晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

北村薫 『鷺と雪』

2012-06-19 | 日本人作家 か
何年前でしたか、北村薫が直木賞受賞というニュースを知って、ええ、
北村薫ってけっこうベテランだよね、なんて思ったものでしたが(天童
荒太のときも思いましたが)、それにしても、いつか読もう読もうと思い
つつも、こんなに経ってしまいました。

短編が3作で、時代は昭和初期、けっこうなお家柄のお嬢様、英子が
ちょっとした”謎解き”をする、といった話で、英子がホームズとすれ
ば、ワトソン役は英子の専属運転手の別宮みつ子という、当時とすれば
かなり珍しい女性運転手。
栄子は親しみをこめて「ベッキーさん」と呼びます。いや、ワトソンは
助手ですが、世間知らずの若い英子にとってベッキーさんは「頼れる大人」
といった存在ですね。

「不在の父」は、大学で文学の勉強をしていますが将来は小説家になりたい
のかどうかよく分からない兄と英子が本屋巡りをして喫茶店で一服してる
ところに、別の席にいた男が声をかけてくるところからはじまります。

男は前に軽井沢で会ってひと言ふた言会話した程度ですが兄妹を覚えて
いました。男は農林省の鳥獣調査をしていて、この度「日本野鳥の会」
というのが発足する、そして、ブッポウソウという珍しい鳥の鳴き声を
ラジオで生中継するという企画があると教えてくれます。

そこで兄は、偶然の出会いということで、とある集まりで滝沢という大学
で植物の研究をしている子爵の話をはじめます。
兄が浅草に行ったときに、その子爵様によく似たルンペンを見た、という
のです。

英子の通う女学校に滝沢家と親戚である道子がいて、彼女に話を聞いてみると、
小父様(滝沢子爵)は、息子に爵位を譲って、引っ越したらしいのです。
病気療養なら見舞いに行きたいということで道子は英子と別宮の運転する車で
小石川にある家に行きますが、お手伝いさんが出てきて不在を告げます。

そこで探りを入れてみてわかったことは、滝沢家は「お家の事情で」兄が
伯爵、弟が子爵になっていて、弟は爵位などいらない、普通の暮らしが
したい、と普段からぼやいていたそうで、ある日、忽然と”消えた”という
のです・・・
英子の兄の見た浅草のルンペンというのは、ほんとうに子爵様なのか。

その他、受験を控えた息子が夜中に上野で補導され、なぜそんな時間に上野
なんぞに行ったのか訪ねても答えてくれない・・・という「獅子と地下鉄」、
能面の展覧会で突然卒倒した英子の同級生、彼女の話を聞くと、その能面は
自分の許嫁に瓜二つで、展覧会で倒れたちょっと前に銀座で撮った写真に、
日本にいるはずのない許嫁が写っていた・・・という表題作「鷺と雪」。

この2作とも英子が別宮のアドバイスをたよりに解決します。

「鷺」というのは、能舞台のとある役。そして「雪」は、昭和12年、雪の
日に起きた大事件。
先述した日本野鳥の会の話もそうですが、能舞台の役だったり、まったく関連性
のなさそうな話題がのちに「そこにつながるのか!」と、そのプロットの面白さに
驚き、また驚きでページをめくる手が止まりませんでした。

しかし、それにしても北村薫の文章の巧さに感嘆しっぱなし。特に、季節が
秋になったという描写「明け方、新鮮な空気を入れようと窓を開くと、思い
がけないほどひんやりとした、見えない手に頬を撫でられ、びっくりする」
もう見事としかいいようがありません。
コメント
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