晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

鈴木光司 『らせん』

2009-03-05 | 日本人作家 さ
※前作『リング』のネタバレが説明のため書かれております。

「ビデオを見たら一週間以内に死ぬ」という謎が新聞記者、浅川により解明し、
運悪くビデオを見てしまった浅川の妻と子どもを助けるために出かけるところ
で「リング」は終わり、ビデオの謎解きを協力してもらうも、呪いで死んでし
まった大学講師の高山の司法解剖から『らせん』は始まります。

監察医の安藤は、高山とは大学の同期で、高山の解剖の結果、心臓近くに腫瘍
のようなものができたのが死因であるとしますが、どうも不自然。そして高山
の体から数字の書かれた紙が飛び出してきて、これは暗号ではないかと解読し
てみることにした安藤は、その数字が「RING」という言葉を表していると
解読する。

一方、高山の死因に懐疑的なのは、高山の元恋人高野も同じで、安藤と会い、
高山の死の直前に電話がかかってきたこと、葬儀の時に、友人であった新聞記
者の浅川からビデオについて訊かれたことを話す。安藤は高山に会おうとする
が、交通事故により意識不明の重体で、同乗していた妻と子どもは死亡。そし
て数日後、高野は失踪してしまう。彼女の部屋に行ってみると、無人のはずの
室内に誰かのいる気配がし、怖くなって逃げる。

ビデオの謎を解明しようとするうちに、過去に同時刻に違う場所で4人の男女
が突然死したその原因が、件のビデオにあることが判り、死因を調べてみると
その4人と高山、さらに浅川の妻と子ども、ビデオを見たという浅川の妻の両
親も、心臓付近に腫瘍ができていたことが判明し、さらに、その腫瘍はもはや
地球から絶滅したはずの天然痘に似たもので、高山の腫瘍からは奇妙な遺伝子
配列を持ったウィルスが出てくる。

これも暗号かと調べてみると、「突然変異」という言葉に解読でき、ますます
混迷。そんな中、失踪していた高野がビル屋上から死体で発見される。遺体は
出産直後のような状態で、しかし付近に赤ちゃんはいなく、死亡状態もなにや
ら不自然。高野の部屋に行ってみると、部屋から女性が出てきて、高野の姉と
名乗る。

この女性の正体は…。そして、呪いのビデオの真の目的とは…。
浅川と高野は、ビデオを見て一週間経過しても死ななかったのはなぜか…。
「リング」と「突然変異」というなぞのメッセージを残した高山の真意は…?

今作はいわばメディカルサスペンスでホラー要素はリングと比べると弱く、
どちらかというと知的好奇心をくすぐり、理解していくにつれて、怖さが
少しずつ歩み寄ってくるといった感じ。

ウィルスを扱った作品といえば、R・プレストン著「ホット・ゾーン」という
アフリカ発生のエボラ出血熱の話ですが、「らせん」にも「ホット・ゾーン」
にも書かれていましたが、ウィルスというのは正確には生物の定義に当らず、
自身で増殖できません。他の生物の細胞に住み着いて、そこからコピーを量産
するのです。
ウィルスの特徴と呪いをシンクロニシティさせるといった秀逸作品だと思います。
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野沢尚 『リミット』

2009-03-02 | 日本人作家 な
福井晴敏のテビュー作『川の深さは』を読み、この作品が江戸川乱歩賞
を獲れなかった(翌年、続編『Twelve Y.O.』で受賞)というので、この
作品を凌ぐ作品があったのかと思っていたら、同年の受賞作品は、野沢尚
の『破線のマリス』で、こちらを読んだら、ああなるほど、こりゃ面白い
わ、と納得したものです。

『破線のマリス』以外の作品は、別に避けてたわけでもなく、ただ単に読ん
でなかっただけなんですが、この『リミット』を読んで、ミステリー作品と
しての主題選びの着眼点の見事さといい、登場人物、特に犯罪を犯してしま
う側の人物背景や心理描写の卓越さといい、とにかく、読んでる最中の「ドキ
ドキ感」の持続、登場人物への共感が楽しめます。

