晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

朝倉卓弥 『君の名残を』

2010-01-16 | 日本人作家 あ
宝島社の主催する「このミステリーがすごい!」で第1回大賞を
受賞した朝倉卓弥「四日間の奇跡」は、完成度の高さとアイデア
の素晴らしさに驚きとともに感動したものです。

『君の名残を』は、「四日間の奇跡」と共通する点を探すとすれば、
ファンタジーな部分でしょうか。
現代の高校生が平安末期にタイムスリップし、歴史上の人物になり
人生を送るという物語なのですが、話が進んでゆくうちにタイムスリ
ップにどうにかして必然性を持たせることが出てこなければならなく
なり(必然性がなければ、完成度の低いファンタジーで終わってしま
う)、なぜ平安時代に送りこまれなければならなかったのか、物語中
ではその説明もちゃんとあり、一応は納得できる答えはあるのですが、
それでも核心は、あえて曖昧にしていると思いました。

高校生で幼馴染みの剣道部員、白石友恵と原口武蔵は、大雨の中、
下校途中に突然姿を消してしまいます。友恵の親友の弟の志郎も
この二人とともに姿を消します。
友恵は目が覚めると、そこには昔の衣装を着た男たちがいて、助けて
もらいます。
今はいつと聞いても、平成とは答えず、さらに、場所を尋ねると、
「木曽」という返事が。
友恵は、木曽にある武士の屋敷に居候として住むことに。やがて、
京の都では平清盛という男が貴族の高位に就くという噂が届き、
歴史が不得手な友恵にも、ようやくこの時代が分かるのです。
時は平安末期、友恵を助けた男、駒王は元服し、源義仲を名乗り、
友恵に結婚を申し込みます。ここに友恵は巴御前として生きる
ことに・・・

一方、武蔵は、親を失った孤児たちとともに寺で生活をします。
そこに、平家の侍が来て、寺の和尚と子供たちを惨殺。命からがら
逃げることになった武蔵は、生き残った静という名の女の子と
旅に出ますが、途中別れることに。
武蔵は、和尚と子供たちを殺した男を探し復讐するために京都の
五条の橋のたもとで待ち続けます。
ときに武蔵は狼藉と間違われ、それでも剣道で培った技術はこの
時代の剣術よりもレベルが高く、簡単に勝ちます。
やがて、五条の橋には剣の達人がいて、侍が襲われるという噂が
京の都に知れ渡り、ある男が武蔵と決闘を申し込みます。
この男こそ牛若丸、のちの源九郎義経。牛若は、はじめて見た
剣術に魅了され、教えを請います。
そしてふたりは主従の関係となり・・・

友恵は巴として義仲とともに兵を挙げ、武蔵は武蔵坊として奥州
平泉から義経とともに打倒平家に向かいます。
そして、もうひとりこの時代にタイムスリップした志郎は、北条
家の四男(北条政子の弟、頼朝の義弟)としてこの時代に。

物語は、打倒平家で挙兵した義仲の軍勢が京に進攻、義仲は朝敵
となり頼朝の軍勢に負け、そして平家が壇ノ浦で滅亡、頼朝が鎌倉
で政治の基礎体制を築きはじめ、義経は兄頼朝の怒りを買い、奥州
までの逃避行を描いています。
巴と義仲、義経と武蔵、そして北条と頼朝、京の清盛の周辺と、
どれもバランスよく書かれていて、だからこんなに長編になってしま
ったのですね。

全体的に、手塚治虫先生の「火の鳥(乱世編)(鳳凰編)」に強い
影響を受けてるなと思い、本の後ろに、「死生感は手塚治虫氏に影響
を受けた」と書いてあり、なるほどと。

随所にこの時代に起こった出来事や時代風俗を説明してあり、それが
邪魔せずにスムーズに差し込まれています。親切。
コメント
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