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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

ますます「的外れ」になっていく神戸市長の対応に批判的なまなざしを(神戸・須磨の小学校の事件関連)

2019-10-24 23:35:56 | 受験・学校

最近、このブログを神戸の教育にかかわるいろんな方が見ておられるようで・・・。

また、このブログを見ていただいた上で、たとえば「この神戸市長の出している方針は、なにかおかしいのではないか?」とか。あるいは、「神戸・須磨の小学校で起きた教員間いじめの報道のあり方って、かなりおかしな方向に向かっているのではないか?」とか。そういうことに気付かれる方も、徐々に増えてきているような印象を受けます。

そのことは、ブログやツイッター、フェイスブックに連日、この件での思うところを書いて、情報発信をしている私にとっても、たいへんうれしいことです。この場をお借りして、ひとことお礼を申し上げます。

さて、このようなかたちで連日、情報発信を続けておりますと、神戸市長や市議会・市教委の動きなどについて、さまざまなかたちで情報提供をしてくださる方がでておられます。今日も市長の記者会見を行っている時間帯とほんと、大差ないような時間帯に、「こんなことを市長が記者発表しています」と連絡をしてくださった方が居ます。

今夜はその方からお聴きした情報をもとに、神戸・須磨の小学校で起きた教員間いじめ問題について、「ますます、的外れな方向に向かっている」と思われる神戸市長の対応について、私なりの批判的なコメントをしておきます。

まず、今日の記者発表で市長から新たに出された対応方針の要点を、私の方で整理してまとめますと、次のとおりです。

(1)教育行政を支援する部署として、首長部局のなかに「教育行政支援課」を置く。(11月1日付け)

(2)市教委に「改革特命担当」の課長を置く。また、外部人材の登用をする。(11月1日付け)

(3)市教委の負担を軽くするという理由で、博物館や美術館、図書館などの市教委の社会教育部門を首長部局に移管する。(来年度から)

(4)加害教員の分限休職処分を可能にするような条例改正を行う。

率直に言いまして、私としては「論外」と思うくらい「的外れ」な対応なのですが・・・。

以下、なぜそう思うのかについて、コメントをしておきます。

<(1)(2)について>

これまでもずっとくり返し述べてきましたが、そもそもの須磨の事案について、弁護士主体の調査チームが「コンプライアンス」や「懲戒処分」の可否の観点から調査・検証作業を行っていると、当該の小学校の子どもや保護者のつらさ・困惑や、今もなお残って仕事を続けている教職員の抱えている困難等々の課題への対応と、その対応をするための教育学的・心理学的な調査・検証作業がおろそかになります。

なので、当然のことながら、このままでいくと、加害教員への「法的対応」がいくら速やかに行われたとしても、学校や教委の本来、改善すべき教育学的・心理学的な課題が明らかにされません。

また、その本来、改善すべき教育学的・心理学的な課題が明らかにされないまま、首長部局に教育行政を「支援」する課をつくったからといって、「いったい、何をどのように支援するのか?」という課題が論理的な必然として現れます。

同様に、市教委側に「改革特命担当」の課長を置いても、この方もまた「何をする人なの?」という課題が生じます。さらに、外部人材の登用といっても、「いったい、どんな人を登用すればいいの?」という課題が生じます。

つまり、「なにするべきなのか?」が明確になっていないまま、とにかく「部署だけつくる」「市長ポストだけつくる」ということを先行させているのが、この市長提案なのです。

もしも先述のとおり、「コンプライアンス」や「懲戒処分」等々の「法的対応」の実施ですとか、あるいは、要するに「市長の言うことをなんでも聴く市教委をつくりたい」という思惑で、こういう部署や課長ポストの新設を行うのであれば・・・。それはそれで「支援」とは名ばかりで、市長の「権力欲求」や「支配欲」の現れでしかないでしょう。

あらためて、これまでもくり返し述べてきたとおり、神戸市・市教委としては、「本来、この学校の子どもや保護者のつらさ・困惑や、引き続き当該の学校に残って仕事を続けている教職員の苦しさに向き合っていくためには、どのような教育行政の施策が必要なのか?」という切り口から、「法的対応」だけでなく、教育学的・心理学的な調査・検証作業を行って、再発防止策や学校の再建計画をつくるところから動くべきです。

その大事な作業をすっとばして、こういう「組織いじり」「機構いじり」をすることに、いったい何の意味があるのか? 「改革やってます」アピール以外には、何の意味もないのではないか? 少なくとも、私としてはそのように考えます。

