できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

政権与党の部活指導者資格制度導入提案に対する7つの懸念

2017-05-06 23:42:44 | 受験・学校

部活指導者の国家資格検討=外部人材を積極活用へ―自民
時事通信 5/6(土) 14:14配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170506-00000041-jij-pol

 

この提案、気を付けないと、次の7つの面で「あぶない」んじゃないですかねえ・・・。

1点目。非正規雇用の外部人材に、いくらライセンスがあるから、指導法や事故防止策を学ばせているからといって、「そもそも」の部分で、部活指導の何もかもを任せちゃって、ほんとうにいいんですかね? たとえば、学校の教育計画の運営及び事故防止の観点、それと(あんまり言いたくないけど)訴訟になったときの法的責任の観点から、外部人材に任せていい範囲って、どうなるんですかね?

2点目。記事によりますと、今後は正規雇用の教職員にも、部活指導可能のライセンスを取らせるんですよね? ということは、正規雇用の教職員は、このライセンスの有無で分断されます。つまり「部活指導資格のない一般の正規教職員」と、「部活指導可能な有資格正規教職員」とに分かれるわけですね。

それで、私が「部活の実績で学校の評判をあげたい」公立学校の管理職や私学の経営者なら、後者の人材、集めたがりますわ。あるいは、そうでない学校の管理職でも、「部活指導可能な資格のない一般の正規教職員」の雇用や転勤、敬遠しがちになりかねません。「任せられる仕事の範囲が狭い」といいながら・・・。

そのうちに「部活指導可能な有資格正規教職員」でなおかつ「全国大会で優勝経験あり」みたいな人が、「渡り職人」や「優勝請負人」的に「部活の実績で学校の評判をあげたい」ところを転々とするでしょうね。これ、すでに今までも、オモテにでないところでそういう人がいたのかもしれませんけど、今後はオモテで堂々と、そういう対応が可能になりますね。それって、いいんでしょうか?

3点目。「部活指導可能な有資格正規教職員」と「ライセンスのある部活動外部指導員」の「挟撃」のなかで、「部活指導資格のない一般の正規教職員」は、そのあと、いろんなプレッシャーにさらされるでしょうね。つまり「あんたも努力して、部活指導可能な資格を取れ」と上下左右あちこちから圧力がかかる恐れもあるでしょうし、「なんやあいつら一般の正規教職員は楽しやがって・・・」と、責任重くて待遇劣悪な非正規雇用の部活外部指導員からいろいろ突き上げられかねません。それって、いいんでしょうか?

4点目。それでもなお、まだこれで教職員の部活指導部分の負担が軽減されたらいいかもしれませんが・・・。実際のところ、外部指導員の派遣にどれだけの予算を投入する気が文科省及び地方教育行政にはあるんですかね? また、外部指導員に部活指導を任せても、他のところで授業やカリキュラムの運営(そこには特別の教科道徳の実施を含む)、生活指導や「学力向上のPDCAサイクル」実施等々に伴う負担が軽減されなければ、やはり「多忙化」傾向は大きく変わらないでしょう。

5点目。こういう危惧すべき点があっても、それでもなお、これで「世間の風評」や「マスコミを通じて盛り上がった世論」にもとづいて、政権与党と文科省は「なんらかの教員の負担軽減策を打ち出した」と一定、言えてしまうんですよね。

特に、私の見たところ、この数年(いや臨教審以来の約30年)、日本の文科省も政権与党も一定「学習」をしてきているというのか、マスメディアやネット世論を通じて教育批判・学校批判が盛り上がってきたら、それを一定程度まで「沈静化」させるために、何らかの手を打ってきます。

また、そこで打ち出されてくる手は、けっして抜本的な改善策にはならず、むしろ大事な施策だけは守り抜くために、ひとまず批判の矛先を変えたり、部分的には何か改善した「ふり」だけをするようなものが多いように思います。あるいは、その批判の声に「何か答える」ようなふりをしながら、実は自分たちの別の思惑を実現してしまうような、そういう手のように思います。

だから、今回のこの部活外部指導員の導入の話も、そういう「ヤバさ」がどこかで潜んでいるような気がして、私は「これ、気を付けないと・・・」と思ってしまうんですよね・・・。

