晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

小池真理子 『恋』

2008-11-15 | 日本人作家 か
まず、このタイトルで、うら若き純情乙女が年上の殿方に恋をして云々、
と想像されて買ったら大間違い。
もっとも、単行本の表表紙には女性の裸が薄ぼんやりと描かれているの
で、そんな勘違いはないのでしょうけど。

掻い摘んであらすじをいうと、大学闘争華やかかりし頃の女子学生が
ある大学助教授の下で翻訳のアルバイトをします。
女子学生は革命思想に燃えてはいなかったのですが、ブルジョワジー
的存在には嫌悪を抱くのです。そしてその大学助教授とその妻という
のがプチブルジョワジーみたいな生活。

はじめこそ嫌悪で見ていたものの、だんだん夫婦とその暮らしに魅了
されてゆく。3人の関係は刹那的な、頽廃的な、エログロな、そんな
ただならぬものに。
そこで、助教授の妻がある若者に恋をします。3人の関係を崩壊に導
きそうな予感。
そして、なんだかんだあって、女子学生は猟銃で若者を射殺。
折しもその日は浅間山荘事件の日だったので、紙面で大きく扱われる
ことは無かったのです。

そんな事件を、あるライターがひょんなことから知り、服役して出所
してからは身を隠すように生活して、やがて病魔に犯され入院してい
た、その元女子学生に全容を聞くのです。

まず、これを「ミステリー」というジャンル分けしてよいものなのか。
歪みまくりの愛憎の果ての殺人。ある事件の起因を説明する、という点
では立派なミステリーなのですが、なんか違うような気がするのです。

文中に、カミュの「異邦人」で、主人公が殺人をする、しかもそれが、
これといって動機の無い殺人で、よもや自分がそうなろうとは、という
シーンがあるのですが、「異邦人」はミステリーではありません。
ちなみに、「異邦人」の主人公の殺人の動機は(太陽のせいだ)です。

推理を楽しむといった感じは読んでいてありませんでした。
素直な感想は「あ~あ、殺しちゃった」。
やるせなさが残った…
でも、かといって、サスペンスのようなドキドキ感があったか、と
聞かれると、無いんですよね。

極めて非日常な、倒錯した生活。
そんな生活を打破するには、毒には毒、さらに倒錯した思想をもって終焉。
それが殺人だったというだけで、これはミステリーですよ、とするのは尚早
なのではないか、と。

売る側も買う側もジャンル分けされてるほうが何かと都合が良いのですが、
たまーに、それが邪魔というか、先入観持っちゃって物語に気持ちを投入
しにくくなるんですよね。

コメント
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