ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 坪井信行著 「100億円はゴミ同然ーアナリスト、トレーダーの24時間」 幻冬社新書

2008年03月31日 | 書評
投資関連企業で働くアナリスト、トレーダーの実態 第3回

投資関連業界の構造

 そもそも投資とは資金を投入して利益を得ることを意図した行為をいいます。ここで多少業界術語を知っておく必要がある。投資関連業界にはお金を預かって運用する側と、運用者から売買の注文を貰って取引をして手数料を戴く側があり、前者を「バイサイド」、後者を「セルサイド」という。「バイサイド」には生命保険会社、信託銀行、投資信託運用会社、投資顧問などの機関投資家がいる。「セルサイド」は証券会社になる。これらの二者に入らない個人投資家がある。個人のバイサイドともいえる。投資顧問は1980年代に出来たものでアドバイスのみを行う業務と、発注まで行う一任契約業務がある。機関投資家としての投資顧問はこの一任業者のみをさす。多くの機関投資家は東証の指標となるTOPIXや日経225平均というベンチマークに対して「相対的リターン」に注目するが、ヘッジファンドは利益すなわち「絶対的リターン」を追及する投資家である。ヘッジファンドは割高な株を空売りする「ロングショート戦略」、相関性の高い銘柄の位置関係を操作する「ペアレード戦略」をとることもある。セルサイドとしての証券会社の業務には、資本市場全体で資金を調達する「発行市場」(引き受け業務)と、証券を売買する証券取引所での「流通市場」に深くかかわっている。証券会社はどうして儲けが成り立っているかというと、発行市場での引き受け手数料と販売手数料(数%から十数%で結構高い)、そして株委託売買手数料であるが是は非常に低い。数ベーシスポイントから20ベーシスポイント(ベーシスポイント=0.01%)程度である。さらに証券会社には自己売買部門があり比較的短期間で損益を確定するトレーディング業務からの儲けがある。さらに証券会社は企業そのものの売買M&Aの仲介からも非常に大きな儲けを生む。このM&Aは高い収益性が期待される。これを専門的に行うのが「インベストメントバンキング」即ち投資銀行である。

読書ノート 朝日新聞特別報道チーム著 「偽装請負ー格差社会の労働現場」

2008年03月31日 | 書評
製造企業のリストラ後一気に広まった「偽装請負」という雇用形態 第5回


1)キャノンの偽装請負 (2)

 キャノン宇都宮工場では2500人の労働者のうち1500人が請負であり、05年10月栃木労働局の立ち入り検査を受けた。06年3月キャノン栃木工場は請負を解消し、改正法で契約期間が3年に延長されたのを受けて1500人を派遣に切り替えた。キャノングループ各社が03-06年で文書で受けた是正指導は7件であった。06年7月時点でキャノングループ各社の国内生産現場では請負と派遣で2万人が働いていた。06年7月キャノン人事部長はこのうち数百名を正社員に採用する方針を示した。偽装請負の現場で働く労働者は不利な立場にある。年齢は20-30代半ば。ボーナスや昇給もなく、給料は正社員の半分以下だ。社会保険の加入さえ徹底されず、契約が打ち切られたらすぐさま失業である。ところが06年10月13日の経済財政諮問会議で御手洗氏は「今の派遣法だと3年で正社員にすれば硬直するので、期間義務を撤廃して欲しい」と申し入れた。07年ではキャノンの製造関連の正社員は7000人、請負労働者は8400人、派遣は13000人である。まさにキャノンの製造現場は正社員の3倍の非正規労働者が働いているのである。人件費の経済効果は抜群である。これでは麻薬のように止められない。

