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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

財政逼迫下での地方分権の危機

2008-11-04 10:00:24 | ニュース

あいかわらず橋下大阪府知事の教育問題に関する発言は、迷走を続けているようです。詳しくは新聞各紙のネット配信記事を見てほしいのですが、かつて「PTA解体」と言ったかと思えば、今度はそのPTAの会合にでて謝罪・撤回をしたとか。最初に発言するときに、相手の立場とかを考えていなかったのでしょうか?

また、橋下知事は今度はそのPTAの会合で、大阪府下の教育問題の原因は「すべて家庭」にあるかのようなことも言ったとか。大勢の保護者の方が出ておられる(しかも、学校教育の問題にとても関心の高い保護者層の多い)PTAの会合でそういうことを言うのも「どうか?」と思うのですが、大阪府下の教育問題の原因を「すべて家庭」にあるというのなら、「では、これまでの一連の日教組批判とか、『クソ』呼ばわりまでした大阪府教委や府下自治体教委批判はなんだったのか?」と思ってしまいます。

こういうことばかりマスメディアを通じて見せ付けられると、正直なところ、前にも書いたとおり、橋下府知事の教育問題への発言については、「ものを言うのも嫌になる。もう見たくない」と言いたいくらいです。

ただ、この一連の橋下府知事の発言を検討して浮かび上がってくるのは何かというと、マスメディア経由であったり、あるいは、府民の世論や保護者からの突き上げであってもいいので、とにかく「府教委、府下自治体教委及び府下の公立学校、そこで勤務している教職員とその労働組合」に対して、たとえ後で考えてみるとツジツマのあわないような理屈づけであったとしても、今は執拗なくらいの攻撃を加えようとしていること。問題は、そのことをどう見るか、です。

これは私の推測ではあるのですが、「どうにかして、府の教育予算、特に府が負担する義務教育関係の経費や各市町村の教育にかかる府独自の補助金を削減したい」ということと、同時に、「国の教育政策、特に補助金付きの政策を積極的に導入することで、府の教育財政の負担を軽くしたい」ということ。このことを、府知事サイドは狙っているのではないのでしょうか。

そのためにも、「たとえそれが大阪府下で実施中の教育施策の水準を年々、低下させるようなものであったとしても、まずは国の教育施策そのものの水準に、府下の教育施策をあわせるということ」。このことによって、教育財政の部分での府の負担をできるだけ軽減していく。そこにまずは、今、主たる狙いがあるように思います。

また、それを受け入れるための世論形成を狙って、大阪府下の教育の実態がどうかということ、特にうまくいっていない部分を、特にマスメディアで何かとアピールしていく。特に、そのアピールのプロセスで、「そうした問題だらけの実態を生み出したのは府教委や府下自治体教委、学校現場とそこにいる教職員、そして教職員組合である」というイメージを形成し、自らを「その改革者」として位置付けるイメージ形成をはかる。学力テストの結果公開をせまる手法のように、一方で府から各自治体の補助金をちらつかせつつ、マスメディアで攻撃することもやる、というのは、きっと、こういうイメージ形成の方法なのでしょう。

そして、自らを「改革者」、府教委や府下自治体教委、学校現場とそこにいる教職員、教職員組合などを「抵抗勢力」とイメージづけるためには、就任わずか数日で更迭された前国交相の発言に理解を示すようなこともいとわない。こうすることで、国の教育政策を動かしている人々への印象度は高まりますよね。なにしろ、前国交相は自民党文教族の大物議員だったわけですし、現在の政権は自公政権ですからね。

だいたい、こういうところなのではないでしょうか?

しかし、こういう見方をすればわかるかと思うのですが、「地方分権」が一方で言われつつも、財政運営の困難な自治体は常に中央政界の動向に目配りして、その意向に従う施策を自ら受け入れるように動かざるをえない。でなければ、今まで行ってきた地方自治体の施策ですら、そのいくつかが実施不可能になってしまう。このように、一方で分権を言われつつも、財政上の問題を理由に、中央政界の求める施策を受け入れるかどうかで、各自治体は苦渋の選択を迫られるわけです。そして、財政上の問題で国の施策を受け入れれば受け入れるほど、各地方自治体独自の施策の比重は薄くなり、「分権はいったい、どこへ行ったのか?」という状況になることでしょう。おそらく、この構図は、おそらく大阪府だけでなく、大阪市もそうだろうし、他の自治体も、財政上の逼迫が見られるところでは、似たようなところがあるのではないでしょうか。

となってくると、今、本当に橋下府知事がやらねばならないことは、まずは率直に、「大阪府は今、財政上の逼迫と、こういう国と自治体の財政上のシステムの問題で、苦渋の選択を迫られているのだ」ということを、府民に向けてきちんと説明することではないのでしょうか。また、府民に対しても、マスメディアを通じて、このことをきちんと説明しなければならないのではないでしょうか。このことは、学校現場の教職員や教職員組合、府教委や府下自治体教委に、高圧的な言動を繰り返すこととは異なる、別の対応のはずです。そして、このことこそ、本来、最低限、府知事として今の財政状況を前にして、はたすべき「説明責任」であると思うのですが。

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