世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

怪獣のバラード

2005年05月09日 02時23分00秒 | Weblog
上野の国立科学博物館で開催されている「恐竜博2005」に行く。
ここに来るのは久しぶり。
5年前のダイヤモンド展以来である。

今日のお目当てはティラノザウルスの「スー」。
アメリカのフィールド博物館から遥々やってきた。日本初上陸。

全長13メートルのスー。アメリカサウスダコダ州の崖で1990年に発見された。
名前は発見者スーザンさんに因んで命名された。
スーは発見された時の保存状態が良く、骨に色々な痕跡を残している。

まずは尾骨。スーの尾骨は数個潰れている。これは交尾の時に雄に踏み潰された時の痕跡らしい。彼女が雌だと理由付けされた一因とされている。

次に左脛。近くで見ると、右脛に比べてボコボコしている。これは骨炎が治った痕跡らしい。モノの書によると、この時期は餌を獲ることもできなかったはずで、きっと彼女に餌を運んで看病した家族がいたのだろうとのこと。ティラノサウルスに家族を思いやる社会性があったというこの説、けっこう好き。鳥類への進化をテーマにした今回の恐竜博。「おしどり夫婦」や鶴のツガイなど鳥は愛の象徴的な動物だということを考えると納得できる。

スーは骨の年輪から28歳で死んだと推測されている。彼女の最期とはどんなものだったのか。彼女の胃の辺りからカモノハシの化石が発掘され、これが彼女の最後の晩餐だと考えられている。餓死ではない。スーの出土した付近から幼いティラノザウルス4体も発掘されていて、スーの子供と考えられている。ティラノザウルスを襲うのはティラノザウルス以外考えられない。家族以外のティラノザウルスによって襲われて死んだとするならば、スーは子供たちを守るために戦って力尽きた…そのような説が有力らしい。

若い頃の大ケガは家族の支えで乗り切った。
彼にしっぽを踏みつけられながら愛を交わした。
我が子を守るために戦い、28歳で死んだ

そんなスーがいとおしくて、抱きしめたくて、
彼女の化石の前で暫し佇んでしまった。
(来場者は家族連れかカップルか純粋に恐竜ファンだと思しき殿方が殆ど。20代女性がウルウルと恐竜の化石の前で佇む姿は奇異だったかもしれない。)

「怪獣のバラード」という曲がある。
中学校の合唱コンクールで他のクラスが歌っていた。

「海が見たい 
人を愛したい
怪獣にも心はあるのさ~♪」

まさにそうだと思った。
恐竜にも愛があったに違いない。

科学の発達が、骨の様々な痕跡から多くの事実を証明できたと同時に、彼女の愛に溢れた生き様をも証明できた。若干推測の域は逸脱していないにしろ、仮説を辿る楽しみをこの恐竜博で学んだ。