人類の運命を変えた気候2万年史 第3回
序(3)
遠い昔に思いを馳せてみよう。南極大陸の氷床コアーには過去42万年の出来事が記録されていると云う。氷期と温暖期が層になっているからである。氷床コアーの分析によるとほほぼ10万年ごとに短い温暖期が繰り返されてきた。最期の氷期が終わったのが18000年前で、地球温暖化時代はそれから過去15000年間続いている。地球の歴史では今が気候的には最も安定した時代である。実は過去の気候変動を知る事は困難な仕事であった。計測記録が残されているのは西欧先進国で数世紀前からで、地球上の他の地域では計測記録は100年くらい前に遡るに過ぎない。それより昔の事は樹木の年輪(地域や局所の偏りがおおきい)、湖沼河川の花粉堆積層、氷河コア-などから再現した代用記録からの推測である。近代に近ずくにつれ、環境決定論(気候変動が農耕や文明など、人類の主要な発展を促した主因である)は学問の世界ではタブーであった。だからといって気候変動の影響を無視することも不可能である。本書では人間と自然環境および短期の気候変動との関係は常に相互的・流動的である事を示す事だ。紀元前1万年ごろから農耕が始まり、生活共同体が形成されると、安定した生活のために人が土地に繋ぎとめられ、危機的状況において、多数の人が移動すると云う選択肢が狭まったことで、長期短期の気候変動に一層脆弱になったといえる。文明の力で川の氾濫や不定期な降雨に対処する灌漑設備を頼りにして耕作不能の土地を耕作し始めて、古代文明が興った。チグリス・ユーフラテス川地域にメソポタミヤ都市文明がおこり、シュメール帝国が支配した。都市がある程度の規模を超えて大きくなると、ある限界から急に文明は気候変動に対して脆弱になる。そこでは気候変動に対処するコストは限りなく高いものになった。文明の辿った道筋は、ある点では脆弱性と規模とを取引してきたプロセスなのである。生活システムの利便性とリスクのバータである(リスクーベネフィット)。規模が大きくなると強くなるが、システムは脆弱となる。よくある話だ。
序(3)
遠い昔に思いを馳せてみよう。南極大陸の氷床コアーには過去42万年の出来事が記録されていると云う。氷期と温暖期が層になっているからである。氷床コアーの分析によるとほほぼ10万年ごとに短い温暖期が繰り返されてきた。最期の氷期が終わったのが18000年前で、地球温暖化時代はそれから過去15000年間続いている。地球の歴史では今が気候的には最も安定した時代である。実は過去の気候変動を知る事は困難な仕事であった。計測記録が残されているのは西欧先進国で数世紀前からで、地球上の他の地域では計測記録は100年くらい前に遡るに過ぎない。それより昔の事は樹木の年輪(地域や局所の偏りがおおきい)、湖沼河川の花粉堆積層、氷河コア-などから再現した代用記録からの推測である。近代に近ずくにつれ、環境決定論(気候変動が農耕や文明など、人類の主要な発展を促した主因である)は学問の世界ではタブーであった。だからといって気候変動の影響を無視することも不可能である。本書では人間と自然環境および短期の気候変動との関係は常に相互的・流動的である事を示す事だ。紀元前1万年ごろから農耕が始まり、生活共同体が形成されると、安定した生活のために人が土地に繋ぎとめられ、危機的状況において、多数の人が移動すると云う選択肢が狭まったことで、長期短期の気候変動に一層脆弱になったといえる。文明の力で川の氾濫や不定期な降雨に対処する灌漑設備を頼りにして耕作不能の土地を耕作し始めて、古代文明が興った。チグリス・ユーフラテス川地域にメソポタミヤ都市文明がおこり、シュメール帝国が支配した。都市がある程度の規模を超えて大きくなると、ある限界から急に文明は気候変動に対して脆弱になる。そこでは気候変動に対処するコストは限りなく高いものになった。文明の辿った道筋は、ある点では脆弱性と規模とを取引してきたプロセスなのである。生活システムの利便性とリスクのバータである(リスクーベネフィット)。規模が大きくなると強くなるが、システムは脆弱となる。よくある話だ。