緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

グラナドス作曲 「詩的ワルツ集」の名演について

2011-11-13 21:33:48 | ピアノ
こんばんは。
今日も前回に引き続きピアノ曲を紹介したいと思います。
ピアノ曲の中でもクラシックギターに何らかの関連のある曲です。
スペインのピアノ作曲家で最も有名なのは、イサーク・アルベニスとエンリケ・
グラナドスです。2人とも19世紀の後半に活躍した国民学派の作曲家で、
スペインの民族性を素材とした曲、特にピアノ曲が数多く作曲されました。
そして彼等のピアノ曲がクラシックギターに編曲されています。
有名なのはアルベニスのグラナダやアストゥリアスや、グラナドスのスペイン
舞曲第5番、第10番などですね。

ところでこのグラナドスのピアノ曲の中で「詩的ワルツ集」という曲がありま
す。7つの短いワルツに前奏と終曲を加えた9曲からなる珠玉の大変美しい
曲で、私の最も好きなピアノ曲の1つです。

この詩的ワルツ集のピアノの名演は何といっても、スペインが生んだ偉大な
女流ピアニストであるアリシア・デ・ラローチャの演奏に他なりません。
スペイン音楽研究家の濱田滋郎氏によれば、アリシア・デ・ラローチャはグラ
ナドスの直弟子にピアノを習ったということである。またラローチャの母や
伯母がグラナドスに直接ピアノを習っていたということであるから、グラナ
ドスの音楽を一番身近に知ることができる環境で育ったと思われるのです。

ラローチャの詩的ワルツ集の録音は、彼女が44歳の時の1967年(写真
上)と71歳の時の1994年(写真下)があります。





これ以外にもあるかもしれませんが、詩的ワルツ集の録音で、私の手持ちのCD
はこの2枚だけです。

1967年の演奏は若いときだけあってエネルギーに満ち溢れ、力強いものです。
初めて詩的ワルツ集の録音を聴くのであれば、この1967年盤をお勧めします。

1994年の演奏は70歳を超えた時であり、さすがに音に力がありませんが、
丁寧に弾いています。ただ私の聴いた感じでは、もっと円熟した鋭い音、感性、
表現力が欲しいです。少し物足りない感じがします。パワーが無くてもそれを
十分補う何かが。



同じく70歳を超えてフォーレのピアノ曲全集を録音したフランスのピアニスト
であるジャン・ユボーも、その演奏を聴くと音に力が無くなっていますが、曲に
よっては円熟した表現力を感じさせるものがあります。でも正直いってせめて
50代くらいで全集を録音して欲しかったですね。恐らくその年代は凄い演奏
だったに違いないと思うからです。

横道にそれましたが、この詩的ワルツ集もクラシックギターに編曲されています。
古くはジョン・ウィリアムスが若いときに第1、3、4番を録音しています。
そして1982年にセゴビア、イエペス亡き後の巨匠であるジュリアン・ブリー
ムが2番と7番を除き録音しました。
その演奏は超名演です。ブリームが最盛期のときの録音で、ヴィラ・ロボスの12
の練習曲、ブラジル民謡組曲の録音と並んで私の最も好きな録音の1つです。



最初の前奏の出だしからもうその演奏に引き込まれてしまいます。これほどギター
の表現力を最大限に発揮した演奏があるでしょうか。ブリームの演奏を聴くと
ブリームの人間性、ギターを弾くことにこの上なく喜びを感じていること、
クラシックギターという楽器に対する尊厳や敬意、そして演奏を超える深い感情
を感じ取ることができます。是非この録音を聴いて欲しいです。
特に第3番の26小節目からのフレーズ、第5番の35~50小節目、第6番
の全て、は音が心に食い込んできます。

第6番の演奏はすごいです。編曲も素晴らしいですが、この悲しく感傷的な曲
をこれほど見事に弾いている演奏家を聴いたことがありません。インスピレー
ションで弾いているとしか思えないような演奏です。
下は福田進一の編曲によるギター版の譜面です(第6番)



ラローチャには悪いのですが、ジュリアン・ブリームの演奏の方が正直言って
感動します。

因みにこの詩的ワルツ集のギターの編曲は、第3番で6弦をD音に下げて、
第6番から終曲に移る時に今度は6弦をD音からE音に戻すために調弦しなけ
ればならないのですが、ブリームは録音をとぎれさせることなく、この調弦を
音を出すことなく糸巻きを早業で回すだけで行っています。
録音に使用された楽器はスペインのホセ・ルイス・ロマニリョス1973年製
のはずです。
私が大学時代に、兄がこの曲をFMラジオからカセットテープに録音したので
すが、兄が「曲の切れ目で糸巻きを聞こえないくらいの音で回して調弦して
いるようだよ」と言ったのです。
大抵、6弦をD音に下げるとしばらくすると音が上がってしまい、逆に6弦
をDからE音に戻すと音が下がってしまうので、音が安定するまでしばらく調弦
に時間をとらなければならないので、本当か?そんなことできるわけがないだろ、
と言っていた記憶があります。

しかしブリームが1995年に来日し、東京文化会館大ホールで演奏会を開き
私も聴きに行ったのですが、その日のプログラムでこの詩的ワルツ集が演奏され、
確かに曲の切れ目で、全く音を出さずに糸巻きをすごい速さで回して、曲の流れ
を損なわないようにしていました。驚きましたね。こんなことできるのはブリ
ームしかいないのではないか。





ブリーム以外で詩的ワルツ集のギター編曲を録音したギタリストとしてジョン・
ウィリアムスがいますが、1991年に全曲を編曲して録音しました。
しかしこの演奏は私はあまり好きではありません。編曲も好きではありません。
ジョンは1980年代頃から音が変わってしまったんですね。この録音の音も
軽くて薄っぺらくて、高音はキンキンしている時もある。
第7番の音などのっぺらーとしています。
昔のジョンの音は全然違っていた。アグアドやフレタを弾いていた頃のジョンは
打ち付けるような鋭く冴えわたるような音で、聴いていて爽快だった。また時に
ブリームとの2重奏でソルのアンクラージュマンで聴かせてくれたような、暖かく
澄んだ、本当に美しい音も出していた。
楽器はオーストラリアのグレッグ・スモールマンであるがこの楽器を弾くように
なってからあまりジョンの録音を聴かなくなってしまった。



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