緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

中央大学マンドリン倶楽部 第110回定期演奏会を聴く

2016-05-29 23:32:59 | マンドリン合奏
今日(29日)東京八王子のオリンパスホールで開催された、中央大学マンドリン倶楽部第110回定期演奏会を聴きに行った。
中央大学マンドリン倶楽部の定期演奏会を聴くのがこれで4回目。
この2年間でかなり大学の演奏を聴いてきたが、この大学の演奏レベルは突出している。
まず演奏曲目にマンドリン・オーケストラのためのオリジナルで、本格的なしかも難易度の高い曲を並べてくる。
安易にポピューラー曲の編曲物をプログラムに入れない。
勿論演奏会のプログラミングに対して聴き手の受け止め方、趣向は様々であるが、私はこのプログラミングの基本方針が好きだ。
東京だから可能なのかもしれないが、マンドリン音楽の真髄に触れたいと思う人には最適な演奏会である。
この大学の演奏会を聴くようになって未だ4回目に過ぎないが、楽しみなのである。

14時開演。部員たちがステージに現れたが、意外にも部員数が少ない。
プログラムを見ると現役生は1年生を含めて26人。第Ⅰ部の現役生のステージでは7名のOBが賛助出演していたがそれでも少なく感じる。
伝統を誇る歴史あるクラブなのに部員数の獲得が難しいのか。それとも全員出演していないのか。
本当のところは分からないが、吹奏楽、合唱曲、管弦楽などに比べマンドリン音楽に関心を持つ音楽経験者がそれだけ少ないということだろう。
高校にギターアンサンブルはあるが、マンドリンクラブがあるのはあまり聞かない。
クラシックギター経験者がマンドリンクラブに入るかと言えば、そうでもない。
クラシックギター経験者は概ね個人で活動する。独奏を極めたいからだ。マンドリン曲の伴奏に膨大な時間を費やすよりも、独奏曲のレパートリーを増やした方がいいと思うのは当然だ。
これ以外にも理由はあるだろう。それについては後に触れたいと思う。

さて110回目の定期演奏会のプログラムは下記のとおり。

第Ⅰ部(学生ステージ)

・ロマン的協奏曲  作曲:K.Wolki

・間奏曲  作曲:S.Falbo

・三つのスペイン風舞曲  作曲:P.Lacome

第Ⅱ部(OB・OGとの合同ステージ)

・大学祝典曲「栄光への道」  作曲:鈴木静一

・詩的幻想曲「誓い」  作曲:U.Bottacchiari

・タイ舞曲「パゴタの舞姫」  作曲:鈴木静一

第Ⅰ部第1曲目の「ロマン的協奏曲」、ヴェルキの名前はこれまで何度聞いたがドイツの作曲家とのこと。
出だしは華々しく始まる。ドイツらしく古典的形式を採る軽快な曲だ。
しばらくすると転調し、短調の旋律が流れてきたが、この旋律を聴いて思い出すのは、20代半ばに聴きまくったチャイコフスキー作曲の交響曲第6番「悲愴」第2楽章のとあるフレーズだ。そしてそれはすぐに19世紀の古典曲によく出てくる独特の旋律に変わる。F.ソルの練習曲で聴いたあのフレーズ、OP.35-14イ短調に出てくる音型だ。
このフレーズは何度か繰り返されたが、1stマンドリンと2stマンドリンのソロで奏でられる美しいハーモニーが素晴らしかった。

第2曲目はファルボの間奏曲。
この曲名とファルボという作曲家名で、学生時代の定期演奏曲で演奏したのを思い出した。
しかし今日の演奏会で聴いたのは私が学生時代に演奏した曲とは異なっていた,と初めは感じた。
そこで家に帰ってから学生時代の楽譜を引っ張り出してファルボの譜面を探してみたら、2曲出てきた。
1曲は今日の定期演奏曲で聴いたのとまさに同じ曲。ハ長調のギターのアルペジオで始まる曲だ。



もう1曲は「序曲ニ短調」。



私はこの「序曲ニ短調」の方を強烈に記憶しており、ハ長調の「間奏曲」は殆ど忘れてしまっていたのであった。
しかしこの「間奏曲」の方も改めて聴いてみると地味ながらマンドリン曲に相応しいいい曲だ。
マンドリン属のハーモニーの美しさをの極みを聴かせてくれた。
最後の終わり方はどこかで別の曲で聴いたものと似ていた。
直ぐに思い出せなかったが、後で、芥川也寸志作曲「弦楽のためのトリプティーク」の第二楽章子守唄の最後のフレーズが浮かんできたことに気付いた。

第Ⅰ部最後曲は、「三つのスペイン風舞曲」。スペインの伝統舞曲である、ボレロ、アンダルーサ、ソルツィーコの3曲からなる。
「ボレロ」はボレロというより、まずビゼーの歌劇「カルメン」第一組曲第2曲の「アラゴーネーズ」の8分の3拍子のリズムと旋律を思い出してしまった。
また、サーインス・デ・ラ・マーサの「アンダルーサ」中間部の難しいパッセージも思い浮かんだ。
このギター曲「アンダルーサ」は「ロンデーニャ」に改作されたが、旧作「アンダルーサ」の方が優れているしスペインらしい。
第2曲「アンダルーサ」はよりスペインらしい雰囲気が伝わってくる。
これもまた、ギター曲、サーインス・デ・ラ・マーサの「ソレア」の中間部のCOPLA(歌)が浮かんでくる。
第3曲「ソルツィーコ」はスペインとフランスにまたがるピレネー山脈に居住する民族の舞曲だそうだが、初めて聴く。明るく陽気な曲だ。

