Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

MOS 経営

2013-02-20 08:30:41 | Weblog
月曜には丸の内ブランドフォーラムで,三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光氏の講演を拝聴。経済財政諮問会議のメンバーでもあり,いま最も注目を浴びている経営者の一人である。しかも,社会性の高い独自の経営手法を提案されている理論家でもある。

その手法とは,以下の著書にも書かれているが,

MOE: Management of Economics *
MOT: Management of Technology
MOS: Management of Sustainability

に時間軸を加えた4次元空間で経営を考えることだ(*著書では MBA 軸とされている)。これらのベクトルとしての KAITEKI 価値を高めることが目標とされる。特にユニークな軸は MOS だが,従来のCSRのように「足し算する」のでなく,新たな次元と位置づけられている。

地球と共存する経営―MOS改革宣言
小林喜光
日本経済新聞出版社

MOE は四半期,MOT は数十年,MOS は世紀の単位で評価されるという。そうなると MOS はお題目に終わりがちだが,三菱ケミカルホールディングスではこれらを指標化して,部門や個人の業績評価に反映させている。デミングではないが,計測なくして改善なし,である。

MOS は Sustainability(環境・資源),Health(健康),Comfort(快適)の3分野からなる。これらの目標に沿って,グループ企業に横串を入れることが課題である。小林社長は,画期的な科学的発見は出にくい状況にあり,シュンペーター的な新結合こそ必要だという。

小林氏は元々化学の研究者であり,イスラエルやイタリアに留学されたのち,当時の三菱化成に入社された。中央研究所で研究に従事されたのち,研究開発部門のトップを経ていまはグループ全体を統括する立場にある。バリバリの理系人間であり,その考え方は論理的である。

しかし,講演を拝聴した印象では,情熱的な方でもある。理性と情熱,長期と短期,夢と現実,それらを包含した上で実現に向かって企業を率いるには,非合理的な力が欠かせない。また,横串が刺せる人材には,いい意味での「いい加減」さが必要,という指摘も奥深い。

講演を聴きながら,最近,理工系大学院でリーダーシップや「教養」の涵養が議論されていることを思い出した。未来に向けたビジョンを持ち,タコツボに陥ることなく複数の技術を統合・融合して開発を行うプロジェクトリーダー・・・大学教育でどこまで養成できるのか?

そうした教育でも,いい意味での「いい加減」さが必要になるだろう。ところで,小林社長の言葉を借りると,モノづくりとコトづくりの中間ぐらいで日本企業は頑張るしかない。エンジニアだけでなく,技術に暗いマーケターにも貢献の余地はないのか?それは何だろう?