 しかし請負労働者の中から、個人で入れる労働組合(たとえば東京ユニオン)にはいってその指導を得て、2006年10月栃木労働局へキャノン宇都宮光学機器事業所の偽装請負を内部告発した。同じ時期請負会社は偽装請負を理由に大阪労働局から事業停止行政処分を受けた。又キャノン本社へ正社員化を団体交渉したところ、キャノンには労働組合法上の使用者性はないと断ってきた。07年2月22日衆議院予算委員会でキャノンの請負労働者大野さんが公述人として20分にわたり意見を述べた。このような動きの中で07年3月25日キャノンは「2年以内に非正規労働者から1000人を正社員として、2500人を期間従業員としして直接採用する」と表明した。キャノンには2万人の非正規労働者がいるのだから、あとの16500人は派遣に切り替えるのだろうか。

文芸散歩  「平家物語 」 高橋貞一校注講談社文庫・佐藤謙三校註角川古典文庫

2008年03月31日 | 書評
日本文学史上最大の叙事詩 勃興する武士、躍動する文章 第3回

平家物語に影響を与えた物語に「保元平治物語」がある。平家物語と殆ど遜色ない文体とリズムが保元平治物語において完成していた。「保元平治物語」と「平家物語」は同じ流れの中で生まれた作品群である。平家物語は編年的記録様式ではあるが、平家物語の叙述には歴史的事実でないところも多い。作者の創作による優れた文学性が随所に認められるのである。源平の内乱とは源頼朝が挙兵して平家が滅亡するまでの5年間(1180-1185)で、平家の全盛期は平治の乱で平家の覇権が確立した1159年から数えると20年のことである。面白いことに源頼朝も当代一の代表的人物であったが、文学として源頼朝を描いた作品(歴史書「大鏡」は別)は古典には存在しない。すると平家物語に描かれた人物はまさに文学性に満ちた人物群であったに違いない。源頼朝は面白くもおかしくもない人物で絵にならないらしい。判官びいきのようなところも感じられる。平家物語は死の文学(タナトスの文学といったが、時代の歯車に噛み込まれてゆく弱い人間の運命を描いたところに文学性が窺われるようだ。明日の命も分らない人間の悲しみは救われない人間である。平家物語の深い味わいはこの人間の悲劇にあると考えられる。この辺を切々と謳うのが文学であり、歴史書では出来ないのである。人間の哀れさはこの時代の法然の浄土宗を抜きにしては語れない。嫌味にならない程度に人間の運命と浄土思想を絡ませてゆくところが「諸行無常」の響きとなるのである。

平家物語の諸本は実に多い。その系統分類学を高橋貞一氏は丹念にやってこられたのであろう。あまり深入りしたくはないが、盲目の琵琶法師の系統から諸本が発生したようだ。室町時代に、如一検校・覚一検校から「一方流本」、城玄より「八坂流本」の二つの流れができた。覚一より「覚一本系統本」と「流布本」が出来たらしい。高橋氏の本書は「流布本」である。徒然草226段に兼好法師は平家物語の著者として信濃前司行長の名を挙げるが、全く伝聞に過ぎず行長の事も分っていない。要するに鎌倉時代末期までに平家物語や平曲に関する正確な記録がないのである。覚一本が一番古いが、「流布本」は室町時代中頃に完成したようである。なお本書を読むに当っては、佐藤謙三校註「平家物語」角川古典文庫も参照した。

自作漢詩 「桜花爛漫」

2008年03月31日 | 漢詩・自由詩


暖日東都墨水     暖日の東都 墨水の頭

停舟西畔曲江     舟を停め西畔 曲江の楼

桜花爛漫三春興     桜花爛漫と 三春の興 

歌楽高吟長夜     歌楽高吟 長夜の遊


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(赤い字は韻:十一尤 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 コレッリ 「合奏協奏曲 作品6」

2008年03月31日 | 音楽
アルカンジェロ・コレッリ 「合奏協奏曲 作品6」
演奏 イ・ムジチ 
ADD 1967 PHILIPS

さすがにイ・ムジチの響きはすばらしい。1714年の最晩年のコレッリの作品で、第1番から第8番までは教会コンチェルト、第9番から12番までは室内コンチェルトである。ヴィバルディの協奏曲のような分厚い響きである。