ブログ 「ごまめの歯軋り」

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フセイン処刑の波紋

2006年12月31日 | 時事問題
asahi.com 2006年12月30日23時10分
イランなど歓迎、欧州には戸惑い フセイン元大統領処刑
 イランのアセフィ外務次官は、国営イラン通信(IRNA)に「処刑は、イラクの人々の勝利だ」と語った。イスラエルのペレス副首相は公共ラジオ放送で「サダム・フセインは自ら死を招いた」と述べた。
 イラク戦争を戦った英国の反応は複雑。ロイター通信によると、ベケット外相は「元大統領の恐ろしい罪の一部を、イラクの法廷が裁いた事実を歓迎する」としつつ、改めて「世界中の死刑廃止を主張する」と述べた。

asahi.com 2006年12月31日08時38分
フセイン元大統領の遺体、埋葬のため故郷ティクリットへ
 死刑を執行されたフセイン元イラク大統領の弁護士の1人はロイター通信に対し、元大統領の遺体が30日、出身部族指導者に引き渡された後、埋葬のため故郷である北部のティクリットに米軍機で運ばれたと語った。

イラク元大統領フセイン死刑執行は今のところ冷静に受け止められいる。

 しかし静かに波紋が広がりつつある。イランはシーア派の勝利を確かなものにするとして歓迎の意を表明。欧州の足並みは色々。中国は我関せず。アメリカは自らの手を血で汚さなかったので満足。さて歳が明けると死刑の影響がどのような形で出てくるか。
イラクは、かっての偉大な指導者(独裁者)チトー亡き後のユーゴのように求心力をなくして四分五裂するのであろうか。イラクといわずアラブ諸国は国の形態をとっているが実は部族社会である。議会などクソ食らえ。部族長・宗教長老の話し合いが全ての根幹の社会である。
クルド人独立、スン二派は政権から離脱し地下武装闘争開始、シーア派はイランの協力で単独政権樹立、アメリカは石油権益だけ確保して撤退というところが最終(醜)シナリオか。

小林秀雄全集第14巻「無常という事」より「伝統」

2006年12月31日 | 書評
伝統

志賀直哉氏が1928年に「夢殿の救世観音を見ていると、その作者というような事は全く浮んで来ない。それは作者というものからそれが完全に遊離した存在となっているからで」と述べた文章があるが、小林氏は見事この文章を伝統という言葉に置き換えた。はたして志賀氏が伝統を意味したのかどうかは別として。美しい仏像を見て美しいと感じる我々の心が綿々と続いていることが伝統なのだろう。仏像がいつ誰によって作られたかではなく、いわば時代に制約されないで日本人の美しいと思う心が連続していることが日本の伝統である。私もまさに正しい定義だと思う。しかしながらこの伝統も意識しないと直ぐに忘れられる運命にある。万葉の伝統を回復したのは鎌倉の実朝と明治の正岡子規であった。かく努力するという行為が鑑賞であり伝統である。私見だが、推古時代の仏像は私は嫌いだ。なぜかというとこの時代の仏像は朝鮮から直輸入した金ぴかの騎馬民族由来の衣装をしており、しかも硬質の冷たい形式で技術が稚拙であるからだ。これがダイレクトに日本の美意識の伝統だとは思えない。日本の仏像の美が完成するのはもう少し時代を待たなければならない。



東京の美術館散歩  「東京都庭園美術館」

2006年12月31日 | 書評
東京都庭園美術館(美術館名をクリックすると付近図が出ます)

山手線目黒駅を下車して目黒通りを5分も歩くと首都高速をくぐる。その地域一帯が深い森になっており、大昔白金長者が武蔵野を切り開いたとされる旧跡が今、国立自然教育園となっている。その一角に東京都庭園美術館がある。ここは旧朝香宮邸としてアールデコ様式の建築としてきわめて有名である。つまり貴族の館であり、庶民にもここなら見学できる(赤坂迎賓館の瀟洒な館を見学することはほとんど不可能であるが)。アールデコ様式のガラス工芸品が玄関正面でお出迎えし、館内には優美な幾何学模様が散りばめられている。1階は洋風の客室と食堂、集会場、2階は洋風の居室、書斎、ベット室、浴室などプライベート空間である。日本式居室などはあるのだが公開されていない。「アールデコガラス工芸展」、「英国水彩画展」などを見た。展示会がある時期は展示パネルが壁の前に置かれるので美しい壁紙や柱、腰板などが見えず建築物としての鑑賞に堪えない。やはり何も展示していない時期にゆっくり部屋の中を鑑賞されるのがベストだ。乱暴な言い方をすれば展示などどうでもいい旧朝香邸そのものが美術品なのだ。また前の庭はプール付き西洋式庭園と池を中心にした日本式庭園からなるが、日本式庭園は茶室を含めて東京都迎賓館として外国人賓客に供されるため公開されていない。東京都庭園美術館と国立自然教育園はセットで見学するのが散策コースの常識になっており半日ほどの優雅な時間を楽しむことができる。