Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

価値づくりと共創

2013-02-18 14:41:11 | Weblog
延岡健太郎著『価値づくり経営の論理』を読んだ。2年前に出版された本だが,そこに示された問題意識はいまもまったく色褪せていない。いや,それどころか,いっそう重要になっているかもしれない。特に消費財企業において,典型的には電機産業において。

日本の製造業が付加価値率の低落傾向から脱却するために,著者は「ものづくり」から「価値づくり」への転換を提唱する。特に重要なのは,機能的価値より意味的価値だ。その模範として挙がるのが iPod や iPhone などアップル製品, BMW やポルシェである。

価値づくり経営の論理
―日本製造業の生きる道
延岡健太郎
日本経済新聞出版社

意味的価値は主観的だが,機能的価値は客観的である。野中郁次郎氏によれば,暗黙知がいずれ形式知化されるように,意味的価値は客観化され,機能的価値へと転化し得る。価値づくりで勝ち続けるには,新たな意味的価値をつねに生み出していく必要がある。

意味的価値はマーケティングでいう知覚価値と近い概念だが,「知覚」ということばは受け身な印象を与えると著者はいう。むしろ,サービスドミナントロジックのいう「価値共創」とみなすべきだと。「意味」は,顧客の参加なしには成立しない,ということだ。

iPod の話題から価値共創の議論へと進むあたりが,ぼくにとって最も興奮を覚える箇所であった。iPod やポルシェの意味的価値は顧客と共創されたと考えることで,ラマスワミらが展開した Nike+ に代表される価値共創論とは違う次元の議論を展開できるかもしれない。

本書はその後生産財における意味的価値について語り,さらに価値づくりのための組織能力を論じていく。そこはもちろん本書の白眉だが,ぼくには上述の問題提起が心に残った。ジョブズとぼくが何かを共創してきたなんて,何と素晴らしいアイデアだろうか!