晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

海堂尊 『イノセント・ゲリラの祝祭』

2010-11-25 | 日本人作家 か
そういえば先日、新聞に「作家」としてというよりは「医師」
として海堂尊が、検死の死後画像診断の必要性について語る
記事があり、紙面にてはじめてご尊顔を拝したわけではあり
ますが、この国の医療システムの不備(不備だらけですが)
を憂う、影響力のある現役医師がなんとか改善させようとし
ているその姿勢は、いちファンとして応援します。

「このミステリーがすごい!」第4回の大賞に選ばれた「チーム
バチスタの栄光」をはじめて読んで、まさに、このミステリーは
すごい!と唸ったのは記憶にあたらしく、そこからさらにガンガン
と、愚痴外来の田口医師&厚生労働省のロジカルモンスター白鳥
コンビのシリーズに魅了され、そして、スピンオフ作品も楽しめて、
長い間、落ち葉や泥がたまるにまかせて詰まってしまっていた川の
掃除をして、ふたたび流れを取り戻したようなスッキリ感もあり
ますが、その「蓋」を開けたことによってさらに大きな堆積物が
あるという現実を知らされる・・・この国の医療システムの問題
点は底なしなのではと悲観してしまいそうになるのですが、流麗
な文章力で、とりあえず読んでいる最中は物語に没頭できます。

今作では、不定愁訴外来(患者の愚痴を聞く)責任者にして、
東城大学リスクマネジメント委員会委員長という、本人の希望
で得たわけではない肩書きを持つ医師の田口が、とうとう、医療界
の本丸、厚生労働省へと乗り込むことに。

といっても、これも田口の意思あってのことではなく、裏で
田口を呼び寄せたのは厚労省の役人で鼻つまみ者、白鳥の差し金
だと気付いた時には遅し、田口は「医療事故調査委員会」という、
ご大層な集まりに出席することになります。

折しも、田口の住む桜宮市で、ある宗教団体が絡む死因の特定しに
くい遺体に関して、検死官が心不全と診断するも、疑心を抱いた遺族
が警察に再検死を頼み、なんと亡くなった12歳の少年は、大量出血
による外傷性ショック死、つまり死ぬまでボコボコに殴打され続けた
ということだったのです。

これに関連して、死後画像診断を推したい側、病理学会、法医学会の
それぞれの主義主張のぶつけ合い、これを良質のパフォーマンスと
して国民に「我々は日本医療の未来を考えてますよ」という姿勢だけ
見せたい厚労省の官僚、こんな人たちでは、話がまったく進みません。
しかし、白鳥にはどうやら「奥の手」があったのです・・・

しかしそれにしても、この国の医療現状は惨状といってもいいですけど、
こうしたほうがいいのにというアイデアも、役人たちがそれに関わった
途端に遅々として進まなくなります。というのも、彼ら役人の第一義は
予算、次に自分たちの退官後のポスト(天下り先の確保)、三、四が
なくて、五にメンツ、彼らの脳には微塵も「国民の利益」はありそうに
ない、というか。

相変わらず、強烈に面白いです。しかしそれにしても、これが映像化
されると、配役が強烈にミスマッチなのは、どうしてなのでしょうか。
原作のファンは、「え、なんで白鳥があんなシュッとした俳優なの?
え、どうして田口が・・・」と感じたことでしょう。


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