緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ギター練習曲の名曲 F.ソル作曲 Op6-11

2011-11-20 00:27:24 | ギター
こんばんは。
今日は1日中雨降りでした。だんだん寒くなってきましたね。
今年初めてストーブを点けました。
今日は雨降りということもあって1日中家にいました。
明日は楽しみにしていた東京国際ギターコンクールの本選があり、聴きに
いきます。
今日はクラシックギターの練習曲の名曲の話をしたいと思います。
クラシックギターの練習曲集としては、中級レベルのものとして最も有名
なのはカルカッシが作曲した「25の練習曲 Op.60」があります。
下の写真はミゲル・リョベートが運指を付け、伊藤翁介が解説を施した
楽譜です。



マテオ・カルカッシは19世紀に活躍した作曲家兼ギタリストで、カル
カッシギター教則本(Op.59)やこの25曲の練習曲が有名です。
それ以外にディオニシオ・アグアドやナポレオン・コストといった作曲家
の練習曲がありますが、何といってもスペインの作曲家でフランスに没した
フェルナンド・ソルの練習曲が最も豊富であり、また音楽的にも技巧面に
においても優れた内容を持っています。

このフェルナンド・ソルの練習曲の中から有益なものを選び出し、練習曲
集として編集したギタリストとしてアンドレス・セゴビアとナルシソ・イ
エペスが有名です。
特にセゴビアが編集した20のソルの練習曲集はギターを勉強する者に
とってはバイブルともともいえる教材であり、長い間、今でも中級から上級
にかけてのレベルにあたる練習曲集として絶対的な存在であると言えるで
しょう。



一方イエペスは独自の理論的解釈から運指を付けた24曲からなる練習曲
集を編集し、出版しました。



イエペスの運指はセゴビアのものとはかなり異なっていますすが、しかし
大変合理的で音楽的な熟慮の結果にもとづいて付けたと考えられるもので
あり、大変勉強になります。
セゴビア編だけを学んだ方は是非このイエペス編も弾いてみて下さい。

このソルの練習曲のなかで私が最も好きなのは、Op6-11 ホ短調です。
三連譜のアルペジオからなる短いシンプルな曲ですが、ものすごくいい曲
です。
この曲を初めて聴いたのは、ギターを始めてまだまもない中学2年生の頃
で、ナルシソ・イエペスのレコードを初めて買って聴いたときです。
イエペスの演奏するこの曲を聴いて、素朴で短く、簡素な曲でありながら、
すごく深いものを秘めていると思うようになりました。




ソルはこの曲を作曲した時にどんな人生を歩んでいたのだろう。またどんな
気持ちを味わっていたのだろう、と思います。
この曲を聴くとソルという人物は、生まれながらにして音楽的感覚に鋭かっ
たこともあるが、それだけでなく苦しいことや人生のどん底、絶頂感、幸福、
安らぎ、これ以上ないという喜びなど、あらゆる経験と感情を味わってきた
のではないかと思う。
このOp6-11を聴くとソルの人生の縮図を感じます。特にホ長調に転調
してからが素晴らしい。このホ短調とホ長調の対比がすごい。
この曲は非常に簡素であり、虚飾が全く無く、無駄な音など1音もない。
しかし1音1音の意味するものは非常に深いものを感じさせられます。
下の写真はホ短調の冒頭部とホ長調の最後の部分です(セゴビア編)。





特にホ長調の最後の部分は何ともいえない、何というか、長いトンネルをやっ
と抜け出してつかんだ幸福感、やすらぎ、といったものを感じさせます。

ところで、セゴビアもイエペスもソルの原典の音を少し変更している部分
があります。
下の写真は6小節目ですが、原典の1拍目と4拍目の低音はファ#ですが、
セゴビア編は1拍目がミ、4拍目がドに変更しています。イエペスは1拍目
が原典と同じファ#ですが、4拍目はセゴビアと同じドにしています。写真は
イエペス編です。



しかし面白いことにイエペスは6弦時代の録音も10弦になってからの録音
も両方ともセゴビア編と同じで弾いています。
これと同じようなパターンで33小節目の4拍目の低音をセゴビア編はミ
♭を付けていますが、この音は原典には無く、イエペス編にもありません。
しかしイエペスは先と同じように6弦時代も10弦時代の録音もセゴビア
編と同じに弾いています。
イエペスは若い頃セゴビア編をベースにして独自の運指を取り入れてこの
曲を練習していたのではないかと思う。
それは60小節目の1拍目低音をセゴビア編の初期の楽譜ではラ音となって
おり、イエペスの6弦時代の録音もこの部分をラ音で弾いているからです。
その後セゴビア編はこの音を原典のド#に直しましたが、イエペスの10弦
になってからの録音は原典どおりド#で弾いています。



イエペスの10弦ギターの録音(1967年)は、6弦時代の録音に比べ
ゆったりとしたテンポで、丁寧な名演とも呼べるものですが、私は6弦時代
の演奏が好きです。6弦の演奏の方がソルの心情をそのままに表現している
と感じられるからです。
イエペスの6弦時代の録音で、ホ長調の最後の部分のメロディを②弦のみで
演奏していますが、この部分の表現が凄いです。
セゴビア編はこの部分のメロディを①弦と②弦を指定していますが、この
部分に秘められたソルの心情を表現するにはイエペス編のほう優れていると
思います。
恐らくイエペスはソルのこの部分の気持ちを表現するために、どの運指に
したら出来るのか考え抜いたに違いありません。

下の写真は10弦時代のイエペスの録音とセゴビアの録音のCDです。





この練習曲を聴いてから35年以上になりますが、本当に何度聴いても深く
感動させられます。
ギターを聴く方も聴かないかたも是非聴いて欲しい名曲です。
コメント    この記事についてブログを書く
« グラナドス作曲 「詩的ワル... | トップ | 第54回東京国際ギターコン... »

コメントを投稿

ギター」カテゴリの最新記事