害の少ない欧州特に、ドイツ・フランスの災害法制は治安や有事法制を基本としたつくりとなっている。それに対してアメリカは「ロバート・T・スタフォード法」は災害対応を目的とした法であり、米国連邦緊急事態管理庁FEMAは災害対応庁である。今回の災害で自衛隊の活動は目を見張るものがあったが、やはり有事法制と災害法制とは峻別することが望ましい。
(つづく)

読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月03日 | 書評
古典経済学が説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第43回

第4篇 経済学の諸体系(重商主義)
第7章 植民地について (5)

 スペインやポルトガルでは豊かな植民地を得てから国内製造業はすっかり衰退した。ところがイングランドでは貿易の一般的自由に支えられ全体としての植民地貿易の利益が独占経営のマイナス面を上回って、国内製造業を有利にした。独占貿易による利潤率の向上は土地の改良意欲を阻害し、地価は下落し地主の利益を損なった。結局独占は商人の我利政策であり,その貿易の高利潤は彼らの節約や資本蓄積の美徳を破壊してしまった。(株でも儲けてまともに働く意欲をなくした若者のようである) スミスは国富増進の原因として、分業を基盤とする生産技術や生産性の向上と節約による資本蓄積と新たな投資拡大の2つを挙げている。このまじめな資本主義精神が、悪徳の利潤によって麻痺してしまう事を警戒するのである。植民地独占貿易を維持するためには植民政策の経費は巨大に過ぎるので、自発的かつ友好的に植民地を放棄することが得策であると、スミスはイングランドは重商主義植民地政策から離脱する事を推奨する。植民地は軍の徴兵令に応じないし税負担にも協力的でない、結局維持するには費用がかかりすぎるのでイングランドは植民地を自発的に放棄すべきであるという。植民地に対しては課税に比例した代議制を採用すべきかもしれないと提案する。1国の資本はその最も有利な用途を自ずから探し出して適正に配分されるものであるが、重商主義の利己心はさまざな独占と規制によって資本の分配をかく乱する。スウェーデンやデンマークのような資本蓄積の小さな国では集中して資本を投じるために東インド会社のような排他的独占会社を必要としたのであろうが、イングランドやフランスのように十分産業が発達し民間に資本蓄積がある国には独占は不必要で有害である。
(つづく)




文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月03日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第64回

* KHM 101  熊の皮をきた男
 前作の変化した話であろう。除隊となった兵隊さんには親はなく故郷もなく、一文無しで、手に職はなく、覚えたのは戦争の小手仕事だけで到底独り立ちが出来ません。荒野の環状に生えた木のもとで青い服を着て馬の足を持つ悪魔に出会いました。一生涯生活を楽にしてやる代わりに、7年間体を洗わず髪にくしを入れてはならない、主に祈りをしてはいけないという条件です。そして兵隊さんは悪魔から青い上着と熊の毛の外套を渡して、人に問われたら「熊の皮を着た男」といえと言うのです。上着のポケットに手を突っ込めば一つかみのお金が出るのです。こうして熊の皮を着た兵隊さんは7年間の放浪のたびに出ました。兵隊さんは優しい正確なので、途中いろいろな人に善行を施し、4年目に助けた人の末娘と許婚になりました。丸7年が過ぎて年季が明けると、悪魔に体を洗ってもらって、町で洋服を買いすっかり美男子となって婚約者と結婚しました。

* KHM 102  みそさざいと熊
 熊と狼が森を散歩していました。鳥のさえずりを聞いた熊はその美しい声の主は誰かと狼に聞くと、それはミソサザイの王様だといいました。そこで熊はミソサザイの王様とお妃さんが飛び立った後、木の上の巣(御殿)を覗いてみますと,ひな鳥(王子様)が5,6羽いましたが、小さいので熊は馬鹿にしました。ひな鳥は王様が巣に帰ってくると、くまに馬鹿にされたので復讐をするように頼みました。そこで熊とミソサザイ族の決戦となり、熊は地上のけだものを集めて軍隊をつくり、ミソサザイは空を飛ぶもの全部集めて軍隊を作りました。決戦が始まるとミソサザイは間者を出し、地上軍の参謀である狐の戦いの合図(尻尾を上げたら進軍、尻尾をさげたら退却)を探り出し、ミソサザイは狐の尻尾に総攻撃をかけました。尻尾を巻いて狐が逃げましたので、地上軍は総退却し空中軍の勝利となりました。
(つづく)