<(3)について>

それこそ、市教委の社会教育部門、博物館や図書館、美術館関係者にしてみると、「とんだとばっちり」でしかありません。「いったい須磨の小学校の事件から見えてくる諸課題の解決と、市教委の社会教育部門の首長部局移管に、どんな関係があるのか?」と、ほんとうに疑問に思えてならない提案です。「論外」といってもいいでしょう。

私はもともと、教委の担ってきた社会教育を首長部局に移す提案は、積極的におすすめしません(それこそ、大阪市が似たようなことを十数年前にやって、今、社会教育や生涯学習の領域や文化行政がどれだけ低迷しているか…)。でも、それでもどうしても神戸市が、私の目から見ておすすめできないような社会教育施策をやりたいのであれば、この須磨の事件とは切り離して、数年かけて、それこそ文化行政や社会教育、博物館や図書館、美術館等々の運営に携わっている人びとやその領域の専門家の意見を聴いて、きっちり議論をしてから移管すべきでしょう。「なにをこの際、もめ事に便乗して、見当違いの改革をやろうとしているのか?」と、正直呆れてしまいました。これこそ「惨事便乗型」の教育改革、教育版のショック・ドクトリンです。

<(4)について>

こちらもまた、「怒りで振り上げたこぶしの落としどころ」として、「加害教員が休んでいるのに給料払ってなるものか! 早く休職処分にして、給料払わんで済むようにしろ!」みたいな、怒りの気分だけで動いている感、満載です。

また、加害教員への分限処分適用のために条例を制定(改正)するということは、他の市職員(教職員以外の人を含む)にもこの条例が適用されます。

ということで、私のところに聞こえてきた話では、今の提案では、「起訴される恐れ」があるだけで「分限休職」にすることを条例制定(改正)で可能にするそうですから…。今後はたとえば誰か市職員の刑法等々に触れる行為を見付けて、警察に被害届等を出すだけで「分限休職」という対応も可能になりますね。すると、この条例制定(改正)後、市長や首長部局・市教委の幹部が気に入らない職員であったり、あるいは一般の市民の気に入らない職員等々に対して、いろんな問題のあら捜しをして「分限休職」へ持ち込むことも可能になりますね。こうなってくるともはや、この条例制定(改正)案は「加害教員への対応のため」というよりも、この須磨の事件をきっかけとした「市職員」全体への攻撃ともいえるような、そんな提案になってしまっています。これはさすがに、問題ではないかと思います。

できるだけ速やかに、労働法や公務員法の専門家(弁護士・研究者ら)を中心に多方面から、このたびの市長の分限処分条例改正案に対する批判を行うことを、この場をお借りしてお伝えしておきたいと思います。

以上のとおり、ひととおり今日の市長側からの提案を私なりに見て、コメントをしましたが・・・。

「相変わらず、当該の小学校に通う子どもとその保護者、そこで今もなお働き続けている教職員」への配慮、考慮がなく、教育学的・心理学的な観点からの考察がなさすぎる、というしかない。

これが、市長側からの提案の実情です。そして、ますます「的外れ」になっていく傾向を強めています。

では、なぜ「的外れ」になってしまうのかといえば、「加害教員を許せない」という「怒り」が先に立ち、「処分してしまえ」「刑事事件にしてしまえ」「法的対応だけしておけばいい」という感情で動いてしまっているからではないか。また、市長たちがそういう感情を煽られるようなマスコミ報道やSNS上での議論、あるいは市議会の一部からの突き上げなどが行われているからではないか。そのようにも認識しています。

なので、もう少し冷静に対応するように、市長側の動きに対して、そろそろマスコミも批判的なまなざしを向けたほうがいいと思います。今は市長提案⇒マスコミ報道⇒SNS上での一部の「加害教員を許すな」という声の高まり⇒それが市長らに届く⇒さらにやらなくてもいいような的外れな対応を市長から提案する・・・という、悪循環が繰り返されているように思いますので。

それこそ、「はたして、こんな対応を、本当につらい状況のなか、自らの被害状況について、思い切って声をあげた教員の方も望んでいるのだろうか?」と、私などはふと、思うのですが・・・。

当該の学校に通う子どもや保護者、そこで働き続けている教職員への配慮だけでなく、実は被害にあった教員に対する配慮なども「まるで感じられない」点も、この「的外れ」な市長提案への違和感のひとつです。「いったい、誰のためにこんな提案をしているのか?」と、私はあらためて思ってしまいました。

 


 

 




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