晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

篠田節子 『弥勒(みろく)』

2011-07-16 | 日本人作家 さ
篠田節子の小説は、着眼点が面白いなあといつも感心する
のですが、この『弥勒』という作品も、題名だけだとかなり
重みのある、仏教をテーマにした?と想像しますが、まあ
そのとおり重いテーマで、ちなみにハードカバーも550ページ
とかなりの重量がありますけど。

地方の美術館を辞めて、東京の新聞社の事業部に転職した永岡
は、ある新聞社主催のパーティーで、妻の髪についていたヘア
アクセサリーに目を奪われます。

それは間違いなく、ヒマラヤの奥地にある小国パスキムの独自
に発展した仏教美術だったのです。でも、パスキムは美術品の
国外持ち出しは禁じられていて、日本に、それも妻が所有して
いるとは信じられなく、妻に問いただすと、あるコレクター
のお店で買ったといいます。

そのコレクターから出所を聞くと、前に永岡がパスキムを訪れた
時に、案内をしてくれてた男が帰国していて、その男の話による
と、パスキムで大政変が起こり、命からがら脱出したというのです。

自分の勤める新聞社にもパスキムのニュースは入ってなく、海外の
通信社のニュースもかなり前の情報しかなく、永岡はパスキムの美
しい仏教美術がもしや破壊されていないか心配に。そして百貨店と
共催で、日本でパスキム美術展を企画するも中止に。

ある仕事でニューヨークに訪れていた永岡は、会社から、インドに
出張していた社員が入院してしまったので、そのままインドへ行って
くれと連絡を受け、インドで代理として業務を済ませ、その穴埋め
として休暇をくれと告げます。同僚にはインド美術を見て回りたい
と言うのですが、永岡は、パスキムへ行くと決めていたのです・・・

しかし、飛行機はおろか、道路も封鎖されていると知り、絶望的に
なる永岡でしたが、ある地元のガイドから聞いた話では、今は使われ
ていない山道ルートがあり、そこからならパスキムに入れるという
のです。そこで、そのルートを知る老人に道を教えてもらうのです
が、老人はパスキムの寺にどうしても米を寄進したく、永岡に米を
持っていってもらうよう頼みます。

そんなこんなでパスキム入りした永岡ですが、国境近くの村に着く
と、そこはもぬけのからで人は誰もおらず・・・

はたしてパスキムでは何が起きたのか、神秘的な仏教美術は無事
なのか・・・

ここから永岡はとんでもない方向へと行ってしまうのですが、生
きるとは、国家とは、宗教とは、人間のつながりとは、愛とは、
さまざまな葛藤、自己矛盾などに苦しみます。

それにしても、逃げようと思えば逃げられた永岡は、もはや何かに
取り憑かれていたとしか思えない状態で、よく、お宝の鑑定番組で、
それこそ家族を泣かしてまで骨董の蒐集をしている人を見ると、正直
理解できないのですが、人を狂わす“何か”があるんでしょうね。


コメント
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