物語は、関東一円で幼い子どもの誘拐が多発、そしてエリート商社マンの一人
娘が誘拐され、その犯人との交渉役に、夫に先立たれて男の子を育てつつ警視
庁捜査一課刑事という過酷任務に明け暮れる女性刑事が担当することに。
しかし、犯人側には捜査状況が筒抜けで、ついに、女性刑事のひとり息子も誘
拐されて、犯人は身代金を女性刑事に運ばせることを要求。しかし女性刑事は
自分の息子までも誘拐されている事実を同僚には告げず、ひとりで身代金を運
ぶことになり、途中で警察の追跡車を撒いて、単身、神奈川県の山中へと向か
い、身代金の引渡しをしようとするも、子どもは帰ってこず、さらに身代金は
奪われて、失敗に終わる。

この一連のスタンドプレーにより、女性刑事が犯人一味であるという報道が流
れてしまい、隠密行動を余儀なくされた女性刑事は、今回の商社マンの娘が誘
拐される前にも相次いで幼児誘拐があったことに着目し、そのうちの一家族と
接触する。犯人との身代金の引渡し時に犯人ともみ合いになった際に、犯人の
後ろポケットにあったキーホルダーを掴み取っていて、それが、某テーマパー
クのトイレで誘拐された子どもが持っていたキーホルダーであると父親は確信
する。ここで、この一連の幼児誘拐は同一人物であるという方向で調べていこ
うと、女性刑事は、子どもを誘拐された父親と共に犯人をあばいていく・・・

この作品テーマは臓器売買で、悪徳医師、外国人ブローカー、誘拐実行役が
絡んでくるのですが、その目的はいずれも金。
しかも、この話に飛びついて、誘拐の実行役リーダー格となるのは、女性。
子どもを連れ去り、外国へ運び、パーツに分解して売りさばくという闇商売に
加担できるというのは、母性本能を持ち合わせない女性の所業。
そもそも女性刑事に身代金を運ばせることにしたのは、警察に告げれば容赦し
ないということを示せば、我が子可愛さで単身運んでくれるとふんだ犯人の、
「母性」の悪用であったのです。

結局、犯人に情報を提供していたというのは、なあんだやっぱり、という人物
だったのですが、それにしても、金と幼い子どもの命を天秤にかけた時に、金
と即答できる人間の強欲さに、薄ら寒くなりました。
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藤本ひとみ 『ブルボンの封印』

2009-03-01 | 日本人作家 は
17世紀のフランスでさまざまな憶測を呼んだ、鉄仮面伝説の独自解釈版。
ある位の高い貴族の息子ではないか、中でも、正当な王位継承者ルイ14世
が実は鉄仮面の中身で、表にいたのは替え玉なのではないか、という噂すら
あったようです。

いわば、日本版の影武者といった存在ですが、そこには常に、罪のない子ども
が時の政治や政局、権力や陰謀に利用され犠牲となるのですが、この作品でも
ある高名な貴族の息子という子どもが、その出自を知らぬままに預けられて、
自分の親の存在を知りたいと思い行動しますが、さまざまな障害に遭い、そして
判明したと思いきや、今度はブルボン王朝を支える政治の実権を裏で握る者たち
に翻弄されてゆきます。

こんな歴史時代小説な内容の中にあって、うまいこと恋愛も織り込んであり、
またもうひとり出自のさだかでない女の子も政治に翻弄される運命下にあるの
ですが、この女の子の生きる力強さ、独立力は、ブロンテの『ジェーン・エア』
を思い出させます。

フランス王室の侍女であった女性のもとに預けられた「さる高名貴族の息子」
の出自とは、親はいったい誰なのか、そしてもうひとり、出自のさだかでない
女の子の肩にある焼印はなにを意味するものなのか。

この物語の重要人物で、ルイ14世とその側近2人が出てくるのですが、自分
に自身の持てないルイに、気心許してときには諌めときには励まし、この3人
が、先述した「さる高名貴族の息子」と女の子と関係してきるのですが、彼ら
それぞれのキャラクターの魅力は、世界史が好きでない人には苦痛でしかない
17世紀のフランス王室スキャンダルや、女の子を中心にめぐる恋愛ドラマに
ほどよく色添えされます。
そして、憎々しいキャラクターも個性的で、物語の幅に拡がりを持たせています。

情報量が多く、場面展開もめまぐるしく変わりますが、それでも不自然ではない
ように補足説明もあり、伏線もしっかりとあり、こういった情報量ギッシリな本
にありがちな、前のページに戻って読み直すといった面倒はありませんでした。
それだけストーリーも登場人物も魅力的に描けているということですね。

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