ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

経済は心理学 特に金融経済は思惑でうごく

2008年12月02日 | 時事問題
asahi.com 2008年12月2日10時6分
NYダウ急落、終値679ドル安 史上4番目の下げ幅
 【ニューヨーク=丸石伸一】1日のニューヨーク株式市場は、大企業で構成するダウ工業株平均の終値が6営業日ぶりに下落し、前週末比679.95ドル(7.7%)安の8149.09ドルと史上4番目の下げ幅を記録した。
 中国や欧州の景気悪化への懸念から売り注文が先行。米サプライ管理協会(ISM)が11月の製造業景況指数が82年以来の水準まで下がったと発表したのを受けて、株安が加速した。さらに、07年12月から景気後退に入ったと全米経済研究所が発表したことで、「景気後退が長引く可能性が高い」(米アナリスト)との見方も強まった。

友野典男著 「行動経済学ー経済は感情で動いている」(光文社新書)より
「経済人は感情に左右されず、専ら勘定で動く人種である。経済人は市場は重視するが、私情や詩情には無縁である。金銭に触れるのは好きだが、人の心の琴線にふれることはない。」と友野氏の面白い表現がある。近年心理学や神経科学者によって感情の積極的な役割、即ち感情がなければ適切な判断や決定ができなことが解明されつつある。すなわち「感情が主導してあとから合理的な判断がついてくる」と主張するのである。あらゆる知覚にも何らかの感情が伴い、茂木氏が提唱する「クオリア」の世界があるようだ。判断や決定はシステムⅠに属する感情や直感と、システムⅡに属する思考との共同で行われる。経験による快・不快の身体感覚が、推論や意思決定では重要な役割を演じる。これをソマティックマーカという。これら人間の意思決定行動についての理解を深めようとする神経経済学なるものが提唱されている。


麻生首相 もはや「死に態」

2008年12月02日 | 時事問題
asahi.com 2008年12月2日8時3分
「麻生首相では総選挙戦えない」 政権2カ月、失速状態
 麻生首相では総選挙を戦えない――。政策の迷走と相次ぐ失言などで内閣支持率が急落し、与党内でこうした見方が急速に広がっている。「選挙の顔」から「解散ができない首相」へ変わり果て、麻生政権は発足から2カ月余りで早くも失速状態に陥った。 1日には日本経済新聞などの世論調査で内閣支持率は31%に急落。「麻生では戦えない」ことがデータで裏付けられた。

強力な小泉政権の反動を受け、三代二世首相は意志薄弱・早期流産政権 自民の人材窮まれり

経済問題 春山昇華著 「サブプライム後に何が起きているのか」 宝島新書

2008年12月02日 | 書評
格付け信用の失墜とレバレッジ手法の終焉 世界の金融の中心は移動しつつある  第4回

1) 窮地に陥った欧米の金融機関 (2)

 2008年2月4日ラスベガスで全米証券化会議が開かれ、証券化商品は氷河期に入ったと評された。2007年度の世界の金融機関は21兆円を失ったといわれる。米国の住宅ローンの残高は、優良なプライムローンが約800兆円、サブプライムローンが158兆円、サブに近いオルトAローンが107兆円で、広義のサブプライムローン残高の合計は265兆円である。はたして損失が20兆円程度で済むのか、日本での経験ではまだ信じられない数値である。日本の金融機関ではみずほFGと野村證券があわせて5000億円の損害であった。日本の被害が少なかったのは、金融萎縮のため手を出せなかったことが幸いしたのかもしれない。銀行の簿外取引SIVは別に「飛ばし」であって、自己資本規制をたくみに避けるものでったが、銀行が簿外のSIVを引き取らざるを得ないので、銀行の不良債権が増加する。

 昨年秋にシティーグループ、メリルリンチ、USBという巨大金融機関の巨額な損失が明るみになった。損失をカバーする新たな資金を得るために、シティーグループは2007年11月アラブ首長国連邦から8025億円の融資を受けた。メリルリンチも2007年12月シンガポール政府系ファンドから4708億円の融資を受けた。欧米金融機関はアジア・中東の政府系ファンドSWFからの融資(金利11%程度)でようやく息を継いだという感じである。メリルリンチはクエート・シンガポール・韓国などから1兆2000億円、モルガンスタンレーは中国から5350億円、USBはシンガポールから1兆円、シティーグループはアブダビ・シンガポール・クエートから2兆4000億円を借りた。巨大金融機関は2007年度下半年の赤字で4年間の利益をすべて吐き出した。現在は縮小均衡(リストラ)へと舵を切っている。証券業界だけでも四万人のリストラが発表された。2008年の東京G8では全くの無策に終始した。協調の仕様も無いのだろうか。

