ブログ 「ごまめの歯軋り」

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海馬の「記憶」機能研究に偉大な貢献 H・M氏逝く

2008年12月07日 | 時事問題
asahi.com 2008年12月6日22時50分
「海馬」切除後、脳研究に協力 米男性「H・M」氏死去
 【ワシントン=勝田敏彦】脳の一部を切除する実験的治療を受けて新たな記憶ができなくなったあと、脳機能の研究に積極的に協力し、学習や記憶の仕組みの解明に多大な貢献をした米国の男性患者ヘンリー・モレゾンさんが82歳で亡くなった。ニューヨーク・タイムズなど米主要メディアが5日、報じた。
 モレゾンさんは9歳のときに自転車とぶつかって頭を強く打ち、原因不明のけいれん発作に悩まされるようになった。18年後の1953年、脳の「海馬」などを切除する手術を受けたあと、昔のことは鮮明に覚えているのに、新たな記憶がほとんどできなくなる「超記憶喪失」になった。 その後認知科学や脳科学の研究に進んで協力。当時はほとんどわかっていなかった脳機能の解明に貢献した。

坂井克之著 「心の脳科学」中公新書より 海馬の記憶機能
記憶は情報の処理過程で参照として呼び出され情報にバイアスかけると同時に、一貫して意識を持って存在する自分という概念を成り立たせているのも記憶である。自分が時間軸の上で同一の存在であるためには、過去の自分の記憶を持ち続け他と区別できることが必要である。事柄全体をまとめて覚えている「エピソード記憶」を司る指令塔は「海馬」である。タツノオトシゴのような形状から名が付けられた。記憶にはいろいろあり、注意を向けている間だけの短期記憶である「作業記憶」は前頭葉が関与し、訓練で覚えてゆく「手続き記憶」は「大脳基底核」が関与している。記憶の段階である「書き込み記憶」、「記憶保持」、「記憶の再生」に「海馬」が活動する。意識的に書き込む記憶に対して偶然に書き込まれる記憶もあるが、抽象的なことは覚えず具体的な形は良く覚えている。睡眠は今日あった事柄を整理して記憶するうえで必要なステップである。自分自身の記憶を呼び起こす時に前頭葉の内側の部分が活動している。記憶の中に「自己投影」をしているからだ。記憶と想像は表裏の関係にある。情景を思い出しながら想像が行われるからだ

読書ノート 辻井喬 上野千鶴子対談 「ポスト消費社会のゆくえ」 文藝新書

2008年12月07日 | 書評
セゾングループの歩みから日本の消費社会を総括し、ポスト消費社会の姿を探る 第4回

序(4)

 辻井喬 上野千鶴子対談 「ポスト消費社会のゆくえ」では上野千鶴子は『セゾンの発想 ― マ-ケットへの訴求』(1991)を著した消費社会論学者の顔で参加している。ジェンダー論者は関係していない。私はこの読書ノートコーナーで辻井喬著 「伝統の創造力」 岩波新書((2001年12月)を紹介したことがある。文学の衰退を論じた書であった。この書の読後感想は以下である。

第一の命題は、岩波書店版「消費社会批判」の思想を受け継いだ、現在社会批判から出発しているように思われる。もうひとつの命題は左翼運動の流れを受け継いだ、軍部主導による天皇制国体政治と文化政策批判である。この二つの思想を背景にして本書を読むと日本文化の衰退の原因がよく理解できる。本書の題名は「伝統の想像力」と幅広い内容を包括するようだが、実質は日本文学の衰退のことしか述べていない。日本の文化が衰退していると感じられるということを出発点として、教育改革論議で典型的に見られる「伝統尊重」の狙いを徹底的に批判し、1980年代にピークを向かえた消費社会・情報社会の進行が詩歌・小説の思想性・伝統を奪い衰退の要因となったと辻井氏は考える。伝統を「自己改革を行う運動体、新しい文化芸術を創造するときに必ず現れる力」と定義し、混迷する文藝の再生は可能かと問うのである。本書を読んで、私は閉塞観に襲われる。出口がないのである。

