晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

池波正太郎 『あほうがらす』

2021-12-01 | 日本人作家 あ

もう12月ですね。今年も色々ありました。といっても世の中の激動・混乱ぶりとは距離をおいて個人的には「現状維持」でして、まあこうやって呑気に本読んでブログ更新なんてできるのも当たり前じゃないんだなと意識するようにしています。

と、書いていて今年もあと残り30日という段になっていきなり大波乱なんてことになりませんように。

 

さて、池波さんです。短編集です。

 

沢口久馬という16歳の浪人の息子が、播州・赤穂の浅野家領主、浅野内匠頭長矩の小姓として奉公することになります。屋敷に上がってその日の深夜、けたたましく鳴り響く太鼓の音にびっくりして飛び起きます。すると「火事でござる!」「台所より出火!」という大声と足音が。急いで着替えて駆けつけますが、火事など起きてません。寝室に戻ると、同僚の小姓は布団に入ったまま。すると「久馬、火消しの演習は終わったか?」というではありませんか。そんなこともありましたが、のちに(殿さま)が江戸城内で刃傷事件を起こし・・・という「火消しの殿」。

信州・松代藩、真田家の家来で勘定方の天野源助は、(ある出来事)がきっかけで他の藩士から嘲笑される存在に。取り柄といえば経理の才能。妻に先立たれ、さらに父親が同じ藩士に殺されたので仇討に出なければなりません。しかし父を殺した相手は剣の達人。もう生きているのが嫌になった源助は(よかった、これで死ねる)と、むしろ殺される覚悟で仇討ちの旅へ・・・という「運の矢」。

戦国時代、長篠城は武田軍の猛攻撃を受けています。もともとこの長篠城は武田家の領地であったのですが、武田信玄の死後、息子の勝頼が当主になるや、徳川家康がたちまち長篠城を攻め落としてしまいます。勝頼の怒りは徳川家康よりも、父の死後にさっさと裏切って、家康から長篠城の城主を任されていた奥平貞昌に向けられています。戦いは籠城戦となり、貞昌の部下からは「やっぱり徳川じゃなくて武田家についていたほうが・・・」と不平不満の声が。城主は徳川に書状を出すことに。誰か届けてくれるものはおらぬか、と聞くと、鳥居強右衛門というものが進み出て・・・という「鳥居強右衛門」。

松平下総守の家臣、荒木又右衛門の妻(みね)の下の弟が、国許で同僚に惨殺されます。ところが、敵討ちは主、父、兄の場合は認められますが、弟や子は認められません。ましてや姉や母、娘など女性は論外。さらに厄介なことに、又右衛門の同僚で親友で槍の名手の河合甚左衛門は義弟を殺した敵討ちの相手の親戚。やがていろいろあって、みねの上の弟が敵討ちに出ることになり、その助っ人に又右衛門がつき、相手方の助っ人には甚左衛門が・・・という「荒木又右衛門」。

信州・上田、松平伊賀守の家来の息子、市之助は幼い頃から学問に秀でて、15歳になり、若君の勉強相手に選ばれます。ところが、原因不明の奇病で髪が抜け落ちてしまいます。ある日のこと、若君から「相撲を取ろう」と誘われた市之助でしたが、なりませぬ、勉学が先ですとたしなめたところ、若君が禿げ頭をバカにして、あろうことが市之助は若君をぶん殴ってしまい・・・という「つるつる」。

小さな飯屋の主、宗六の影の仕事は(あほうがらす)という、店を持たず、単独で女を客に取り持つ、いわばフリーランスの売春斡旋。宗六を(この道)に連れ込んだ与吉は「まさか、あの和泉屋万右衛門が、お前の兄さんだとはねえ」と驚いています。もともと印判師の家に生まれた兄弟でしたが、兄は和泉屋に養子に入り、弟は悪の道に走り、なんだかんだで与吉に「おいらの片棒をかついでみねえか」と誘われます。そんな与吉が持っていた(妾宅)に、万右衛門が通っているところを宗六が顔を出し・・・という表題作の「あほうがらす」。

京、四条の劇場や小屋が立ち並ぶ一角に(蔭間茶屋)があります。蔭間とはいわゆる(男娼)で、色子などと呼ばれています。色子の幸之助は少年の武士を相手にしています。その少年武士が宿に帰ると、老夫婦は「主税さまは、御満足のようじゃ」「色子の情は遊女よりも濃いよってな」「それにしても、大石内蔵助さまというお方は、大事な跡つぎに色子あそびならわせて・・・」と語り合っています。そう、少年武士とは赤穂浪士四十七士の一人で大石内蔵助の長男、大石主税・・・という「元禄色子」。

池田出雲守の小姓、鷲見左門が長屋横を歩いていると、徒士組の佐藤勘助がすれ違いざまに「尻奉公が・・・」と言います。この言葉を許せない左門は「待たれ」と言いますが、か細い左門と剣の腕は家中でも名高い勘助とは力の差は歴然。悔し泣きをしていた左門に「どうした?」と声をかけたのは、同じく小姓の千本九郎。九郎は左門に「自分が助太刀をするから勘助を討て」といい、その夜、左門が勘助を馬小屋に誘い、九郎が勘助を斬って、左門は邸外に逃げます。この一件は殿の知ることになり、喧嘩両成敗で鷲見家と佐藤家は取り潰されます。左門は九郎の紹介で京都の弓師の家に匿われていますが、江戸では左門の評判が上がり・・・という「男色武士道」。

浅草裏の茶屋「玉の尾」に駕籠から降りた男女が入ります。男は侍で、女は町家の女房ふう。その様子を中から見ていた男が「野郎・・・飯沼新右衛門ではねえか」とつぶやきます。男の名は仁三郎、かつて飯沼家に若党侍として奉公にあがっていましたが、わけあって追い出されます。帰ろうとした飯沼は、茶屋に煙草入れを忘れたと引き返すと、そこには仁三郎が・・・という「夢の茶屋」。

中小姓の横山馬之助は、仕事ができず、主人の使い走りをしています。ある日のこと、主人の使いから戻ってきた馬之助はいきなり「この家の主人の会わせろ」と言い放ち、いきなり座り込みます。これを聞いた主人は「馬之助の気が狂ったか」とおもしろそう。さっそく馬之助の前に顔を出し「これはこれはようこそ」といって座ると馬之助が「私は、天日と申す狐にござりまする」と・・・という「狐と馬」。

江戸の片隅で医者のをしている水谷宋仙。じつは宋仙は敵持ち。もともと丹波・篠山、青山家につかえる医者でしたが、囲碁仲間と口論になり殺してしまい逃亡、あれから10年、宋仙の家の前に女が佇んでいます。すると女が「先生、お久しぶりでございます」というではありませんか。この女、同じく篠山藩の足軽の娘で宋仙も知っています。半年ほど前に先生を見かけた、といい、女はある(お願い)をするのですが・・・という「稲妻」。

 

「あほうがらす」はたしか「鬼平犯科帳」に出てきましたね。「つるつる」は、のちにだいぶストーリーが変わって「男振(おとこぶり)」という長編になってますね。もしかしたらこちらが知らないだけで他の作品ものちに何かに出たかもしれません。

特に決まったテーマの短編集、というわけではありませんが、しいて探すならば「みんなおもしろい人生」ですね。

コメント
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