読書ノート 三村芳和著 「酸素のはなしー生物を育んだ気体」 中公新書

2008年12月02日 | 書評
27億年前、光合成によって酸素ガスが出来ると、生物は一気に進化した 第11回

4.低酸素状態での生物

 生物圏は酸素のある陸地だけではない。低酸素の深海にも多くの生物がいる。初期微生物が海底の熱水噴出孔周辺で硫黄、硫化水素、水素、鉄などを栄養源として発生した。深海探索によって興味深い生物「チューブワーム」が発見された。「チューブワーム」はヘモグロビンを有し酸素と硫化水素を結合して体内の硫黄酸化細菌に栄養素を送っている。共生細菌は宿主細胞から硫化水素、酸素、二酸化炭素を供給されて、科学的無機独立栄養代謝によってエネルギーを獲得し有機物を合成する。その有機物を宿主の「チューブワーム」が頂いている。植物が陸上に進出したのは7億年前と言われる。いまや陸上植物が有機炭素を作る量は、海洋の植物性プランクトンの生産する量と等しい。植物は葉を進化させ空気中の二酸化炭素を取り込んで光合成で有機炭素を作り酸素ガスを放出する。大気中の酸素ガス生産に大きく寄与した。海中の魚の低酸素状態で生活しているため、酸素を取り込む器官「鰓」を進化させた。4億3000年前魚類が肺をもって陸上に進出した。3億6000年前脊椎動物(両生類、爬虫類、哺乳類、霊長類)が陸上に進出した。それからは大型爬虫類の全盛時代を迎える。2億5000年前の酸素欠乏事件「スーパアノキシア」を乗越え1億6000万年まで恐竜時代が続いた。

 低酸素状態を検知するのがヘムたんぱく質である。通性嫌気性細菌は低酸素と判断すれば、光合成系の葉緑体を合成する。反対に酸素が十分であると判断すれば好気性代謝に切り替える。低酸素に適応するため多くの遺伝子が活動開始させる転写因子をHIF-1αという。人体ではこの転写因子がはたらくと低酸素でも生きられるように、血管新生因子、エリスロポエチン、糖輸送体がつくられる。酸素が豊富にある時にはこの転写因子蛋白の一部は水酸化されそこへVHL因子という蛋白が結合し、これが標的となってHIF-1α分解酵素はこの転写因子を破壊する。この機構はガンの血管誘導と関係している。

文藝散歩  「ギリシャ悲劇」 中公新書・岩波文庫

2008年12月02日 | 書評
啓蒙・理性の世紀、紀元前5世紀都市国家アテネの繁栄と没落を描くギリシャ悲劇 第4回

丹下和彦編 「ギリシャ悲劇」 (3)


アテネの前5世紀は激動の時代であった。世紀のはじめギリシャは2度にわたってペルシャの侵攻を受けた。前490年と前480年である。前480年にはアテネは一時ペルシャ軍に占領された。ペルシャを撃退してから50年ほどはアテネは復興してエーゲ海のポリス間のデロス同盟の覇者として繁栄した。国内的にはペリクレスという政治指導者のもとに古代オギリシャの民主制が確立した。ギリシャ人は自信を持って自らの民族性と文明に誇りを持った。哲学者が輩出し自然と世界の認識という知性の働きが重要視され、後世には啓蒙と理性の世紀といわれた。そこで生まれたのがギリシャ悲劇である。しかし前5世紀末にはアテネとスパルタを領袖とするギリシャを二分するぺロポネス戦争(前431-前403年)という内乱が発生し破れたアテネは衰退した。著者はこのギリシャ悲劇33編の中から、ギリシャ精神の時代的変化を象徴する11篇の作品を取り上げて、うまく並べてギリシャ人の問題意識、時代時代の精神活動を時系列に解説しようとするのである。各作品の解説に入る前に、各作品がどのような意識を問題としたかを簡単にまとめておきたい。ギリシャ悲劇の宗教性、芸術性、社会性という三つの面を人間性フーマニタスで包括的に抽象化した概念である。