Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

伝えたい相手に伝えたい

2008-11-18 23:33:58 | Weblog
昨日のセミナーで聞いた重要な問いかけは「伝えたい相手に伝える」ことができるか,ということだ。広告関係者にとって,一見当たり前に聞こえることばだが,その含意は思いのほか奥深い。クリエイターの仕事を評価するときの本質は,そこにあるように思う。万人が喜ぶメッセージにはインパクトがない。多くの誤解を生み,非難されたとしても,伝えたい相手から絶賛されるのであれば,そのキャンペーンは成功だといえる。分母の広い評価には全く意味がない。

ということは,クリエイターとは何かを研究するとき,その鏡像としての「伝えたい相手」が不可欠の部分になる。それは,いわば community of taste とでもいうべき関係だ。だから,クリエイターの内部を探るだけでなく,その外延を探ることが重要だ。ある一定の範囲で共有されるテイストがまず大前提としてあって,さらにスキルが加わればクリエイティブな仕事が完成する。スキルに注目するならば組織論の問題だが,テイストに注目すると,必ずしもそうではなくなる。

この点で興味深いのが,MarkeZineニュースに紹介された,米国の iPhone ユーザに関する調査結果だ。iPhone が意外と広告によって支えられている,という点も面白い。

 iPhoneのコンバージョン率は決して高くなかった

いくつかポイントをピックアップすると・・・

- iPhone 購入検討者が実際購入した比率(コンバージョン率)は競合に比べ圧倒的に低い
- iPhone ユーザは高所得者比率が高いほか,ヒスパニックの比率が高い
- iPhone ユーザの7割は携帯電話(=iPhone?)で音楽を聴いている(競合に比べ圧倒的)
- iPhone ユーザの満足度 89% は,業界平均71% を上回る
- iPhone の広告費が AT&T 及び Apple にとって負担になっている(根拠不明)

コンバージョン率が低いというのは,iPhone はそれなりの注目を集めるものの,いざとなると多くの潜在顧客が尻込みしてしまう,敷居の高さがあることを意味している。この関門をくぐり抜けた顧客にとっては,満足度は非常に高い。だから,ありていにいえば「相手を選ぶ」製品なのだ。そこで,「やはり森公美子さんのような人に、いきなりiPhone売っちゃいけなかったね」という「議論」にもつながっていく。誰も彼もを分母にした評価は,クリエイティブな製品には意味をなさない。

iPhone ユーザの所得が高いのは何となく納得がいくが,ヒスパニック系の人々が多いのはなぜだろう? 彼らはつねに音楽とともにありたい,ということなのか。

今日は,2年向けのコース説明会。2つの教室に分かれて行われたが,私語の多さ,ざわつきが多少違う。学生たちがほぼランダムに振り分けられたのだとしたら,これは,少数の誰かが私語を始めるという,ゆらぎがもたらした差異なのだろう。ただどちらにも,教室の比較的前のほうに座って,真剣な眼差しを向ける学生たちが一定数いる。彼らのなかで,さらに大勢に従うことよしとせず,新しい価値を世のなかに提供したいと思っている学生が,今日のぼくにとって「伝えたい相手」だ。さて,その成果やいかに?
 

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