緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ウラジーミル・トロップ演奏 ロシアピアノ小曲集を聴く

2016-05-21 21:56:05 | ピアノ
昨年夏、旧ソ連時代の偉大なピアニスト、マリヤ・グリンベルクに関する文献を調べていたところ、ある音楽雑誌に、ロシアのグレーシン音楽大学で行われたベートーヴェン没後150年記念講演で、マリヤ・グリンベルクにインタビューした記事が掲載されているのを見つけ、図書館でバックナンバーを探し出しコピーした。
この講演でマリヤ・グリンベルクにインタビューしたのが、ウラジーミル・トロップ(Vladimir Tropp 1939~)という、グレーシン音楽大学で教授として教鞭をとる教育者であった。



先日中古CDショップで偶然このウラジーミル・トロップ氏のCDを見つけた。
トロップという名前は意外にも記憶に残っていた。
知名度が低いのか、値段も安く、その店の割引商品となっていた。

ピアノの録音は膨大であり、ピアニストの数もギタリストのものの比ではない。
ここ数年でかなりの数のピアニストの録音を聴いたが、ピアノ界は演奏者の知名度は当てにならないことがわかった。
知名度は低くても、素晴らしい演奏家はいるものだ。
ピアノ界は層が厚いというより、高いレベルの演奏者がたくさんいる。
聴き手は、その中から自分の感性に合う演奏家、本物だと思う演奏家を選んでいけばいいと思う。

ウラジーミル・トロップの演奏に初めて触れたのは、日本で1999年に録音されDENONから発売された「ロシアン・メランコリー」というアルバムであった。
アルバムの最初の曲はグリンカの「夜想曲(告別)」であった。
アルバム名どおり、悲しい曲であった。
しかしいい曲だ。
それ以上に驚いたのは、トロップ氏の音の美しさである。
ピアノの音で本当の意味で美しい音に出会うことは少ない。

ピアノの音で美しい音とは一体どのような音なのだろうか。
人によって様々であろうが、私は次のように考えたい。

・表面的、平面的ではなく、芯があり、多層的な音。
・人間の感情が宿った音
・低音から高音まで、ピアノという楽器が本来的に持つ魅力を最大限に引き出した音
・音楽の流れが自然で、その自然な流れから生まれてくる音
・聴き手の奥底に眠っている感情を刺激し、その感情を表に引き出す音。

かなり抽象的な言い方であるが、まず聴き手に強い感情を引き起こすものであり、次に流れや響きが自然であり、
楽器特有の魅力が感じられるということだろうか。
言葉に表すことは本当に難しい。

本当に優れた音を出せるピアニストかそうでないかを見分けるポイントの一つとして、強音、特に低音の強音を聴いて、その音が聴き苦しい、例えばうるさく感じたり、不快に感じたり、心が痛く感じたりするどころか、いくら強い音でも楽器の持つ魅力が伝わってくるような心地よさを感じられるかどうかである。
トロップ氏の演奏は全体的に地味に聴こえるが、流れは極めて自然に感じる。
この流れの自然さは重要だと思う。
流れが自然だということは、頭で演奏していないということ。余計な意識が入り込んでいない、作為的な要素が無い、曲そのものに一体となっているというようなこと。
そしてトロップ氏の強音は魅力的だ。

初めトロップ氏は、マリヤ・グリンベルクの弟子かと思ったがそうではないようだ。
グレーシン音楽大学に長年勤め、教育者としては評価が高いようだ。
しかし演奏者としても第一級だと思う。
特にロシアの小品の演奏では右に出るものはないであろう。
私がもし仮に音楽を志していたとしたら、こんな音楽家に教えを請うだろうと思う。
トロップ氏とはどんな人間なのか。
想像であるがきっと、人間的魅力を持った方に違いない。
そして苦労してきたに違いない。

このアルバムで印象に残った演奏を下記に記しておく。

・グリンカ作曲 夜想曲「告別」
・ボロディン作曲 「小組曲」より修道院にて
・ボロディン作曲 「小組曲」より間奏曲
・カリンニコフ作曲 悲歌

このアルバム以外にトロップ氏の3枚のCDを買って聴いている。


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