ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 今西錦司著 「生物の世界」 中公クラシックス

2008年12月22日 | 書評
棲み分け理論からダーウインの自然淘汰進化論批判まで  第4回

序(4)探検家と猿人類研究家しての今西錦司

 今西氏は戦前には京都学士山岳会や京都探検地理学会などを組織し、人と金を集め事業計画を立てることに抜群の才能を示したらしい。今西氏の戦後の組織つくりと業績・人脈を拾って行こう。1948年自然歴史学会を組織した。戦前の京都探検地理学会を継承する会であった。会報誌「自然と文化」を発行し1952年まで続いた。宮崎県都井岬で半野生馬の調査には河村俊蔵氏、伊谷純一郎氏を同行し、馬の個体識別の方法を採用し動物社会学的アプローチをおこない、さらに徳田喜三郎氏らと野生ニホンザルを調査して霊長類学研究がスタートした。1951年霊長類研究グループを作り、宮路伝三郎教授をヘッドに、今西、河村、伊谷、徳田、河合雅雄氏、間直之助氏らが中核メンバーとなった。このころ「生物誌研究会」を作りネパール学術調査を計画した。未踏峰のマナスル登頂を目標にしたヒマラヤ遠征計画が立てられた。木原均農学部教授、西堀栄太郎(南極探検で有名)が現地と交渉しネパール国王の快諾を得て、日本山岳会を中心としたマナスル登山隊を結成した。1952年今西氏は偵察隊長としてネパールにゆき情報を集めた。1956年第3次登山隊(槙有恒隊長)が登頂に成功した。1955年生物誌研究会を中心にカラコルム山脈学術探検隊(木原隊長)が実行された。1956年犬山に財団法人「日本モンキーセンター」が発足した。1958年日本モンキーセンター第1次アフリカ類人猿ゴリラ学術調査隊が今西、伊谷によって第3次まで予備調査が行われが、コンゴ動乱で中止となりチンパンジーに切り替えて、1961年から第1次京都大学類人猿学術調査をタンガニカに派遣された。今西氏が隊長であった。1962年にはカボゴ基地を設営し、1964年第3次調査隊まで参加した。1962年には京大理学部の中に自然人類学講座を創設して初代教授になった。1967年には犬山に京大霊長類研究所を創設した。これは今西氏が京大を退官した2年後の事であった。

読書ノート 堂目卓生著 「アダム・スミス」  中公新書

2008年12月22日 | 書評
「道徳感情論」、「国富論」への案内 第12回 最終回

終章  「スミスの遺産」

 「道徳感情論」において、スミスは人間本性の中に他人の感情を自分の心の中に感じとろうとする「同感」という能力が、社会の秩序と繁栄を導く事を示した。また「国富論」において、スミスは社会の繁栄を促進する「分業と資本蓄積という二つの一般原理を考察した。そして当時のヨーロッパ諸国が、この一般原理から導かれる理想状態からいかに逸脱しているかを論じ、何をなすべきかを示した。スミスはこの二つの著作によって何を伝えようとしたのだろうか。

 第一にスミスの思想体系は人間を社会的存在として捉える事の重要性を教えた。「公平な観察者」を心の中に形成し、この「公平な観察者」が是認するようなことを行うようになる。この性質が正義の法の土台となり、社会の秩序を形成する。

 第二に人間は悲しみよりも喜びを他人と同感する。富は喜びであり、ここに財産形成の野心が起きる。人間は賢明さと弱さを兼ねた存在で、賢明さは社会の秩序の基礎をなし、弱さは社会の繁栄を導く原動力である。胸の中の「公平な観察者」の是認という制約条件で、自分の経済的利益を最大にするように行動する。これがスミスが仮定する個人の経済活動である。市場における富の主要な機能は、人間を存続させ繁栄させ、生活を便利で安楽なものにすることだ。それと同時に人と人を繋ぐ機能がある。経済成長は富が増大するのみならず、富を社会の構成員に、そして貿易を通じて世界の諸国に行き渡らせる働きがある。

 第三に自由で公正な市場経済の構築こそが人々の生活を豊かにするということだ。歪んだ経済システム、偏った政府の政策と規制は政府自体が道徳的に腐敗する。公正な市場経済は、公的機関という外部の統治者によってよりも、むしろ市場参加者の内部の公平な観察者の判断によって監視され規制されることが望ましい。

 スミスのバランスの取れた情熱と冷静さは、「幸福は平静と享楽にある」といい、「一つの永続的境遇と他の境遇との間には、真の幸福にとって本質的な違いは無い」という。富や社会的地位は、手じかにある幸福の手段を犠牲にしてまで追求される価値は無い。なんと心休まる言葉ではないか。しかし現在のアメリカ覇権主義、社会的格差拡大と金融資本の気違いじみた狂奔はやはり何か間違っている。いや間違いだらけで破滅の方向へ向っている。スミスの云う自由で正しい経済発展とはあまりにかけ離れた状態かもしれない。現状をなげく「歎異抄」はスミスだけのものではない。


文藝散歩 「ギリシャ悲劇」

2008年12月22日 | 書評
啓蒙・理性の世紀、紀元前5世紀都市国家アテネの繁栄と没落を描く 第23回

アイスキュロス 「テーバイ攻めの七将」 高津春繁訳 岩波文庫 (1)

 アイスキュロスの青年期から壮年期は祖国アナテイがペルシャとの死闘に巻き込まれた時代である。これはギリシャの第二英雄時代でヘロドトスの「歴史」にあるように、偉大なる将軍政治家が歴史の舞台を闊歩した。アイスキュロスもまた自ら剣を取ってマラトンの闘い(前490年)に、サラミスの海戦(前480年)に闘った。アイスキュロスの兄はサラミスの戦いで戦死し、その勇姿はストアポイキレーの壁画に残されている。彼が愛国者の悲劇を謳いあげるのは自身の体験の裏付けがあってのことである。しかし彼の悲劇作家の競演での勝利は遅く40歳ごろに最初の勝利を得て、死ぬまでに13回優勝したと伝えられる。「ペルシャ人」を前376年に上演し、「テーバイ攻めの七将」を前467年に、「オレステイア」を前458年に上演し、前456年ゲラで世を去った。

自作漢詩 「忘年会」

2008年12月22日 | 漢詩・自由詩
江城日落晦蒼     江城日落ち 晦蒼蒼

橋畔紅燈笑満     橋畔の紅燈 笑堂に満つ

騒客弄喧忘夜過     騒客喧を弄し 夜の過るを忘る 
 
酔顔欺老酒顛     酔顔老を欺き 酒の顛狂

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(赤い字は韻:七陽 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 バッハ 「カンターター選集 13」

2008年12月22日 | 音楽
バッハ 「カンターター選集 13」BWV21,93
カール・リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団と合唱団
ソプラノ:エディット・マティス アルト:アンナ・レイノルズ
テノール:ぺーター・シュライヤー バス:フィッシャー・ディースカウ
ADD 1969,1974,1975 ARCHIV

BWV21 「我が内に憂いは満ちぬ」
BWV93  「尊き神の統べたまうままにまつろい」