晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

大石 直紀 『パレスチナから来た少女』

2009-03-29 | 日本人作家 あ
本作は、広い意味での推理小説というかミステリーで、まずタイトル
から、中東の混乱した中での悲劇的な一幕か、と想像するに難くない
のですが、ここに現実世界ではあまり絡んでいなさそうな日本と中東
の問題を上手に組み合わせていくのです。

ある日本人ジャーナリストが、難民キャンプ取材中に、ひとりの少女
を救い、日本に連れて帰り養女として育て、彼女は新しい家族のもと
心を開いていくのですが、難民キャンプでの忌まわしい記憶の断片や、
アイデンティティに悩み、義父であるジャーナリストに、自分が連れ
てこられた時の様子を聞き、じっさいにイスラエルに行く決心をします。

一方、イスラエル国内では、パレスチナの暫定自治をめぐって暗殺や
テロなどが横行。ある女性コマンド(兵士)が、日本へ行けと命令され
密入国します。日本では、イスラエル政府とパレスチナ側の秘密会談
が行われようとして、本国からの命令を待つ女性コマンドは、日本人
の男といっしょに住み、潜伏します。

イスラエル・パレスチナとその周辺のヨルダンやレバノン、エジプト
など中東での諸問題は、もはやこじれにこじれまくって、そのこじれ
の中で難民キャンプで助けられた少女と女性コマンドは翻弄されてい
くのです。
もう、これを読み終わったら、どっちが良くてどっちが悪いだの、国
や民族としての優劣だの、そこに生まれ住んでいる人たちにはほんと
うに申し訳ないですが、「どっちでもいいよ、とにかく殺し合いなん
かしてる時点でどちらも悪い」としか思えません。

文中では、中東戦争やパレスチナ問題の発端として、「シオニズム」
のかんたんな説明がありましたが、シオニズムとは、世界中に住み、
各地で迫害を受けていたユダヤ人が、ユダヤ人国家を建設しようと
する運動で、エルサレム市内にあるシオンの丘があって「シオンの地
に戻る」という意味です。
とうぜん、もともとそこに住んでいたアラブ系のパレスチナ人は、
追い出される格好となり、周りのアラブ諸国も黙って見ていること
もなく、中東戦争となるのですが、それ以前の、そもそもなぜユダヤ
人たちは祖国を負われて各地に飛び散ったのか、であるとか、かの
悪名高い「フサイン・マクマホン協定」のことであるとか、全部を
詳しく説明すると長くなってしまいますが、せめて断片的にでも、
そこらへんの説明もあればさらに物語に深く入り込めたのかなあ
と感じました。
コメント
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