晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

山崎豊子 『不毛地帯』

2013-02-13 | 日本人作家 や
山崎豊子の作品、それも長編を読むにあたっては、ある程度の「覚悟」
がいるといいますか、少なくともカプチーノ飲みながらクッキー食べな
がら優雅に読書というカタチでは読めないな、と。

幼年学校から陸軍士官学校、そして陸大へと進み、大本営参謀となった
壹岐正は、昭和20年8月15日の終戦の知らせを受け混沌となってる中、
満州へ飛んで関東軍司令部に伝えてきてくれと命令を出されます。

さっそく満州へ向かう壹岐。しかし、ソ連の侵攻を防ぐため最前線で張って
いる関東軍の兵士たちには終戦が聖旨であっても言う事を聞きません。

参謀総長からは「必ず復命せよ」と命じられた壹岐ですが、怪我で運ばれて
きた士官学校の生徒を先に帰国させて、自分は満州に残るのです。しかし
それが、11年におよぶシベリア抑留となってしまうとは・・・

想像を絶する過酷な状況で、日本に残してきた家族に会うために、「必ず
復命せよ」という命令を心に刻んで、同じ日本人捕虜がだんだんと”人で
なくなってゆく”のを目の当たりにしたり、自分も危うくそうなりかけたり
して、なんとか死は免れて、ボロボロになってようやく祖国の土を踏むことに。

じつは抑留中に、極東裁判のソ連側証人として日本に帰ってきていて、しかし
その時は家族との面会を避け、さらにいっしょに一時帰国していた秋津中将の
自殺という出来事もあって、かなりバタバタしていて、今度こそ本当の”帰国”
ということで、家族に再会しますが、長男はあまりに様子の変わった父に戸惑い
を見せます。この微妙な父と息子の関係はその後も続くのです。

さて、関西に本社のある近畿商事という会社の社長、大門は、壹岐をスカウト
します。しかし、軍歴しかない壹岐は商売の”し”の字も分からず、とりあえず
見学に行った繊維の取引を見て、これは自分には無理だと思うのですが、大門は
尻込みする壹岐に「日本が負けてすまんと思うなら軍事戦略で培ってきた頭脳を
こんどは日本の経済発展のために使うべき」と諭します。

そこまで高く買ってくれる大門社長のために、壹岐はなれない環境の中、必死に
なります。ひとつは大門のためですが、もうひとつは、復員しても防衛庁には
入らないで欲しい、普通の勤め人になってほしいという家族の強い願いがあった
のです。

さて、なんとかおぼろげながら仕事を覚えてきた壹岐ですが、東京支社のほうから
壹岐を貸して欲しい、と声がかかります。それは、自衛隊が次期導入する戦闘機の
売り込みに、自衛隊の上層部に知己の多い壹岐を使いたい、というのですが、壹岐
は入社の際、大本営時代のコネで仕事をするような真似だけはしたくない、と大門
に宣言していたのですが、社長は壹岐にアメリカ出張を命じ・・・

戦闘機の売り込み合戦では熾烈な競争があり、またそこに政治も絡んできて、ドロ
ドロの汚い世界に足を突っ込んだ壹岐、この一件で得たものもありますが、その代償
も大きいものでした。
それから壹岐はトントン拍子に出世して、業務本部長からアメリカ法人社長、その間
に日米の自動車会社の提携交渉やイランの石油入札など功績をあげ、そしてついに
ナンバースリーにまで・・・

しかし、不幸な事故もあって、また亡き秋津中将のお嬢さんとの関係もどうなること
やら、そしてなにより、シベリア抑留者たちの遺骨帰還や遺族の援助を、手弁当で
会長をしてくれている元大佐には頭が下がる思い。

壹岐のライバルとして登場する鮫島という商社マン、仕事上のライバルだけか、なんと
鮫島の息子と壹岐の娘が結婚までするという因縁浅からぬ関係、これがまたじつに
”イヤな奴”として描いているのですが、「へその緒を切ったその時から商社マン」という
鮫島のバイタリティ、こういう人たちが「ジャパンアズナンバーワン」を作ったんだよ
なあと思うと、イヤな奴ではありますが、多少の敬意を持たざるを得ません。

最終的に壹岐は会社をやめるのですが、その時の社長とのやりとりは、「樅の木は残った」
の原田甲斐を思い出させます。


コメント
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