Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

介護のマーケティング

2007-05-20 23:58:51 | Weblog
介護サービスではオペレーションのかなりの部分が,サービス受益者との接点で行われる。サービスは一般に生産と消費の同時性という特徴を持ち,介護もまたその例外ではない,ということだ。そこで,顧客との接点をマネージする(サービス)マーケティングの出番となる・・・といいたいところだが,ことはそう簡単じゃない。

前のエントリでも触れたが,介護サービスでは,要介護度が高いほどサービスの受益者がサービスの選択を行えなくなる。したがって,マーケティングのターゲットは,選択を行う家族やケアマネジャーになる。彼らは(多くの場合)高齢者の効用を予測して選択すると想定されるが,それはどこまで正確か。実際の利用者から,どこまで満足/不満足のフィードバックを得られるか。その意思決定に,高齢者の効用と相反する要素が入らないか・・・。

こうした,きわめて非対称的な代理関係は,これまで経済学やゲーム理論の問題ではあっても,マーケティングの問題ではなかったように思う。受益者と選択者の乖離に目をつぶり,選択者だけをターゲットと考えれば,従来のマーケティングのアプローチですむ。しかも,施設への入所の場合はスウィッチングコストがきわめて大きく,いったん契約したところでマーケティングはほぼ終了する(顧客獲得が維持に比べ圧倒的に重要になる)。そのような状況のもとで,セールスの実態がどうなるかについては,前出の週刊ダイヤモンドの記事でびっくりするような事例が報告されている。

そう考えると,マーケティング・サイエンスが人間の振る舞いについていかに脳天気で,単純にしか考えてこなかったかがわかる。人間の利害が厳しく対立したり,モラルハザードが起きたりする厄介な状況では,少なくとこれまでのマーケティングモデルではうまく行きそうにない。どこまでマーケティングが引き受けることができるかを含め,重い宿題だと思う。

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