そんなわけで、「私が思っているようなこういう危惧とか懸念とか、外部指導員導入に積極的な人、わかっているんかなあ?」というのが、6点目の私の感じている「ヤバさ」です。

あと、「意図的に劣悪な状況を創り出してしまったあとでは、ほんのちょっとだけいいことやっただけでも、ものすごく、いいことしているように見える」という、その構図。それがこの「教員の多忙化」解消と「部活外部指導員導入」という「政治」で、何かと文科省や政権与党にうまく利用されているような気がします。

もちろん、その劣悪な状況は何らかの形で改善されなければいけないわけですが・・・。でも、その「ほんのちょっとだけいいことやっただけでも、ものすごく、いいことしているように見える」という構図の危うさに気付いて、「そもそも、なんでこんな劣悪な状況を、誰が長年、放置してきたのさ?」とツッコミ返す。そういう発想からの発言もいるんじゃないですかねえ? そういうツッコミが今、できているんでしょうか? これが7点目の「ヤバさ」です。



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政治の土俵の上で踊らされているだけの「教員の多忙化」談義

2017-05-06 11:18:53 | 受験・学校

1年近く前の産経ニュースの記事になりますが、まずはこちらを見てください。

「教員、6時までに退校を 長時間労働是正、自民議連が文科相に提言」(2016年5月31日、産経ニュース)

http://www.sankei.com/life/news/160531/lif1605310018-n1.html

この記事を見ると、すでに1年近く前の段階で、自民党の議連が文部科学省に対して、教員の長時間労働是正に関して・・・。

(1)教員全員の午後6時までの退校を目指し、勤務時間管理や健康管理などを促進する。

(2)部活動は大会などを除き、土曜、日曜を休養日とする。

(3)業務を明確化し、給食費の徴収業務などを極力行わせない。

という3点を申入れしていますよね。

これをふまえて、先日、このブログで紹介した以下のネット上のキャンペーンのページを見てください。

キャンペーン:教員の時間外労働にも上限規制を設けて下さい!

いかがですか? もうすでに1年以上もまえに、このネット上のキャンペーンよりも何か具体性のある形で、自民党の議連が教員の多忙化解消に向けて文科省への申入れをしている感がありますよね?

 

しかも、たとえば業務改善アドバイザーを各校に派遣するとか、部活動の外部指導員の導入等々、この自民党議連の教員の多忙化解消に関する提案そのものや、この提案の趣旨をふまえたとりくみは、文科省が着々と手を打って、実現しつつあります。

とすれば、「この自民党議連の提案のレベル以上のものをつきつけていかなければ、より教員の多忙化を解消することはむずかしい」と、私などは判断するわけです。

先のキャンペーンにかかわる人が代表的ですが、いま、「教員の多忙化」を学校外から議論し、問題提起をしている研究者は、こうした自民党議連などの政治的な動きについて、どこまで適切に情報収集・分析を行っているのでしょうか?

また、そうした自民党議連などの「教員の多忙化」解消に向けての動きについて、何を評価し、何を問題だと批判して、どういう案を出そうとしているのでしょうか?

こういう今の「教員の多忙化」解消に向けての政策的な動向自体をきちんと対象化し、検討した上で提案するのでなければ、今後、先のキャンペーンなどは、政治の土俵の上で踊らされるだけになるでしょうね。

今のままだと、もしかしたら「その程度のことはすでに取り組んでいますよ」と、このキャンペーンの署名を出した段階で、文科省や政権与党に軽くあしらわれるかもしれませんね。

そんなことで、ほんとうにいいんでしょうかね?

あと、自民党議連の動きにせよ、先のキャンペーンにせよ、いま中教審からおりてきているようなカリキュラム改革の内容や、全国学力テストを前提としたような学力向上路線、さらには「特別の教科道徳」の実施等々のさまざまな教育改革の枠組みをまったくいじらずに、ただ「夕方6時で帰れるように」ということだけを追求するのは・・・。

学校現場の教職員に「無理をさせ、無理をするなと、無理をいう」路線でしかないでしょうね。

 

 


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