Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Social Simulation Conference@Barcelona

2014-09-15 09:36:21 | Weblog
9月1日から5日まで、バルセロナ自治大学で開かれた Social Simulation Conference に参加した。会場となった大学のキャンパスは、バルセロナ市内のカタルーニャ駅から電車で約40分という郊外にある。校舎は全体に灰色っぽく、日本のどこかの大学に似ている感じがする。



この会議は European Social Simulation Association (ESSA) とともに Artificial Economics Conference と Simulating the Past to Understand Human History の共催で開かれた。最後のグループは、歴史学や人類学、考古学への Agent-Based Modeling (ABM) の適用を目指す。

冒頭の基調講演は『人工社会』で有名な Joshua Epstein から Rainer Hegselmann に代わっていた。だが、この交代は結果的に正解だったかもしれない。そこで取り上げられたのは、Schelling と同時期に(あるいは先立って)分居モデルと似たモデルを提案した研究者の話である。

その男の名は James Minoru Sakoda といい、日系米国人である。大戦中は米国内の強制収容所に押し込められた経験を持つ。1949 年に提出した博士論文で、すでに Schelling モデルに近いものを提案している。博論の指導教員になかに、グループ・ダイナミクスで有名な Kurt Levin の名前もある。

ただし、ジャーナルへの発表は Schelling が 1969 年(AER)で、Sakoda の 1971年( J. of Math Sociology )よりも早い。Hegselmann によれば、Sakoda モデルは Schelling モデルを部分として包含し、一般性が高い。実際にコンピュータを使って計算した点でも先進的だという。

その後の2人の人生は対照的である。Sakoda はいくつかの大学で教鞭をとると同時に、折り紙の普及で活躍したようだ(彼の名で検索すると、折り紙関係の記事が多数現れる)。そして、Schelling がノーベル経済学賞を受賞した 2005 年、Sakoda は亡くなった。

・・・とまあ、ABM に関心がある人間にとって、こういう学説史的(あるいは歴史こぼれ話的?)な話題は大変興味深いものである。講演の最後を、重大な発明(発見)をしながら無名で終わるためにどうすればいいか、という教訓で締めくくるあたり機知に富んでいる。

Micromotives and Macrobehavior
Thomas C. Schelling
W W Norton & Co Inc

個別の研究発表でもいろいろ興味深い話を聴けたが、最も印象に残った1つが Kenneth Comer の報告だ。zero-intelligence trader model において、エージェントが行動を起こす(活性化される)タイミングをどう定式化するかで、系全体の振るまいが変わる可能性が検討されていた。

ABM のモデリングは往々にして新規性だけを重視し、アドホックになりがちだ。そうではなく、過去の研究の流れを継承し、標準的なモデルをいろいろいじることで頑健性を調べる研究が、ABM が科学に貢献する道である・・・などということを考えさせられた。

日本からの参加者はけっこういて、私が聴いた範囲でも、サービスドミナントロジックに基づく顧客行動、空港でのチェックインの効率化、オンライン・コミュニティの盛衰、金融と実物経済のリンケージ、社会的ジレンマ、沈黙の螺旋など、様々なテーマが追求されていた。

私自身は、ポスターで "Simulating Value Co-Creation in B2B Financial Service: An Application of Empirical Agent-Based Modeling" を発表した。簡単にいえば、顧客満足→収益の変化という動的な計量モデルと、満足度の伝播という ABM を統合することを目指した。

とはいえ、まだ萌芽レベルであり、今後もっと発展させる必要がある。顧客満足や収益に影響する具体的なサービス・ドライバーの組み込み、従業員の意識や満足度の導入、など、まだやるべきことは山のようにある。Comer 氏が行ったような頑健性テストも必要だ。

以下の写真は本会議のディナー会場となったレストランから見える風景。隣りに座った、マドリードの北西方向にある小都市から来たという研究者と話すなかで、バルセロナの独立志向について話題にしたが、現時点で思えば、適切ではなかったかもしれないと反省。


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