経済問題 春山昇華著 「サブプライム後に何が起きているのか」 宝島新書

2008年12月07日 | 書評
格付け信用の失墜とレバレッジ手法の終焉 第9回

4) モノラインと証券化の行方 (1)

 証券化商品に絶大なトリプルAという評価を与えたのが、格付け会社とモノライン保険会社であった。これでサブプラム層に住宅ローン契約してきたのである。金融だけを扱う保険会社をモノラインという。モノラインが支払い保証を与えれば、その証券を担保にして金を借りる事ができる。モノライン保険会社は「信用」を提供していた。保険ビジネスが成立するには多岐にリスクを分散し、多くの契約数を持つ事である。モノライン保険会社が支払い保証を出せば、すべては順調に回転するはずであった。しかし「住宅バブル」と「証券バブル」の崩壊によって前提条件が崩れた。サブプライムローンという全く分散されない同一の低品質のリスクを大量に背負い込んだモノライン保険会社の失敗であった。均質化、標準化という目的で証券化したがゆえに激しい価格変動を受ける宿命に見舞われたのである。モノライン保険会社の株式が2007年より凋落し、2008年1月アムバックという保険会社の会社格付けもトリプルAからダブルAに格下げされた。アムバックの降格で被害を蒙ったのが地方債である。信用が低下すると高い利子を払わないと借金できないのである。地方債の発行市場はとばっちりに過ぎないが、本当に損失を蒙るのは銀行や証券会社である。銀行や証券会社の抱え込んでいる証券化商品の価格がさらに低下して評価損が膨らむと、更なる資本金の積み増しが必要となる。

文藝散歩 「ギリシャ悲劇」

2008年12月07日 | 書評
啓蒙・理性の世紀、紀元前5世紀都市国家アテネの繁栄と没落を描くギリシャ悲劇 第9回

丹下和彦編 「ギリシャ悲劇」 中公新書 (8)


2)アイスキュロス 「オレステイア三部作」ー法の正義  (2)

(1) 「アガメムノン」-暗殺のドラマ
 妻クリュタイメストラによるアガメムノン暗殺の原因としておよそ三つの理由が考えられる。アガメムノンはギリシャ軍の総大将としてトロイアへ出征する。アウリス出港に際して順風を得るために神の命じるままに娘イピゲネイアを生贄にした。これが妻クリュタイメストラを怒らせ娘の復讐を誓わせることになった。第二の理由は妻クリュタイメストラの不義密通を隠すためである。実はその愛人アイギストトスとはアガメムノンの政敵で迫害されたテュエステスの息子であるという氏族社会の政治権力争奪の裏があった。第三の理由はトロイアの王女カッサンドラを戦利品として連れて帰ったことである。妻クリュタイメストラの嫉妬と憎悪の対象となった。妻クリュタイメストラはこの劇では強い意志と謀略性を持った「憎憎しい牝犬」と形容される。このトロイア戦争が実は大義名分のない弟の浮気な女房を取り返すための戦いに過ぎず、娘イピゲネイアを生贄にすること自体が許されないと妻クリュタイメストラは主張する。妻クリュタイメストラは夫殺害の策略として、神のものである緋色の絨毯を夫に踏ます冒涜の罠を用意した。こうしてアガメムノン暗殺が行われた。時間が大分過ぎてから、捨てられたアガメムノンの第三王子であるオレステスが成人して帰還するのである。

自作漢詩 「霜天晩興」

2008年12月07日 | 漢詩・自由詩
襲来冬饑凍雀     冬饑襲来 凍雀飛び

霜威日短晩鴉     霜威日短く 晩鴉帰る

黄昏村路孤烟近     黄昏の村路 孤烟近く

紅照江郷衆葉     紅照の江郷 衆葉稀なり
 
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(赤い字は韻:五微 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)