Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

原発をめぐる「沈黙の螺旋」

2013-02-01 15:23:20 | Weblog
昨日の JIMS 部会では,山本仁志(立正大学),小川祐樹(産総研)両先生から「Twitter における世論形成」というご発表をいただいた。取り上げられたのは,東日本大震災後に大きな政治的争点となった,原子力発電の推進-廃止に関する Twitter 上の世論の動きである。

最初に,山本さんからどのような Twitter ユーザが原発について活発に発言したかの分析結果が報告された。この研究では,ウェブ調査によって過去に原発に関してツイートしたりそれを読んだりした人々の特性を把握する一方,彼らの実際のツイートを収集・分析している。

それによれば,フォロワーやフォロー先の数が多いほうが発言が活発で,他方,同じ意見のアカウントをフォローする傾向が強いほど不活発になる。また,政治・経済問題へのオピニオンリーダー性のうち,専門知識があると自認してるほど発言が活発になることも示された。

次いで小川さんが有名な「沈黙の螺旋」モデルの検証結果について報告。まず,自分の意見が Twitter 上で多数派だと認知するほど発言が活発であることが認められた。したがって,初期の時点で自分が多数派だと感じると,ますますその線に沿った意見が増えていくことになる。

ただし,Twitter の場合,フォローする先を自分と同意見の人々で固めてしまうと,全体としては自分を少数派と認知している場合でも,活発に発言する可能性がある。それについても仮説どおりの結果となり,ソーシャルメディア特有の「沈黙の螺旋」が働いている様子が窺えた。

この研究は,宮田加久子・池田謙一両先生と共同で行われたことから,社会心理学の知見が仮説構築やユーザの特性測定に反映されている。分析はまだ継続中ということで,こうした分野横断型のコラボレーションからさらに何が生まれてくるか,今後が楽しみである。

個人的には,今回の研究対象である一般の Twitter ユーザとは別の,膨大な数のフォロワーを持つこの問題の専門家・有名人たちのツイートの影響がどうだったが気になる。原発や放射能の問題を巡って,そうしたインフルエンサーたちが Twitter 上に何人も現れたと記憶する。

おそらくそれが,原発問題が通常の「政治・経済」問題以上に複雑である所以ではないだろうか。とすると,オピニオン・リーダー性を「政治・経済」に限定して測定している点がどうか,と思えてくる。ちなみに名著『沈黙の螺旋』は,近々翻訳が出版(再刊)されるとのこと。

The Spiral of Silence: Public Opinion - Our Social Skin
Elisabeth Noelle-Neumann
Univ of Chicago Pr (Tx)