京都学派文化人を代表する文化人類学者 第5回
文明の生態史観 (1)
1957年2月中央公論にでた本論文には多くの反響があった。アーノルド・トインビー氏の来日公演に触発され、西洋人の日本に対する理解があまりにお粗末な事に反発したそうである。冒頭に南北アメリカ、オーストラリア、南アフリカなどの新世界は後で考えるとして、話をユーラシア大陸の旧世界に限定した。世界を東洋と西洋に二分することはナンセンスで、イスラム社会を忘れている。日本は中国漢文明の亜流なのではない。日本文化の座標はどこにあるのだろうか、文化は由来(素材)だけでなく、共同体の生活様式という機能を持っている。「文明の生態史観」の特徴は東西文明と云う言い方は当を得ていないとして、第1地域と第2地域に分類したことである。第1地域とは封建体制のあとブルジョワの成長から高度資本主義体制の確立している地域である。第2地域とは資本主義的発展が未成熟で専制君主制か植民地であったか、植民地から開放された後も独裁体制にある地域である。第1地域は自発的発展で近代化し、第2地域では外因にかく乱されて変化しきた国である。巨大な乾燥地帯である。第1地域の両端にある日本と西ヨーロッパは独自に平行的に進化してきた。これを「平行進化」という。決して日本文明は西欧の後追いではなく、江戸時代から明治維新後の近代化はなるべくしてなった独自の文明であるという。第1地域は高度資本主義国で帝国主義的侵略をした国である。第2地域とは東欧州、北アフリカ、ロシア,中近東アラブ、ペルシャ、インド、中国、東南アジアは植民地か第1次世界大戦後の独立国または共産圏国であり、所謂後進国であった。第1次世界大戦後ロシア、オーストリア・ハンガリー、トルコ帝国は崩壊した。中国では清帝国は崩壊して国共内乱となった。ロシアではプロレタリア革命が起きてソヴィエトが誕生した。第1地域での共同体生活様式の特徴は高度資本主義である。封建制度の過程でブルジョアジーが資本蓄積し産業革命をおこした。第2地域では資本主義は未成熟で、帝政もしくは独裁制もしくは植民地であった。日本の封建制の歴史と西ヨーロッパの封建制の歴史が実によく似た平行現象がある。宗教改革、庶民宗教の成立、ギルドの形成、自由都市の発展、海外貿易、農民戦争など日本の室町時代から戦国時代にすべて起った。ただ江戸時代に鎖国をやったため膨大な富の形成が遅れてブルジョワジーの成長が妨げられただけである。資本主義の要素はすべて江戸時代末期には熟成していたといえる。第2地域での専制帝国の社会もよく似た様相であったのでこれも平行進化といえる。