Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JAWS2010@富良野

2010-10-31 23:20:27 | Weblog
新富良野プリンスホテルで開かれた JAWS2010 に参加した。正式名称の「合同エージェントワークショップ&シンポジウム」が示すように,社会シミュレーションのためのエージェントベース・モデルから意思決定や作業を支援する純工学的なエージェント技術まで,カバーされる範囲は非常に広い。しかし,研究分野はお互いに少しずつオーバーラップするようでもあり,朝から晩までさまざまな企画が立てられ,お互いの交流が促進されている。

ぼくの目から見れば,参加者のほとんどは何らかの意味で情報科学/工学の専門家であり,結局は同じ分野の研究者であり,自分とは少し違う文化に属している。だからなのか,ぼくが発表を聞いて面白いと感じた研究は,この会合のプログラム委員による査読,あるいは参加者たちによる投票で,必ずしも高評価を得ていないようである。そうしたギャップは,ぼくが異なる分野を代表しているからでなく,単に変わり者(あるいはバカ)だから生じたのかもしれない。

だから,ぼくに評価されるのは当事者にとって迷惑かもしれないが,感想を書いてみる。最も興味深かった研究は,
みんなの意見の代弁者による商品マイニング手法の提案:上原 徹也,沢村 一(新潟大学)
であった。それは,amazonにおけるマイナーな書籍(ぼくとしてはロングテールのテールと呼びたい)に対する書評を,いかに信頼性のあるものにするかという問題意識に立つ。マイナーな本は読者が少なく,「偏った」見方が書評に現れる可能性がある。しかし,同じ評者が他の書籍,特にメジャーな書籍も書評しているならば,それを「みんなの意見」と比較できる。「みんなの意見」が正しいとするなら,それに近づけるよう評者の意見を補正できる。

「みんなの意見」にそったリコメンデーションが誰にとっても有用とはいえないだろう。では,どれだけの人々に有効か・・・それはまさに実験・実証すべき課題であり,今後の研究が楽しみだ。しかし,ここで強調したいことは,実証する価値のある仮説を思いつくことの素晴らしさだ。みんなの意見をマイナーな書籍の書評の評価に使うという一種逆転の発想を称賛したい。そこから,メシャーなアイテムとマイナーなアイテムへの選好のつながりが見えてくるとうれしい。

個人的趣味でいうと,
攻撃状況に応じた要求機能の定量化法:角井勇哉,荒井幸代(千葉大学)
にも大いに興味をそそられた。仰々しいタイトルからは想像しにくいが,その中身はプロ野球の代打選択戦略をデータに基づき検討したもの。発表者に懇親会でなぜ代打なのかと聞いたところ,すでに先発メンバー選択モデルを完成させ,近々『オペレーションズ・リサーチ』誌に掲載されるという。この研究,千葉ロッテマリーンズと組めばもっと発展するのでは。ぼくはカープ向けにそういう研究をしたい・・・。

Twitterを題材にした研究は
マイクロブログを用いたセンチメント分析に基づく評判動向およびトピック抽出法の提案:橋本和幸,中川 博之,田原 康之,大須賀 昭彦(電気通信大学)
だけである。政党に対する tweet をセンチメント分析し,その変化点でのキーワードを探るとともに,世論調査との関係を調べてみる。すると,tweet に一定の予測力があることがわかったという。マスメディアの世論調査と Twitter「世論」との食い違いが一時期議論されたが,「適切な」加工を施せばその間を関係づけることができるかもしれない。

発表会場に Wifi が届かないこともあり,この会合はハッシュタグ#jaws2010を用いた tweet も低調であった。ただし,ブログと Twitter のログデータを用いた企画セッションには,10件も応募があった。そのうちの1つが
クロスCGM コミュニケーションに対するエージェントベース・アプローチ:水野 誠(明治大学),森 俊勝,高階 勇人,新保 直樹,田内 真惟人(構造計画研究所)
であり,いうまでもなく今回自分が行ったトークである。他にもマーケティングをテーマにした提案がいくつかあり,その自体は喜ぶべきこと。現時点ではみんな夢を語るだけ。どういうエージェントモデルができるか,それは発表のある1年後のお楽しみである。

他にも興味を引いた研究を挙げておこう(3トラックあるので聞き逃した発表も多い)。
マルチエージェントシミュレーションによる政策評価の有効性 ~農業政策を例に~:西山 直樹,中崎 律,坂平 文博,脇山 宗也,船本 林太郎,城 沙友梨(構造計画研究所)

ネットワーク上の感染症伝播における主要因子の抽出法:湯浅 友幸,白山 晋(東京大学)

少数派ゲームにおける社会的効率に混雑情報の伝搬確率が及ぼす影響:河又 裕士,秋山 英三(筑波大学)

パラメータ推定を利用したSNS成長モデルの提案:神谷達幸,鳥海不二夫,石井健一郎(名古屋大学)

条件付きリスク行動の進化論的分析:岡田勇(創価大学),山本仁志(立正大学)
いずれも手堅い研究で,いろいろ勉強になった。その一方で,興味を惹かれたのにセッションが重なったり,発表がキャンセルされたりして聞けなかった研究が以下。いずれ予稿を読んで見たいと思う。
囚人のジレンマゲームにおける主観的効用の進化:森山甲一,栗原 聡,沼尾正行(大阪大学)

指導者ゲームにおける階層社会の進化:秋山 英三(筑波大学)

Behavior of Jealousy in Multi-Agent Simulation, Khrisna Ariyanto, Akira Aiba (Shibaura Institute of Technology)
基調講演はグーグル株式会社の村上憲郎名誉会長による「グーグルのグリーンITへの取り組み」と IBM 東京基礎研究所の所長であった丸山宏氏による「Cyber-Physical Systemsによる社会変革と、情報技術への挑戦」の2件。その両方で,インターネットが人と人だけでなく,人とモノ,モノとモノまで結びつけるようになったこと,この技術を用いて環境問題の解決を図ろうと,グーグルや IBM のようなグローバル企業がイニシャティブをとろうとしていることが語られた。

これは掛け声だけでなく,すでに世界中でいろいろな試みがなされている。ダイムラーベンツが自動車を生み出したことへの責任を果たすと宣言するように,IBM やグーグルもまた地球に対するある種の責任を果たそうとしているのだ。飽くなき成長への渇望と同時に,巨大なスケールでの社会貢献を構想する「胆力」には感嘆するしかない。日本企業にも頑張ってほしい・・・というだけでなく,研究者として,このようなスケール感で考えることができたらと思う。

会場となった富良野の「近く」で以下のような看板を見かけた。周りには,この寒さのなかで咲いている花もある。こういうエコシステムに励まされながら,明日も生きていこう。



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