晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『谷中・首ふり坂』

2021-12-29 | 日本人作家 あ

今年も終わりですね。世間ではいろいろありました。個人的にはその(いろいろあった)という影響も若干ではありますが受けつつ、それでも無事乗り切ることが出来ました。こうやって一年を振り返ることが出来るのも、なんだかありがたいですね。

今年の投稿はこれで最後です。今年読んだのが54冊。「目指せ年間100冊!」なんて意気込んでいた時もありましたが、仕事しながら通信制大学の勉強して、その合い間に読書という感じですので、まあそう考えたら月平均4~5冊はよく読んだほうですかね。自分で自分を褒めたい。

唐突に有森さんが登場したところで。

いつだったか忘れましたが(そこまで遠い昔ではない)、この表題作がテレビでドラマ化された記憶が。そもそもNHKか民放か、地上波かBSかすら覚えてないのですからひどい話です。で、その番宣CMを見たときに「あれ、このタイトル知らない、ってことはまだ読んでない」ということで、後日調べたら短編ということがわかって、ようやく読んだのです。

あとがき解説によると、この短編集に収められた作品の書かれた時期は、直木賞を受賞されてから「鬼平」の連載がはじまる前後、昭和35~45年ごろだそうです。

相州(現在の神奈川県)小田原藩の貧農に生まれ、独学で仕法家となった二宮尊徳、通称(金次郎)。「仕法」とは現代でいう経営コンサルタントのようなもので、節約、工夫、努力で親の手放した土地を買い戻してのちに大地主になった実績を買われ、藩から、野州(現在の栃木県)桜町領の復興を命じられます。さまざまな妨害工作がありつつも復興の兆しが見え始めた矢先、金次郎は行方不明に。金次郎、川崎大師にいるではありませんか。そこで、自殺未遂の女を助け、身の上話を聞いて一夜を共にしたのですが、翌朝女の姿はなく、金を持ち逃げされ・・・という「尊徳雲がくれ」。

江戸中期、信州松代の真田家藩主、信安の愛妾が児島右平次という若侍に襲撃されるという事件が起きます。じつは右平次、本来の目的は家老の原八郎五郎を襲撃するはずだったのですが、邪魔が入ったので、やむなく殿の愛妾を斬って逃げます。右平次と同じ道場に通う友人の森万之助は、上意討ちに入れさせられます。ですがどうにも気が重い万之助。なぜなら・・・という「恥」。

こちらも「真田もの」。藩士の次男、三男は「へそ」と呼ばれています。あってもなくてもよいもの、という意味で、勘定方の三十石二人扶持、平野弥兵衛の次男、小五郎のあだ名は(へそ五郎)。そんな小五郎、同じ下級藩士の養子になることに。ところが小五郎の義父は、藩の財政が苦しいということで倹約のために御城でのお昼は食べません。小五郎もそれに倣い昼食抜き。ところがある日、小五郎の上役がそれを揶揄います。家に帰り、小五郎は義父に「離縁して浪人になって上役を斬って脱藩します」といって・・・という「へそ五郎騒動」。

播州、赤穂藩の浅野家の京都屋敷につとめる家臣の息子、服部小平次は、京の生まれで、小さい頃から町家の子らと遊んだせいか(武士らしさ)がなく、ある日のこと、遊郭で荒くれものの男たちに絡まれていたところを通りすがりの編笠を被った武士に助けられます。小平次が礼を言うと、相手は「なんだ、服部の小平次ではないか」といいます。編笠を取ると小平次が「あっ、ご、御家老さま・・・」と。相手は浅野家の国家老、大石内蔵助。これをきっかけに内蔵助が京にきたときの案内と遊びに付き合うことに。ところが小平次、父と兄を相次いで亡くし、服部家の当主になります。すると内蔵助から江戸藩邸行きを命じられ・・・という「舞台うらの男」。

鬼塚重兵衛は、敵討ちの森山平太郎が「来るなら来いや、返り討ちにしてくれる」と自分を見つけてくれるのを心待ちにしています・ある夜。宿に泊まっていた重兵衛の部屋にコソ泥が。これに気付いた十兵衛はコソ泥を斬りつけますが、片腕を切り落としてコソ泥は逃げおおせ・・・という「かたきうち」。

盗賊、夜兎の角右衛門は「一、盗まれて難儀するものの家へは手を出さない。一、(おつとめ)をするときに人を殺傷せぬ。一、女を手ごめにせぬ。」という(盗賊の三か条を守る(真の盗賊)。大掛かりな(おつとめ)の準備にかかっていたある日、商家の手代ふうの男が顔色を変えて歩いているのを見かけます。すると後ろから「おうい、おうい・・・」と女乞食がやって来て、さっきこれを落としたろう、といって服紗を渡します。中には落とした金が。角右衛門は女乞食の「右腕がない」ことに気付き・・・という「看板」。

三浦源太郎は、友人の辰之助に岡場所に誘われます。源太郎は下級武士の次男坊ですが、五百石の旗本家の養子に。ところがこの嫁というのが、(夜のほう)が尋常じゃないほど積極的で過激で、源太郎は日に日に衰えていきます。そこで辰之助は「たまには息抜きでも・・・」というわけで、行った先は、上野、不忍池を東にまわり、谷中へ。そこの寺の前にある茶店に・・・という表題作「谷中・首ふり坂」。

金貸しの十右衛門の息子、小十郎は、岡場所の遊女に夢中になり、通い詰めたいところですが、父の仕事の手伝い(借金の回収)の一部をくすねる程度では金が続きません。いっそのことあんな親父、殺してやるか・・・という「夢中男」。

幕府の表御番医師、吉野道順は、ある手紙を読んで顔色を変えます。「ちょっと出かけてくる」といって会いに行ったのは、岡場所の遊女だったお千代。じつは道順、もとは町医者で、ひとり暮らしをしていたのですが下男に死なれてしまって困った道順はひいきだった遊女のお千代を身請けしますが、その直後、吉野家から養子の話が・・・という「毒」。

棒手振の魚屋、弥吉は、病気で寝込んでいます。近所付き合いもせず、親しい人もいない弥吉は水が飲みたくなってふらふらと起きて、ふと枕元を見ると、そこには小判が三枚。夢ではありません。その金でどうにか命拾いをして体力も回復した弥吉は、得意先の家に。そこでは楽しみにしていることが。飼い猫の(黒助)と遊ぶことだったのですが、しばらく行かないうちに猫がいなくなっていて・・・という「伊勢家の黒助」。

最後の短編は、東京の新宿を過去から現代にわたって説明した「内藤新宿」。

「看板」では、(ここ最近、江戸では(おつとめ)がやりにくくなっている、というのも新任の火付盗賊改方の長官、「鬼の平蔵」こと長谷川平蔵が・・・)と、鬼平さんがガッツリ登場します。ちなみに、夜兎の角右衛門も「鬼平犯科帳」に出てきますね。ほかにも、のちの池波さんの作品に出てくるあんな人やこんな人がいっぱい。

皆様、よいお年を。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする