Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

広告は社会を映す鏡であり続けるか

2018-10-26 13:17:27 | Weblog
今年の1月に発売された『広告で社会学』。著者の難波功士さんは広告クリエイターとして活躍した経歴を持つ社会学者。広告やメディアを研究対象にした著作もあるので、本書を「広告の社会学」だと思ってしまいがちだが要注意。「広告の」ではなく「広告で」なのである。

つまり、本書は具体的な広告表現をつうじて社会学について学ぶ本であり、社会学について知っておくべき諸概念が列挙されている。いや正確にいえば、社会について学ぶ、といったほうがいいだろう。だから、この本は広告以上に、日本社会を記述する統計図表で溢れている。

広告で社会学
難波功士
弘文堂

取り上げられるテーマは「自己、インタラクション」から「家族、親密圏」「教育、学校」「医療、福祉」へと進み、「藤堂、消費」「階層、格差」を経て最後は「政治、権力」で終わる(全15章)。これらを理解しておくことは、現代を生きるマーケターにとって必須である。

ありがたいのは、そのテーマに関心があるなら読み進むべき文献が、著者の短い解説とともに紹介されていること。おかげで、それまで全く知らなかった興味深い研究に出会い、何冊か文献を買うはめになった。したがって、本書の題名は「社会学の広告」でもいいかもしれない。

なお、本書で紹介される広告は公共広告や企業広告が多く、私が知らなかったものばかりである。有名企業やブランドの広告を書籍に載せるにはいろいろ制約があるのだろう。特に社会学の文献ともなると、企業にとって宣伝になることばかり書いてくれるという期待を持ちにくい。

もう1つの可能性は、いまや有名企業やブランドの広告からは、社会を象徴するような表現を生み出すパワーがなくなった、ということだ。もちろん、広告というメディアにそんな力はいらない、という議論もあり得るだろう。広告について再考するうえでも本書はオススメである。



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