Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS部会@明治大学(駿河台)

2010-01-27 23:52:09 | Weblog
昨日はJIMS「消費者行動のダイナミクス」部会を初めて明治大学駿河台校舎で開く。間違って,いつも通り新中野に行った人がいないかと心配したが,おそらく大丈夫だったようだ。

今回は経済物理学の新進気鋭の研究者をお二人お招きした。まず一橋大学の水野さん。今回は,小売データに関する研究をご紹介いただく。まずはコンビニでの1回あたり購入金額がべき分布に従うという分析。1回で信じられない金額を使うお客がいる。従来なら異常値として処理されたケースだが,経済物理学ではそうしない。べき分布にフィットするなら,それは意味があると考えるわけだ。

特に興味深かったのは,個人ごとのアイテム別購入量もまたべき分布にしたがうという話だ。もし個人がランダムに買っていたり,あるいは最も選好するものを買うだけであれば,べき分布にはならない。選好にノイズを仮定するのは離散的選択モデルも同じだが,そこからべき分布する品目別購入量分布を導き出せるか・・・。実務的にはロングテール論ともつながる,非常にエキサイティングな発見だ。

ついで,べき分布は正規分布と違い,サンプルを増やしても分散等の統計量が収束しないことが指摘され,聴講者との間で議論が盛り上がる。最後は,オンライン・ショッピングにおける一物一価の不成立という話題。価格.comのデータから,価格の順位別クリック確率が指数分布にしたがうことが示され,それを説明するシンプルな確率モデルが提案される。経済物理学らしいアプローチである。

さて,次に東工大の佐野さんが,ブログのクチコミデータに対する一連の研究を報告する。膨大なブログデータ上でどのような語がどの程度出現するかは,適切にノイズを除去すると実社会の動きと高い相関を持つことが示される。一方,ブログには時期に関係なく日常的に使われる語も頻繁に現れる。こちらは,語の出現頻度の平均と標準偏差の間にべき則(両対数グラフで線形の関係)が成り立つ。

さらに,個々のブロガーの行動が分析され,個人ごとの語の使用頻度や書き込み回数にべき分布が見出される。しかし,マーケターにとって最も興味深いのは,ある語を誰かが発し,それが繰り返されるだけでなく,他者へと伝播するプロセスだろう。そこで新たな視覚化の方法が導入され,モデルが提案される。これは,製品・サービスの普及プロセスにも応用できる,かなり強力なアイデアだ。

経済物理学は元来はファイナンス領域で発展したが,いまやマーケティング領域でも大きな成果を収めつつある。マーケティングにおける科学を語ろうとする者にとって無知であることは許されない。なぜなら,経済物理学は大規模データから統計的な規則性を見出すところから出発するからだ。それは,最終的にどのようなモデルを構築するにせよ,考慮に入れなくてはならないものである。

そして,焼き鳥屋にあった赤と白のワインの在庫をすべて飲み尽くすという懇親会。ぼく自身は大いに楽しんだが,ずるずると遅くなってしまい,ご迷惑をおかけした人も何人かいたかもしれない・・・。

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