第Ⅱ部第1曲目は鈴木静一の「大学祝典曲 栄光への道」。
初めて聴く曲だ。
山登りを愛した鈴木静一が初めて北アルプスに足を踏み入れた時の回想、大学山岳会などの人々が愛唱した「山の唄」などをモチーフにして作られたという。
管楽器と打楽器のパーカッション、ピアノを交えたOB・OGとの合同ステージであり、壮大な演奏を聴けた。
指揮者はOBであった。
曲から受ける印象はあまり山登りのイメージがしなかったが、鈴木静一らしく、曲の変化はめまぐるしく時々鈴木節ものぞかせた。
「雪の造型」第3楽章や、交響譚詩「火の山」のワン・フレーズを彷彿させる箇所もあった。
北アルプスのふもと上高地や、穂高を回想したとプログラムに書いてあったが、私も就職して間もなく会社の山岳部に入り、初秋に上高地から奥穂高に登ったことがあり、その頃をふと思い出した。23歳の時だ。
その後、30歳初めまでに白馬岳、鳥海山、北八甲田、南八甲田などに登ったが、それっきりだ。
中高年の登山がブームのようだが、体力のすっかり衰えた現在、とても山登りなどできそうもない。

第2曲目「詩的幻想曲 誓い」は独特の曲だった。
ベースパートの重々しいソロで始まり、セロ、ドラ、マンドリンと移っていく寂しく悲しいが美しい旋律。
作曲者のU.ボッタッキアーリはマンドリン界では有名であるが、この曲はマンドリン曲としては名曲だと思う。
C.O.ラッタの「英雄葬送曲」と共にプログラムに取り入れても楽しめるのではないか。
低音パートの旋律が美しい。
マンドリン特有の金属的響きが抑えられ、どことなく弦楽器のような響きすら感じられる。
最後は高音のマンドリンの美しいハーモニーで終わる。

今日の演奏会の最後を飾る第Ⅱ部の終曲は、鈴木静一の「パゴタの舞姫」であった。
この曲は以前、CDで聴いたことがある。
鈴木静一の曲の中ではマイナーな存在だが、管楽器、パーカッション、ピアノをふんだんに取り入れた壮大な編成の曲であった。
日本的情緒は殆どなく、アジアの民族音楽を題材にした曲だ。
パーカッションによるリズムの変化を効果的に全面に出した曲。
こういう曲はCDできくより生で聴いた方が絶対に楽しめる。
パーカッションの演奏の方々は、一人でいくつもの楽器を掛け持ちで演奏し、それも切り替えがめまぐるしいので大変そうであった。しかしそれが却って感動的だった。
管楽器の方もとても上手で、終盤に奏でられたオーボエの神妙な旋律はとても美しく感動した。
どちらかというとマンドリンよりも管楽器やパーッカションが主役の曲のように感じる。
この賛助の方々は同じ大学の方々なのか。これほどの実力のある演奏者に来てもらうのは容易ではないであろう。

全ての演奏曲目が終了し、部員たち、賛助の方々、OB・OGは盛大な拍手に迎えられ、アンコール1曲演奏した。鈴木静一の「山の印象」第4楽章。

今日はいつになく耳が敏感だったせいか、第Ⅰ部の演奏から感動して聴くことができた。
第Ⅰ部から聴いていて、この大学の演奏の何が大きく感動させるのか、しばらく考えていた。
やはり、お客に聴いてもらうには、究極の演奏でもって満足してもらいたい、という気持ちが根本としてあり、全員が一丸となってその気持ちを共有して、演奏に最大限のエネルギーを注入しているからではないか、と思うようになった。
その気持ちが知らず知らずのうちに聴き手に伝わり、大きな感動を引き起こすのである。
しかしこれだけの演奏レベルに達するのは並大抵の練習ではおぼつかないであろう。
恐らくであるが、過酷な練習をしていることは間違いないであろう。
彼らは決して甘い妥協はしない。
難しい技巧、音楽表現であっても決して妥協せず果敢に挑戦してきた形跡が伺われる。
その長く辛い積み重ねの結果が、この2時間足らずのわずかな瞬間に花開くのである。
そしてそのことが聴き手の心に熱いものを感じさせる。

冒頭で部員が少ないことを述べたが、恐らく練習が厳しいからであろう。
しかし過酷な練習の厳しさに耐えて演奏会で燃焼するまで出し切った経験は、卒業後の何十年にも渡って自分を強固に支え続けることは間違いない。
彼らの演奏を聴いていると、マンドリン音楽が好きで好きで、この音楽を演奏できることが最大の喜びであることがひしひしと伝わってきた。

演奏会というわずかな時間であるにしても、そこで表出される感情は強く長い道のりを経たものである。
それを聴き手が感じ取り、気持ちを共有する。
それが生の演奏会の醍醐味だ。
今日、中央大学マンドリン倶楽部一同の演奏を聴いてその思いを改めて感じた。

次の演奏会は今年の冬であろうが、期待している。
どうか自信を持って素晴らしい演奏をまた聴かせていただきたい。
今日素晴らしい演奏聴かせてくれたことに感謝したい。


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