Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ロングテールの誤解

2006-08-14 10:09:42 | Weblog
ロングテール論はパレートの法則(80:20の法則)を否定する,新たなビジネスモデルを提案しているという。しかし,The Long Tail を読むと,こうした言い方には誤解を招きやすい部分があることがわかる。Anderson は,消費者のアイテム別需要がベキ則に従うとする。これは,従来型ビジネスでもEビジネスでも変わらない(ただし前者では,テールの先が切断される)。

違いは,従来型ビジネスでは収入が集中するヘッドの部分を重視してテールを切り捨てる戦略が推奨されてきたが(CRM!!),一部のEビジネスにおいて,ITを用いてテールの部分からも幅広く利益を上げる戦略が登場してきた点にある。テールから上がる収入がどれだけかについて,確かに過去に過大な数値が出されて問題になったが,Anderson はこの本でそのあたりを軌道修正している。さらにいえば,現段階でそうした数値を議論することが,さほど重要とは思われない。

ロングテール論には他にも批判がある。たとえば東谷暁氏は,ロングテール論は実証的基盤を欠いているという(文藝春秋8月号)。The Long Tail にはいくつか数値を伴う事例が出ているが,もっと「科学的な」扱いが必要だというのだろうか。その点ではすでに Brynjolfsson たちの研究があるし,こうしたおいしいテーマを米国を中心とする一騎当千の研究者たちが見逃しているとは思えない。反証も含め,今後続々出てくるだろう。あの Hal Varian が Google の研究員をしているというのも,どういう目的か知らないが,期待が持てる。

マーケティング・サイエンスの立場からも,いくつか興味深い研究課題を想定できる。いまそれを某学会誌の依頼で書いているが…締め切りに間に合うか。

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